ゆうちゃんさん
レビュアー:
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傷痍軍人パトリスはあるきっかけで、病院で世話になった看護師コラリーの夫が殺された事件の捜査に携わった。事件を調べていくと赤の他人の筈のふたりに知られざる縁があることがわかった。
アルセーヌ・リュパンものの長編第七作目。
今回のリュパンの登場は後半からで、本書の実質的主人公は、傷痍軍人のパトリス・ベルヴァル大尉。彼は野戦病院(と言ってもパリにある)で知り合った篤志看護婦のコラリーを慕っていた。1915年4月4日、彼はレストランで偶然、コラリーを襲う計画を知り、仲間と彼女を助けた。しかし、襲撃者は捕まらず、パトリスは、その後もコラリーは危険にさらされていると思い護衛と申し出たが、彼女は拒絶した。パトリスは、それでも彼女の意思に反して護衛する覚悟を決めた。その晩、パトリスの所に差出人不明の鍵が届く。そして、レストランで耳にした会話を思い出してある地点に行くと、レストランで見かけた男とその仲間がいた。彼らの乗った車をタクシーで追跡すると、レーヌーアール街のある屋敷に着いた。彼らは5人組で屋敷の呼び鈴を鳴らしたが、実際は問答無用の押し入りで正門は閉じてしまった。パトリスは横丁の門に行き、届いた鍵を使うと開いたので建物に侵入し、2階の回廊から見下ろすと、5人組がこの家の主人を拷問にかけていた。回廊の反対側を見るとそこにはコラリーもいた。五人組とこの屋敷の主人の会話から、コラリーは拷問を受けている主人の妻だとわかるが、彼女は助ける気配がない。拷問を受けていた主人は五人組の頭目を思わぬ反撃で殺し、残り四人は何とか買収してその日は収まった。
パトリスは、その屋敷がエサレス・ベイと言う東洋系のフランス人の金融業者のものであることを知る。翌日の昼、そこでエサレス・ベイの死体が発見される。彼は押入った奴らを上手く躱した筈だったが・・。死体の肌着の隠しポケットには、何故か、数年おきに撮ったコラリーとパトリスの子どもの頃からの写真が何組かあった。パトリスは、自分が目撃したことを当局に話して捜査陣の一角に加わり、またコラリーの護衛役にも就けた。コラリーとパトリスは全く別に育ったのに、殺されたエサレスはなぜふたりの写真を持っていたのか?だがパトリスがコラリーに訊くと、パトリスの父もコラリーの母も同じ1895年4月14日に亡くなったことがわかる。そして、レーヌーアール街のエサレス邸の庭の手掛かりから、隣家に謎の答の一部があることを知った。ふたりは丁度、それぞれの親が亡くなった20年後の1915年4月14日に隣家に行くことにした。そこで見つけた両親の墓にお参りをした後、ふたりに関する謎の解明が出来るのではないかと隣家の建物に入って行ったがふたりは閉じ込められ、ガスが充満してくる。ふたりはそれぞれの父、母と同じように同じ日に死ぬ運命になのだろうか?
前作の「オルヌカン城の謎」は、第一次世界大戦を背景に、主人公のポール・デルローズとその結婚相手エリザベス・ダンドビルの不思議な縁と冒険の話となっていて、Wikiによれば営業的な理由でリュパンが登場したのだと言う。それ故、「オルヌカン城の謎」ではリュパンはほんの2頁くらい、チョイ役扱いだった。本書も第一次世界大戦を背景に、男女の不思議な縁と冒険の話となっているが、謎の解明にあたる第二部ではリュパンが大活躍、堂々の探偵役を演じている。前作も本作も、本来は縁がなさそうな筈の男女が恋に落ち、最後は結ばれると言う話になっているが、前作はどちらかというと戦争を背景にしたサスペンス色が濃厚で、本書は第一次世界大戦中ではあるが、それほど戦争色はない。強いて言えば輸出入やパリ、国境の出入りが厳しいと言う理由に戦争が使われている程度である。そう言う意味では、サスペンスを楽しむと言う風に作られた前作の男女の縁は、あり得ないほど偶然の暗合が続いて男女が結婚に至ったように描かれていて、そちらの筋書き作りは手抜きと言う印象を受ける。本書の方は、出来すぎの偶然はあるものの、男女の縁に関してはより蓋然性が高くなるようにそれなりの工夫はしてある印象だ。さらに、本格もの的な作品風となっていて、パトリスとコラリーを陥れる謎の人物が意外に思えるように工夫されている。リュパンの推理は根拠薄弱で強引な気はするが、謎の説明について細かい部分まで筋は通ったものになっている。
独立した作品と言える前作の「オルヌカン城の謎」と違い、本書では長編第4作の「813、続813」との関連が強く、「続813」の最後でモロッコに身を投じると言っていたリュパンが、本書ではモロッコから帰国したことになっている。なお、「813、続813」で首相だったヴァラングレー(新潮版ではバラングレー)は、本書では大統領に就任している。本書の記述を元にすると、この事件は「813、続813」の数年後の事件の筈である。リュパンは本書で400万フランほどの所得を得るが、怪盗紳士の面影はすっかりなくなり、フランスのため、また苦しむ男女のために一身を投じる義賊の役割に徹している。
今回のリュパンの登場は後半からで、本書の実質的主人公は、傷痍軍人のパトリス・ベルヴァル大尉。彼は野戦病院(と言ってもパリにある)で知り合った篤志看護婦のコラリーを慕っていた。1915年4月4日、彼はレストランで偶然、コラリーを襲う計画を知り、仲間と彼女を助けた。しかし、襲撃者は捕まらず、パトリスは、その後もコラリーは危険にさらされていると思い護衛と申し出たが、彼女は拒絶した。パトリスは、それでも彼女の意思に反して護衛する覚悟を決めた。その晩、パトリスの所に差出人不明の鍵が届く。そして、レストランで耳にした会話を思い出してある地点に行くと、レストランで見かけた男とその仲間がいた。彼らの乗った車をタクシーで追跡すると、レーヌーアール街のある屋敷に着いた。彼らは5人組で屋敷の呼び鈴を鳴らしたが、実際は問答無用の押し入りで正門は閉じてしまった。パトリスは横丁の門に行き、届いた鍵を使うと開いたので建物に侵入し、2階の回廊から見下ろすと、5人組がこの家の主人を拷問にかけていた。回廊の反対側を見るとそこにはコラリーもいた。五人組とこの屋敷の主人の会話から、コラリーは拷問を受けている主人の妻だとわかるが、彼女は助ける気配がない。拷問を受けていた主人は五人組の頭目を思わぬ反撃で殺し、残り四人は何とか買収してその日は収まった。
パトリスは、その屋敷がエサレス・ベイと言う東洋系のフランス人の金融業者のものであることを知る。翌日の昼、そこでエサレス・ベイの死体が発見される。彼は押入った奴らを上手く躱した筈だったが・・。死体の肌着の隠しポケットには、何故か、数年おきに撮ったコラリーとパトリスの子どもの頃からの写真が何組かあった。パトリスは、自分が目撃したことを当局に話して捜査陣の一角に加わり、またコラリーの護衛役にも就けた。コラリーとパトリスは全く別に育ったのに、殺されたエサレスはなぜふたりの写真を持っていたのか?だがパトリスがコラリーに訊くと、パトリスの父もコラリーの母も同じ1895年4月14日に亡くなったことがわかる。そして、レーヌーアール街のエサレス邸の庭の手掛かりから、隣家に謎の答の一部があることを知った。ふたりは丁度、それぞれの親が亡くなった20年後の1915年4月14日に隣家に行くことにした。そこで見つけた両親の墓にお参りをした後、ふたりに関する謎の解明が出来るのではないかと隣家の建物に入って行ったがふたりは閉じ込められ、ガスが充満してくる。ふたりはそれぞれの父、母と同じように同じ日に死ぬ運命になのだろうか?
前作の「オルヌカン城の謎」は、第一次世界大戦を背景に、主人公のポール・デルローズとその結婚相手エリザベス・ダンドビルの不思議な縁と冒険の話となっていて、Wikiによれば営業的な理由でリュパンが登場したのだと言う。それ故、「オルヌカン城の謎」ではリュパンはほんの2頁くらい、チョイ役扱いだった。本書も第一次世界大戦を背景に、男女の不思議な縁と冒険の話となっているが、謎の解明にあたる第二部ではリュパンが大活躍、堂々の探偵役を演じている。前作も本作も、本来は縁がなさそうな筈の男女が恋に落ち、最後は結ばれると言う話になっているが、前作はどちらかというと戦争を背景にしたサスペンス色が濃厚で、本書は第一次世界大戦中ではあるが、それほど戦争色はない。強いて言えば輸出入やパリ、国境の出入りが厳しいと言う理由に戦争が使われている程度である。そう言う意味では、サスペンスを楽しむと言う風に作られた前作の男女の縁は、あり得ないほど偶然の暗合が続いて男女が結婚に至ったように描かれていて、そちらの筋書き作りは手抜きと言う印象を受ける。本書の方は、出来すぎの偶然はあるものの、男女の縁に関してはより蓋然性が高くなるようにそれなりの工夫はしてある印象だ。さらに、本格もの的な作品風となっていて、パトリスとコラリーを陥れる謎の人物が意外に思えるように工夫されている。リュパンの推理は根拠薄弱で強引な気はするが、謎の説明について細かい部分まで筋は通ったものになっている。
独立した作品と言える前作の「オルヌカン城の謎」と違い、本書では長編第4作の「813、続813」との関連が強く、「続813」の最後でモロッコに身を投じると言っていたリュパンが、本書ではモロッコから帰国したことになっている。なお、「813、続813」で首相だったヴァラングレー(新潮版ではバラングレー)は、本書では大統領に就任している。本書の記述を元にすると、この事件は「813、続813」の数年後の事件の筈である。リュパンは本書で400万フランほどの所得を得るが、怪盗紳士の面影はすっかりなくなり、フランスのため、また苦しむ男女のために一身を投じる義賊の役割に徹している。
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神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。
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- 出版社:東京創元社
- ページ数:386
- ISBN:9784488107062
- 発売日:1972年12月22日
- 価格:777円
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