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DBさん
DB
レビュアー:
炎の周りを飛ぶ男の話
初期キリスト教の世界を舞台にした小説です。
物語はゴルゴダの丘での磔刑のシーンで始まります。
かのルーベンスが、そして数多の巨匠が描いたキリストの磔刑。
それを少し離れた場所から見る人物がいた。
その人物、物語の主人公はバラバ。
強盗や殺人で収監されていた男である。

ポンテオ・ピラトの裁判でキリストの磔刑が決まった時に、キリストかバラバをユダヤ人の習慣によって釈放しようという提案で選ばれたのがバラバだった。
もちろんそこにバラバの希望が入るわけでもなく、キリストの死刑とバラバの釈放を求めたのはユダヤ人たちだったのだけれども。
死を逃れたのみならず自由の身となったバラバは、他人を寄せ付けずに自らの世界に浸り込んでいる。
犯罪者であったかつての自分が失われたかのように。

自分の代わりに死んだキリストについてその信者たちから聞いてみもしたが、信仰を持つようになるわけでもなく。
そんなバラバの周りではかつて情を交わした女や奴隷仲間がキリストの信者であるがゆえに殉教していく。
教えを聞いてみても、自分がその目にした十字架上のキリストの姿を思い起こしても、それが特別な存在であるとは思えない。
しかし忘れ去ることもできずにその人に接近してみようと彼なりに試みながら時は過ぎていく。

そしてバラバの晩年。
ローマ大火の罪を押しつけられたキリスト教徒と共に、バラバもまた囚われる。
そこで過去に一度話をした使徒の一人ペテロと再び見え、キリストと同じように磔刑に処されたバラバの最後の言葉は「おまえさんに任せるよ、おれの魂を」というものだった。
これは誰に向けての言葉だったのか。
キリストか、それとも彼が常に恐れ続けていた死神か、それとも文字通り鉄鎖でつながれた仲の奴隷だったのかもしれない。
謎を読者に投げかけて物語の幕は閉じる。

クオ・ワディスやベン・ハーと同じ時代を切り取っているが、受けるイメージは迷いである。
20世紀のスウェーデンで書かれた本だそうだけど、キリスト教徒としてそれなりに神を信じる人々にとってはどのように受け止められるのだろうか。
キリストが奴隷のように刑死したということ、そして「愛」というそれまでにない教え。
新たな宗教に悩みながらも近づいていく人間の姿が描かれていました。
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DB
DB さん本が好き!1級(書評数:2034 件)

好きなジャンルは歴史、幻想、SF、科学です。あまり読まないのは恋愛物と流行り物。興味がないのはハウツー本と経済書。読んだ本を自分の好みというフィルターにかけて紹介していきますので、どうぞよろしくお願いします。

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