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Yasuhiroさん
Yasuhiro
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萩洗会推薦 萩尾望都 厳選レビュー集2018 No.5: 萩尾望都SFの最高峰。その難解さと美しさは他の追随を許さない。SFマガジン読者をも驚嘆させた記念碑的傑作。
  萩洗会推薦厳選レビュー集2018もとりあえず5冊で一区切りをつけたいと思います。それにふさわしい作品を、と選んだのが「銀の三角」です。「スター・レッド」のレビューで「萩尾望都のSFの中で1,2を争う」と書きましたが、念頭にあったもう一つの作品は、「11人いる!」でも「百億の昼と千億の夜」でもなく、この作品でした。

  「銀の三角」は少女漫画家としてのみならず、SF作家として萩尾望都先生が、当時のSFの頂点である雑誌SFマガジンに本気で挑み、経緯はいろいろあったものの、1980-1982年の1年半も連載が続いた漫画でした。そして星雲賞を受賞しました。

  星雲賞に「コミック部門」ができたのが1978年ですが、初回が竹宮恵子(地球へ...)そして吾妻ひでお(不条理日記)、萩尾望都(「スター・レッド」、「銀の三角」、「X+Y」と三回受賞)、水樹和佳(伝説)、大友克洋(「気分はもう戦争」、「童夢」)と続いていきます。
  最近流行りの言葉で言えば、SF漫画が文学と同等あるいはそれを追い越したとの認識が広まったシンギュラリティ・ポイントがこの頃だったと思います。

  「銀の三角」について具体的に言えば、当時まだ漫画にこれだけのSFのアイテムが詰め込めるとは信じられなかったほど多用な要素が投入されています。

・時空人(時空間を自在に行き来できる存在)
・クローン人間
・不死の存在
・多次元
・星間飛行
・異星描写
・ノヴァ爆発

等。これだけのインパクトのある要素を文庫本一冊の分量に見事に纏め上げ、更には

・描画の美しさと斬新さ、従来の漫画手法の破壊

で、SFマガジン愛読者をも圧倒した作品です。

  まずは主要登場人物の描画が従来の少女漫画を超越しています。勿論普通の少女漫画風のキャラも沢山いますが、

・謎の時空人ラグトーリン
・クローン人間で3体出てくるマーリー、とりわけ哀しい存在であるマーリー・2
・魅惑的な歌声を持つ歌姫エロキュス
・銀の三角人の最後の一人ミューパントー
・禁断の存在ル・パントー

この五人の作画はもう芸術です。特に髪の毛の柔らかな線が画面全体を支配していくところなどは、モー様の作画のペン線が最も細かった時代になしえた幻想的な美しさ。

  そして全体の構成。「ポーの一族」などもそうですが、天才的なコマ割りと「コマの破壊」を行っています。そう、従来の四角いコマが行儀よく並ぶ漫画からははるか遠いところまで至ったのが萩尾望都の世界なのです。竹宮恵子もそうだ、と言われそうですが、彼女も含めて「花の24年組」が如何に凄かったか、ということがこの作品一本読むだけでもわかります。





  さて、前置きはこれくらいにして(ええっ!と言う声が聞こえる)、物語は、交響曲の第一楽章冒頭に全体を支配するモチーフがあるように、オペラに音楽の主題を提示する序曲があるように、壮大な物語を紡ぐにあたってのモチーフとなるエピソードから始まります。

いのりのあさ 6年に一度陽がさす惑星「銀にけぶる三角」に住む、金色の細長の虹彩の瞳を持つ、未来を読める種族。3万年前絶滅したとされているその種族の光景が描かれ、それを歌う謎の吟遊詩人ラグトーリンの歌が流れます。(その種族最後の一人がミューパントー(最後の銀の三角人)

・・・・・
夢のまひるに 金銀の四角 
四角 三角 
四角 六角 
六角 無限角
恒久沙角 ・・・・・
 

  その歌を聞いた歌姫エロキュス(ルルゴー・モア)は地球のチグリス・ユーフラテスの岸辺が故郷らしい。そしてラグトーリンの歌を聴いてからは中央の歌姫の地位を捨て、辺境の惑星トメイにいますが、革命に巻き込まれ死亡。

  そのエキュロスの意識系列のプリンティングを行ったのが、中央(セントラル)の「青耳」太陽系人マーリー・1。彼は時空移動能力を持ち、社会の変動指数を安定させる工作員。時空を転々と移動しエロキュスの歌の秘密がラグトーリンにあると知り、抹殺に向かうも逆に殺されます。

  マーリーを失うわけにいかない中央は急いでクローンにマーリーの意識を注入しますが、何らかのミスでエロキュスの意識も同時に注入してしまいます。この混乱した意識を持つクローンがマーリー・2。どうもこれは単純なミスではなく、ラグトーリンが絡んでいそうな感じがします。

  再度作られた初代マーリーとほぼ同じクローンがマーリー・3

  彼らと関わってくるのが赤砂地星の王子として生まれながら、金色の細長の虹彩の瞳を持って生まれたが故に忌むべき存在となったル・パントー(小さな銀の三角人)

  ラグトーリンの真の目的は、このル・パントーが発する最初で最後の声を止めること。ル・パントーの異形音は

時空の結晶を歪めてしまい、美しい波にゆれ、美しい音に響くべきこの世界がくだけちってしまう

から。

  これらの登場人物が、帆座Xの超新星化により消滅する運命にある「銀の三角」を始めとするガム星雲、中央「青耳太陽系」、赤砂地星、トメイと場所を変え、三万年の時を超えて出会い別れながら、終焉へなだれ込む物語です。

  これらの重要人物以外にも、マーリーの友人でエロキュスの歌声の海賊版を送りつけて物語を動かし、最後までマーリーに付き合うジェイフ、以前紹介したスピンオフ「左利きのイザン」に登場するプール博士、息子ル・パントーに精神を苛まれ無限に殺し続ける「赤砂地」の国王リザリゾ等の狂言回しを上手く使い、萩尾望都は読者を置き去りにするほどの猛烈なスピードで物語を進めていきます。

  
  
  この時期のモー様は本当に神がかっています。まさに「残酷な神が支配する」!

  

  閑話休題、ラグトーリンはル・パントーの最後の声を止めらるのか?マーリー・2の中のエロキュスはあの岸辺に帰れるのか?マーリー・3はマーリー・1の聞いたあの歌をもう一度聴けるのか?

  ラスト。マーリー・2はマーリー・3に殺されたにもかかわらず、エロキュスは実在となり、ラグトーリンにより、あの岸辺に送り届けられています。そこでラグトーリンの語ることは驚きの連続。

全ては無に帰し、時空の結晶のモザイクは正しく保たれた。

  しかし、エロキュスの中にル・パントーの記憶は残っている。ジェイフの書いたイタズラ書きは遠い未来に謎の古代種族の石碑として出土するかもしれない。マーリー・3は地球に行けばエロキュスに会えるかもしれないと夢想する。それはそれでかまわない、この世界を壊すほどのことではない、とラグトーリンは語ります。彼は一体何者なのか?「神」なのか?



  超難解なラストですが、SFとしては完璧。そしてあかつき姐さんが、登場人物の名前を一人も出すことなくレビューするという離れ業をやってのけた、あの最後の文章が深い深い余韻を残すのです。



感じ病みやすい この空間が
狂いだすまで

わたしもしばし夢狩りの
不安な歌を歌い続けよう




萩洗会厳選 萩尾望都 レビュー集

ポーの一族
ポーの一族~春の夢
ピアリス
美しの神の伝え
思い出を切りぬくとき
半神
スター・レッド
10月の少女たち



  
    • ラグトーリンとエロキュス
    • コマ破り
    • 見開きのクライマックス
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Yasuhiro
Yasuhiro さん本が好き!1級(書評数:513 件)

馬鹿馬鹿しくなったので退会しました。2021/10/8

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この書評へのコメント

  1. あかつき2018-03-21 10:23

    この頃の絵が一番好き……あの交響詩のような銀の三角人の大合奏シーンは鳥肌が立ちます.
    そしてラグトーリンの大きくないおっぱいも好き…

  2. Yasuhiro2018-03-21 10:28

    ですよね〜、原画展堪能すべし。って焼き粉まで巨乳好きか。ふむふむ。

  3. あかつき2018-03-21 11:35

    ちがう!毬胸が好きなの!程よい大きさの!!阿修羅くらいのちい胸も好き.

  4. Yasuhiro2018-03-21 11:39

    深キョンくらいかな。ちい胸は麻生久美子さんかな、怒られそう (^_^;)

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