紅い芥子粒さん
レビュアー:
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若い小説家の”ぼく”のもとに、無二の友の自死の報せが届いた。アフリカの無名の都市のホテルの浴室で、首を吊ったのだという。
1963年に発表された作品。大江健三郎28歳のとき。
主人公であり語り手でもある”ぼく”は、若い小説家だ。
その”ぼく”のもとに、斎木犀吉という無二の友の自死の報せが入る。
アフリカの無名の都市のホテルの浴室で、首を吊ったのだという。
日常生活を冒険のように生きた斎木犀吉。
”ぼく”は、その短い人生を振り返り、斎木犀吉の伝記を認める。
”ぼく”と犀吉が出会ったのは、”ぼく”が21歳の大学生、犀吉が18歳の高校生ときだった。出会った場所は、スエズ戦争の義勇兵の集会。
意気投合した二人は、ナセルの義勇軍に参加することに決めた。
”ぼく”の祖父に旅費まで出してもらい、いざ出発というときになって、”ぼく”はハシカを発症してしまい、犀吉ひとりで旅立った……どこへ?
ほんとうに義勇兵になったりしたら、とても生きては帰れなかっただろう。
義勇兵の募集は直前で中止になり、犀吉は、二人分の旅費を持って、ひとりで海外のどこかへ冒険しにいったのだった。
”ぼく”と犀吉が再会したのは、二年後だ。
犀吉はまだ二十歳だったが、もっと若い十八歳の妻を連れていた。
結婚していても、犀吉は自由だった。若い妻も、犀吉に負けず劣らず自由だった。
やりたいほうだいの日常生活。違法なこともするし、危ないことも平気でする。
犀吉は、美丈夫で頭がよく、才能にあふれていて、少し努力すればなんでもできた。女にも男にもモテて、なにか事を成そうとすると、お金を出してくれる人が現れる。パトロンになってくれるのは、財閥令譲や富豪の夫人で、お金のためなら犀吉は離婚も再婚も、ためらわない。
(”ぼく”に犀吉の死を報せてくれたのは、三人目のイタリア人の妻だった)
そんな犀吉が、”ぼく”の目にはまぶしく映る。
”ぼく”は、大学の友人の妹と婚約していた。
彼女と小市民的な家庭を築き、コツコツ小説を書いて生きていくつもりだった。
冒険は小説の中に閉じ込め、冒険とは程遠い日常生活を……
それは、青春との決別を意味した。
暴走気味の青春小説だが、文章の巧みさにつられて読んでいった。
比喩がおもしろく、本筋とはあまり関係のないエピソードが、感動的だったりする。
例えば、犀吉が香港から連れてきた猫が、四国で放し飼いされているうちに野生化し、猫の王になっていた話とか……
読み終えてから、斎木犀吉のモデルは、伊丹十三にちがいないと思った。
大江健三郎の無二の親友で、義兄でもあった伊丹十三。
こんなに若いころから、自死の予感があったのかと思うと、なんだか痛ましい。
主人公であり語り手でもある”ぼく”は、若い小説家だ。
その”ぼく”のもとに、斎木犀吉という無二の友の自死の報せが入る。
アフリカの無名の都市のホテルの浴室で、首を吊ったのだという。
日常生活を冒険のように生きた斎木犀吉。
”ぼく”は、その短い人生を振り返り、斎木犀吉の伝記を認める。
”ぼく”と犀吉が出会ったのは、”ぼく”が21歳の大学生、犀吉が18歳の高校生ときだった。出会った場所は、スエズ戦争の義勇兵の集会。
意気投合した二人は、ナセルの義勇軍に参加することに決めた。
”ぼく”の祖父に旅費まで出してもらい、いざ出発というときになって、”ぼく”はハシカを発症してしまい、犀吉ひとりで旅立った……どこへ?
ほんとうに義勇兵になったりしたら、とても生きては帰れなかっただろう。
義勇兵の募集は直前で中止になり、犀吉は、二人分の旅費を持って、ひとりで海外のどこかへ冒険しにいったのだった。
”ぼく”と犀吉が再会したのは、二年後だ。
犀吉はまだ二十歳だったが、もっと若い十八歳の妻を連れていた。
結婚していても、犀吉は自由だった。若い妻も、犀吉に負けず劣らず自由だった。
やりたいほうだいの日常生活。違法なこともするし、危ないことも平気でする。
犀吉は、美丈夫で頭がよく、才能にあふれていて、少し努力すればなんでもできた。女にも男にもモテて、なにか事を成そうとすると、お金を出してくれる人が現れる。パトロンになってくれるのは、財閥令譲や富豪の夫人で、お金のためなら犀吉は離婚も再婚も、ためらわない。
(”ぼく”に犀吉の死を報せてくれたのは、三人目のイタリア人の妻だった)
そんな犀吉が、”ぼく”の目にはまぶしく映る。
”ぼく”は、大学の友人の妹と婚約していた。
彼女と小市民的な家庭を築き、コツコツ小説を書いて生きていくつもりだった。
冒険は小説の中に閉じ込め、冒険とは程遠い日常生活を……
それは、青春との決別を意味した。
暴走気味の青春小説だが、文章の巧みさにつられて読んでいった。
比喩がおもしろく、本筋とはあまり関係のないエピソードが、感動的だったりする。
例えば、犀吉が香港から連れてきた猫が、四国で放し飼いされているうちに野生化し、猫の王になっていた話とか……
読み終えてから、斎木犀吉のモデルは、伊丹十三にちがいないと思った。
大江健三郎の無二の親友で、義兄でもあった伊丹十三。
こんなに若いころから、自死の予感があったのかと思うと、なんだか痛ましい。
掲載日:
書評掲載URL : http://blog.livedoor.jp/aotuka202
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読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。
この書評へのコメント
- 紅い芥子粒2023-11-26 17:16noelさん、おひさしぶりです。 
 
 大江健三郎夫人は、伊丹十三の妹なのです。
 伊丹十三の死を悼んで書いた大江健三郎の小説に、「取り替え子」があります。
 拙いレヴューですが、ご一読ください。
 https://www.honzuki.jp/book/36000/review/290769/クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。
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