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ゆうちゃん
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奇抜な書き出しの短編集の後に続く長編は、言わずと知れたイギリスの名探偵との対決である。ルブランは、優れたホームズもののパスティーシュを書いている。
アルセーヌ・リュパン・シリーズの長編第一作は、名探偵シャーロック・ホームズとの対決である。自分はこの作品と「水晶の栓」を、高校生の頃まで、電車で1時間以上かかる祖父母の家に行く時になぜか繰り返し読んでいた。祖父が亡くなり、祖父母の家に引っ越してからその習慣は廃れたが、30年以上経って、懐かしい作品を再読すると、手に汗握る面白い筋書きはそのままである。何度か読んでいるので、覚えている場面もあれば、読みながら次はこれだ、と思い出す場面もあった。そんな読み方でも、頁を繰る手は休みなく読める秀作である。本書は約200頁の「金髪の婦人」と約80頁の「ユダヤのランプ」と言う独立したふたつの事件からなる。

「金髪の婦人」
神出鬼没のアルセーヌ・リュパンが絡む事件が3件起きた。いずれもリュパンその人、その女友達とされる金髪の婦人が絡み、時には大勢の前でふたりが煙のごとく消えてしまうこともあった。それでもリュパンの宿敵ガニマール主任警部は、捜査を進め、金髪の婦人をド・レアル夫人だと特定した。そしてガニマール警部は、三人の被害者を集めた。リュパンに当たり籤の入った机を盗まれたうえに人質として娘のスュザーヌを誘拐されたジェルボア教授、叔父を金髪の婦人に殺され、また叔父の所有していた青いダイヤモンドを盗まれかけたオートレック男爵の甥、その青いダイヤモンドをその甥から競売で手に入れ、忽然と盗まれたクロゾン伯夫人である。ガニマール警部は、彼らの前でド・レアル夫人を首実検した。事件の経緯から三人はそれぞれ金髪の婦人を目撃している筈だが、皆、口を揃えて違うと言う。三つの事件の関係者は、このままガニマール警部に任せてもらちが明かないと、イギリスから名探偵シャーロック・ホームズを呼ぶことにした。苦虫を嚙み潰したような顔をするガニマール警部だが協力するしかない。
シャーロック・ホームズと助手のウィルソン(本書ではワトソンではなくウィルソンとされている)がパリにやってきた。偶然駅の近くのレストランでリュパンと伝記作者の「私」が食事をしているとホームズとウィルソンが入って来る。実はホームズは以前、リュパンに会っている(「怪盗紳士リュパン」参照)。ホームズはリュパンに気づき、その場では無粋なことはせず、紳士的に振る舞い4人はお互いを祝福して乾杯した。ホームズは10日でリュパン逮捕に持ち込むと豪語する。その後ホームズは依頼人であるクロゾン伯夫人にウィルソンを伴って会いに行くがリュパンの邪魔が入り捜査は難航する。しかし、三つの事件現場を観察することであることに気づき金髪の婦人に肉薄する。
「ユダヤのランプ」
ダンブルヴァル男爵のところからユダヤのランプが盗まれた。ランプ自身は特に価値のある物品ではないが夫妻はそこに宝石を隠していた。ダンブルヴァル男爵も、フランス司法当局の捜査は当てにならない、とホームズに依頼をする。しかしホームズがロンドンに居る時から、そしてパリに着いてからも、手紙、電報、果てはサンドウィッチマンを使ってリュパンはホームズに手を引かせようとする。リュパンの言うことを聞くホームズではなくダンブルヴァル男爵邸に乗り込むが、事件の跡から外部の犯行ではないとホームズは断言した。子供の絵本の切抜きから邸内から何か通信をしている者の存在が明らかになるのだが・・・。

本書のホームズは、もちろんドイルのホームズと違い、かなり強引で運任せの捜査をする。万能鍵などと言うご都合的な小道具もあって、筋書きもかなり強引だが、「金髪の婦人」ではホームズが啖呵を切った10日目が迫るなか、ホームズの後半の巻き返しはさすが名探偵と言いたくなるように描かれている。しかし、その容姿もドイルのものとは大違いである。助手のウィルソンは、完全に付け足し、「金髪の婦人」では骨折、「ユダヤのランプ」では胸に重症を負って、出番は殆どない。
リュパン対ホームズ、どちらが勝つのだろう、そしていずれが勝つとしてその勝ち方が気になるところである。表面的には
リュパン対ホームズ、探偵対怪盗、公平に言って勝者も敗者もなかった(279頁)。

であり、どっちが勝ちと解釈するか、読者次第と言った感じともいえる。だが本書の感心する点は、ミステリ界の二大有名人を対決させ、しかも読者の納得する結果を導いている点だろう。もちろん著者はルブランであるから最後には・・。だがこの結果はホームズ・ファンである自分が読んでもあまり反撥を感じない。
本書はリュパンが主人公であるが故、ホームズもののパスティーシュと言えるか微妙であるが、自分にはパスティーシュと思える。これまで多くのホームズもののパスティーシュを読んできた。パスティーシュではどんなに優れた作品でも、ドイルの書いたオリジナルと言う存在がある故★5個はつけてこなかった。しかし、このパスティーシュには★5個をあげても良いと思った。
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1687 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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