あかつきさん
レビュアー:
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タニス・リーによるキリスト教道徳へのアンチ・テーゼ的神話。古風で香り立つような装飾的文体と、行間から滲み出る退廃美とエロティシズムがたまらない。
まだ世界が平らだったころ。
地底では妖魔の都が栄え、その都には絶大な魔力と美貌を誇る妖魔の王・アズュラーンが君臨していた。
彼は夜ごと人界を訪れ、その気まぐれな悪戯で数多の人間の運命を弄んで愉しみとしていた。
残虐非道な美の女王、
育て上げ寵愛した美青年、
生まれる前にふたつに引き裂かれた魂、
恋人を失った娘の涙から産まれた災厄の宝石、
求愛を拒んだがゆえに恐ろしい運命に堕とされた少女……
旧約聖書、ギリシア神話やエジプト神話を連想させる数々の物語が少しずつ絡み合い、より不幸且つ美しい物語へ紡がれていくさまが、華麗で繊細な文体で綺羅綺羅しく装飾されていく。
物語も素晴らしいが、訳が良い。
やや古風で、香り立つような文体。行間から滲み出る退廃美とエロティシズム。
翻訳小説で初めて、美しい日本語に出会ったと思った。
闇の公子たるアズュラーンは、ただ残酷で気まぐれなだけではなく、内部に矛盾を抱えた複雑な存在である。
彼は悪戯に災厄をまき散らすが、そこには彼なりの美学があり、また自分より下位の存在である人間の美を認めることすらある。
地上と地下の全てを支配する彼だが、その彼をもってしても唯一欠くべからざるもの、それが玩具であり娯楽である人間である。
彼の人間への思いは、既に『愛』であった。
人間を絶望に追い込む『憎悪』を生み出すのも彼であれば、その『憎悪』と唯一対抗できるモノも、あらゆる悪人の中でも最も邪悪とされる彼の『愛』であった。
闇の公子が種を撒き、人間たちの涙で育った『憎悪』が大きく成長して地上を覆い、いよいよ人類の滅亡が目前に迫ったとき、彼がとった行動とは。
物語の終盤、陽光の中に佇み『憎悪』と相対するアズュラーンの描写が美しい。
アズュラーンの消滅後、無垢ではあるが抑揚のない明るい世界が誕生する。
その世界に一条の闇が訪れ、アズュラーンが復活するその神々しさ、禍々しさ、そして美しさが圧倒的な描写でもって語られる。
闇があるからこそ美は美として存在し、
破滅があるからこそ生は限りなく愛おしい。
地底では妖魔の都が栄え、その都には絶大な魔力と美貌を誇る妖魔の王・アズュラーンが君臨していた。
彼は夜ごと人界を訪れ、その気まぐれな悪戯で数多の人間の運命を弄んで愉しみとしていた。
残虐非道な美の女王、
育て上げ寵愛した美青年、
生まれる前にふたつに引き裂かれた魂、
恋人を失った娘の涙から産まれた災厄の宝石、
求愛を拒んだがゆえに恐ろしい運命に堕とされた少女……
旧約聖書、ギリシア神話やエジプト神話を連想させる数々の物語が少しずつ絡み合い、より不幸且つ美しい物語へ紡がれていくさまが、華麗で繊細な文体で綺羅綺羅しく装飾されていく。
物語も素晴らしいが、訳が良い。
やや古風で、香り立つような文体。行間から滲み出る退廃美とエロティシズム。
翻訳小説で初めて、美しい日本語に出会ったと思った。
闇の公子たるアズュラーンは、ただ残酷で気まぐれなだけではなく、内部に矛盾を抱えた複雑な存在である。
彼は悪戯に災厄をまき散らすが、そこには彼なりの美学があり、また自分より下位の存在である人間の美を認めることすらある。
地上と地下の全てを支配する彼だが、その彼をもってしても唯一欠くべからざるもの、それが玩具であり娯楽である人間である。
彼の人間への思いは、既に『愛』であった。
人間を絶望に追い込む『憎悪』を生み出すのも彼であれば、その『憎悪』と唯一対抗できるモノも、あらゆる悪人の中でも最も邪悪とされる彼の『愛』であった。
闇の公子が種を撒き、人間たちの涙で育った『憎悪』が大きく成長して地上を覆い、いよいよ人類の滅亡が目前に迫ったとき、彼がとった行動とは。
物語の終盤、陽光の中に佇み『憎悪』と相対するアズュラーンの描写が美しい。
アズュラーンの消滅後、無垢ではあるが抑揚のない明るい世界が誕生する。
その世界に一条の闇が訪れ、アズュラーンが復活するその神々しさ、禍々しさ、そして美しさが圧倒的な描写でもって語られる。
闇があるからこそ美は美として存在し、
破滅があるからこそ生は限りなく愛おしい。
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色々世界がひっくり返って読書との距離を測り中.往きて還るかは神の味噌汁.「セミンゴの会」会員No1214.別名焼き粉とも.読書は背徳の蜜の味.毒を喰らわば根元まで.
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- ページ数:346
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