hackerさん
レビュアー:
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「だから教えてほしいんだ
どんな言葉でもかまわないから
どうして空はまるごとひとつなのに
地上は境界線だらけなの?」(作者の詩『空はみんなのもの』より)
本書は『チロリン村とくるみの木』の元ネタです。
「笑いがポジティブな役割を果たすためには、その矛先が、古くさい考え方や、変化に対する恐怖心、わけもわからずに規則を信じる姿勢などに向けられる必要がある。私たちの物語においては、順応主義に反対する”ずっこけた登場人物”が成功を収めなければならないし、当然なことに規律に対する彼らの”不服従”こそが報われなければならない。世の中を前進させるのは、ほかでもなく、服従を拒否する人たちなのだから」(作者著『ファンタジーの文法』より)
本書は、イタリアのみならず20世紀を代表する児童文学者ジャンニ・ロダーリ(1920-1980)が1951年に発表した処女作になります。日本には1956年に岩波書店から翻訳が出て、同年から始まり1964年まで続いたNHKの人形劇『チロリン村とくるみの木』(黒柳徹子がピーナッツのピー子の声を務めました)の元ネタとなりました。
本書が発表された時代からお分かりのように、作者はファシズムの台頭期に青年時代を過ごし、第二次大戦には徴兵されませんでしたが、ファシズムに対するレジスタンス運動には参加していました。本書は、基本的に明るい話ではありますが、そういう暗い時代の影も色濃く感じられ、「作家は処女作に向かって成熟する」という言葉通り、ロダーリの原点のようなものが強く感じられます。内容を簡単に紹介します。
擬人化された野菜や動物がたくさん出てくる本書の主人公は、玉ねぎ(チッポッラ)父さんチポローネの七人の子供の頭の男の子チッポリーノです。ある日、国を支配するレモン大公の理不尽な怒りを買い、チポローネ父さんは終身犯として投獄されてしまいます。面会に行ったチポリーノに、お父さんは言います。
「世の中を見て回り、しっかり勉強するんだ」
「でも、ぼく、本を持ってないし、買うお金もないよ」
「本など必要ないさ。お前が学ばなければなrないものはただひとつ。”悪者”だ。悪い人に出会ったら立ちどまり、じっくりと観察するんだぞ」
「それから、どうするの?」
「そのときになればおのずとわかるだろうよ」
そして、旅に出たチポリーノは、実際にたくさんの”悪者”に出会います。そして、裏切りも経験し、お父さん同様投獄されたりもします。なかでも、メッセンジャーとして重要な役割を果たすクモが、任務半ばでニワトリに食べられてしまうのは衝撃的です。ですが、ラストでは、チポリーノは革命(!)を起こし、共和国の旗(!)を、国を支配していたレモン大公の城に掲げるのです。この辺りが、並みの児童文学と違うと同時に、書かれた時代を強く感じさせる展開です。
しかし、もちろん友情の大切さ、出会った仲間たちとの連携、平和の大切さも強く訴えています。本書の最後の文章は次のようなものです。
「この広い世界には、レモン大公のほかにも悪い君主がいて、お城をかまえています。ですが、そのうちに一人、また一人と姿を消していき、君主がふんぞりかえっていたお城で子どもたちが楽しそうに遊ぶすがたが見られるようになるでしょう。きっとそうなると信じています」
とりあえず、アメリカの「悪い君主」がいなくなることを、まずは願っています。
ただ、そういう側面ばかりでなく、結構ドタバタもあって、基本的には楽しい本であることは強調しておきます。
「だれが追いかけっこをしていたかというと、逃げた囚人のゆくえを追うミスター・キャロット、ミスター・キャロットを探しているプチレモン兵、プチレモン兵を探しているレモン大公、チポリーノを探しているブドウ親方を隊長とした仲間たち、ブドウ親方たちを探しているチポリーノとサクランボウ坊や、チポリーノを探しているカブコちゃんたち、そして、サクランボウ坊やを探しているトマト騎士とパセリ卿...といったぐあいです。
それだけでなく、あ、やっぱりと思う人もいるかもしれませんが、地面の下ではモグラおばさんもみんなのことを探していました」
そして、ホームズとワトソンの傑作なパロディを、探偵のミスター・キャロットと助手の犬のポインターが見せていることも特筆しておきたいです。
本書は、イタリアのみならず20世紀を代表する児童文学者ジャンニ・ロダーリ(1920-1980)が1951年に発表した処女作になります。日本には1956年に岩波書店から翻訳が出て、同年から始まり1964年まで続いたNHKの人形劇『チロリン村とくるみの木』(黒柳徹子がピーナッツのピー子の声を務めました)の元ネタとなりました。
本書が発表された時代からお分かりのように、作者はファシズムの台頭期に青年時代を過ごし、第二次大戦には徴兵されませんでしたが、ファシズムに対するレジスタンス運動には参加していました。本書は、基本的に明るい話ではありますが、そういう暗い時代の影も色濃く感じられ、「作家は処女作に向かって成熟する」という言葉通り、ロダーリの原点のようなものが強く感じられます。内容を簡単に紹介します。
擬人化された野菜や動物がたくさん出てくる本書の主人公は、玉ねぎ(チッポッラ)父さんチポローネの七人の子供の頭の男の子チッポリーノです。ある日、国を支配するレモン大公の理不尽な怒りを買い、チポローネ父さんは終身犯として投獄されてしまいます。面会に行ったチポリーノに、お父さんは言います。
「世の中を見て回り、しっかり勉強するんだ」
「でも、ぼく、本を持ってないし、買うお金もないよ」
「本など必要ないさ。お前が学ばなければなrないものはただひとつ。”悪者”だ。悪い人に出会ったら立ちどまり、じっくりと観察するんだぞ」
「それから、どうするの?」
「そのときになればおのずとわかるだろうよ」
そして、旅に出たチポリーノは、実際にたくさんの”悪者”に出会います。そして、裏切りも経験し、お父さん同様投獄されたりもします。なかでも、メッセンジャーとして重要な役割を果たすクモが、任務半ばでニワトリに食べられてしまうのは衝撃的です。ですが、ラストでは、チポリーノは革命(!)を起こし、共和国の旗(!)を、国を支配していたレモン大公の城に掲げるのです。この辺りが、並みの児童文学と違うと同時に、書かれた時代を強く感じさせる展開です。
しかし、もちろん友情の大切さ、出会った仲間たちとの連携、平和の大切さも強く訴えています。本書の最後の文章は次のようなものです。
「この広い世界には、レモン大公のほかにも悪い君主がいて、お城をかまえています。ですが、そのうちに一人、また一人と姿を消していき、君主がふんぞりかえっていたお城で子どもたちが楽しそうに遊ぶすがたが見られるようになるでしょう。きっとそうなると信じています」
とりあえず、アメリカの「悪い君主」がいなくなることを、まずは願っています。
ただ、そういう側面ばかりでなく、結構ドタバタもあって、基本的には楽しい本であることは強調しておきます。
「だれが追いかけっこをしていたかというと、逃げた囚人のゆくえを追うミスター・キャロット、ミスター・キャロットを探しているプチレモン兵、プチレモン兵を探しているレモン大公、チポリーノを探しているブドウ親方を隊長とした仲間たち、ブドウ親方たちを探しているチポリーノとサクランボウ坊や、チポリーノを探しているカブコちゃんたち、そして、サクランボウ坊やを探しているトマト騎士とパセリ卿...といったぐあいです。
それだけでなく、あ、やっぱりと思う人もいるかもしれませんが、地面の下ではモグラおばさんもみんなのことを探していました」
そして、ホームズとワトソンの傑作なパロディを、探偵のミスター・キャロットと助手の犬のポインターが見せていることも特筆しておきたいです。
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「本職」は、本というより映画です。
本を読んでいても、映画好きの視点から、内容を見ていることが多いようです。
この書評へのコメント
- ぽんきち2020-11-02 22:25
あれ、これ新訳が出ていたのですかねぇ・・・?
私の読んだのは杉浦明平さんの訳で、本文で触れられている探偵コンビは、ニンジン探偵と犬のおとも屋でした。サクランボウ坊やはサクラン坊やでしたし。
http://webcatplus.nii.ac.jp/webcatplus/details/book/80093.html
これ、懐かしいです。
そうそう、政治的な影はありますけど、波乱万丈でドタバタ的なところも多いんですよね。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 
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- ページ数:382
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