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ぱせりさん
ぱせり
レビュアー:
ひときわ美しい描写が、悲劇を際立たせる。
おさななじみの少女アニィを恋する二人の少年、船乗りの倅イノック・アーデンと粉屋の倅フィリップ・レイ。
大人になり、アニィの心を射止めて結婚したのはイノックだった。愛する妻と子どもに恵まれて幸せな家庭を築いていたが、愛する家族にさらなる富をもたらしたいと、止める妻を残して、航海に出る。


悲劇が待っているのである。
関係者一同、だれも悪者なんかいないのに。むしろ、愛情深く誠実な人たちである。
どうすればよかったのか、と考えてもわからない。どうにもならなかったのかもしれない。


家族のために出かけるのだ、とイノックは言うけれど、子を抱えた妻は夫に出かけてほしいなんて、これっぽっちも思っていなかった。地道に暮らしていれば、ほどほどの生活を続けていければそれでよかった。
でも、イノックは
「一度思い立ったら最後、手を付けて、思いのままやり遂げずには済まない男」だったという。生まれながらに夢想家であり、野心家であり、なによりも冒険者だったのだ。
悲劇の始まりは、逆向きに思える二つの願いを、どちらも妥協せずに叶えようとした事ではないか、と思う。


美しい物語詩だ。
望み潰えた一人の人間が、遠くから故郷(幸福のありか)を思いやる場面、あるいは人知れず暗く冷たい場所から、明るくあたたかい場所を覗き込む場面など……手の届かない美しい描写が、男の孤独を、悲劇を際立たせる。
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ぱせり
ぱせり さん本が好き!免許皆伝(書評数:1739 件)

いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。

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