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darklyさん
darkly
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奇子は下人なのか。手塚治虫は長い話にする構想があったと聞くがここで話が終わることにより奇しくも羅生門のような読後感が生まれる。
下巻に入ると、天外家の混迷は更に拍車がかかり崩壊の一途を辿る。そのような中、奇子は家を脱走し、奇子にずっとお金を送っていた祐天寺富夫を探して東京に行く。祐天寺富夫とは仁朗の変名である。ずっと地下で暮らしていた奇子は当然ながら社会性は全く身についておらず周りの人間は困惑するが、天真爛漫な魅力が男たちを惹きつける。

暴力団同士の抗争、GHQの手先だったという過去の亡霊が甦る中、殺人を犯した仁朗は故郷の淀山に戻る。そこに奇子及び天外家の人間も加わり物語は衝撃のラストへ。

この物語に登場する男は一般的に言ってすべて「ろくでなし」と言えるでしょう。息子の嫁を犯す父、殺人者の息子たち、金の亡者であり、また奇子を犯そうとする親戚の医者、小さい頃から聡明で天外家の男では唯一まともだと思われた伺朗も奇子に魅了され強姦ではないが近親相姦を繰り返します。

唯一まともなのが、志子。志子は、仁朗が列車に轢かせた男の恋人であり、労働運動をしていたため天外家から追い出されましたが、その後結婚し幸せな日々を送っていました。この時代、アカと呼ばれて迫害された志子のみが実はまともな人間であったというのは、手塚さんの一種のアイロニーなのでしょうか。

天外家の人間のみならず、ほとんどの男たちは奇子に魅了されます。男たちは真剣に奇子を愛しますがこれも手塚さんのアイロニーが含まれている可能性があると思います。男たちが惹かれるのは奇子の天真爛漫な美しさです。社会性が全く身についていない奇子は正真正銘の天真爛漫です。そのように装うのは女性の一つの戦術であるかもしれませんが奇子はそうではありません。奇子を愛するということは精神的に対等な女性を愛するというよりも、守らなければならないという、いわゆる上から目線の男尊女卑の思想、意識しないまでも支配欲の現れであることを示唆したかったのかもしれません。

真の男とは自分より下とみた女性を支配するのではなく、精神的に対等な女性を心から天真爛漫にさせることができるだけの度量なり、魅力がある人のことを言うのでしょう。私には望むべくもないですが。

また男が思うよりも意外と女性はしたたかであり、男たちの心配をよそに世の中を渡っていくものだという考えもあるのかもしれません。それは、奇しくも長い物語を想定してた手塚さんが上下巻で終わらせたという結果が醸し出す余韻にあります。

奇子は、数奇な運命にあった女性ではありますが、女性の中に「奇子」性は多かれ少なかれあるものであって、それは過去から現在に至るまで奇子はどこにでもいるのだということをこの物語の最後に示唆しているだとも思えます。

P.S. 晩年の仁朗がどうしてもクレイジーケンバンドの横山剣さんにしか見えないのは私だけでしょうか。
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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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この書評へのコメント

  1. Tetsu Okamoto2018-05-24 01:04

    アップロードありがとうございます。学生時代に読んだときは運命の女に人生を狂わされるお男たちのファム・ファタール者と思っていました。ただ、21世紀にみると妹もの、というジャンルのマンガでの開拓なんですね。影響力はサブカルチャーの妹ものに広くおよんでいるのかもしれません。

  2. darkly2018-05-24 06:31

    コメントありがとうございます。なるほどそうなのですね!私はサブカルチャー自体に詳しくありませんので思ったことしか書けませんでした。しかし、時代とともに見方が変わっていくとすると手塚漫画の普遍性恐るべしです。

  3. No Image

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