ゆうちゃんさん
レビュアー:
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ケッセルバックと言う大金持ちがある秘密を抱えたまま殺された。ルパンは、その秘密に迫ろうとするが、それはドイツ・フランスと言う二大国の国家関係に関する大がかりなものだったことが明らかになる。
「813」の続編。
ケッセルバックという大金持ちがパリのホテルで殺された。彼はある重大な秘密の持ち主で、ルパンは彼が殺される前にそれを聞きだそうとしていたのだった。下手人は、アルテンハイム男爵と言う男で、ルパンは結局、「813」と「Apoon」という文字列、ケッセルバックの秘密を知る彼の友人のスタインウェッグと言う老人の存在だけは知ることが出来た。だがスタインウェッグはアルテンハイムらに誘拐されてしまう。正編の最後では、警察の包囲中に、アルテンハイムとルパンが地下で死闘を演じた。アルテンハイムの背後のさらに黒幕がいることがわかり、死闘の最中にアルテンハイムを殺す。同時に、ルパンは警察に逮捕された。これまでの経緯から黒幕はL・Mと言う頭文字だとわかる(「813」の粗筋)。
獄中のルパンは、まずスタインウェッグの救出方法を考える。配下を使い、予審判事の妻を人質にすることで、ルパンは一時的に出獄を許され、当局監視の許でスタインウェッグが監禁されている建物の捜索を指揮した。その結果、見事にスタインウェッグを救出する。獄中のルパンを訪ねて来たスタインウェッグはお礼にケッセルバックの秘密の一部を明かす。それは独のある大公国に関するものだった。スタインウェッグによれば大公国の領主ヘルマン3世は、ビスマルクの側近だった時代があり、ビスマルクの死後、ドイツの外交問題に関する秘密を文書にして、かつて自身の居城だったベルデンツに隠したとされる。ルパンは日刊大報と言う新聞を使って、ケッセルバックの教えてくれた秘密の一端を盛んに宣伝する。すると獄中に面会に来たのはドイツ皇帝自身だった。皇帝はヘルマン3世の秘密に興味津々である。ルパンは皇帝に取引を持ち掛け自身の自由と引き換えにヘルマン3世の機密書類を発見すると言う。ドイツ皇帝がフランスの司法当局に圧力をかけられる訳がないのだが、ルパンは微妙な外交問題を持ち出して、それで独仏の元首同士で折衝しろと言う。その結果、彼は自由を得た(ルパン2度目の「脱獄」)。そしてドイツ皇帝監視の元、ベルデンツの古城にてヘルマン3世の隠した文書を探した。そこで役立ったのがケッセルバックの残した手がかり813とApoonだった。ところが、手がかり通りの文書の隠し場所だったところには、文書はなかった。ルパンは、アルテンハイムの背後の黒幕L・Mが先回りしたと感じ、皇帝に文書の発見に一か月の猶予を頼み込んだ。そして、今度はルパンと黒幕L・Mとの死闘が繰り広げられる。
本書は第何章と言う番号表示がないのだが、続編は十の章から成り、読んでいくと七つ目の章で事件はルパンの勝利で解決したかのように読める。ただ、あと三つも章(百頁程度)が残っている。事件解決はまだ先だろうと思うが、例えば、黒幕のあっけない逮捕と、逮捕後の不可解な態度がそう感じさせる。案の定、残りの三章で逆転に次ぐ逆転の結末となる。確かに、どんでん返しが楽しめる小説である。
ルパン・シリーズは本格推理小説ではないので、理路整然とした説明である必要はないのだが、その観点で見た場合、ちょっと無理筋などんでん返しのため、事件の説明は全てルパンの想像に任せることになる点が弱点かもしれない。また、そんなどんでん返しを設定したが故に、筋書きだけではなく、人間関係までも強引に作った印象を受ける。
ベルデンツの古城で文書を探す役目は、ルパンがまだ収監されている時からドイツ皇帝の命令で始まり、御声がかかったのがシャーロック・ホームズである。ただ、ホームズとルパンが顔合わせをすることもなく、ホームズの動向はほんのちょっと述べられているだけである。ここまでの作品、大半で毎度イギリスの名探偵の名声の借用をしてルパンを際立たせている。ここまで来れば、こんなことはもう良いのではないかと思う。因みに、シャーロック・ホームズ(Sherlock Holmes)の著者ドイルはルブランが自分のキャラクターを使用するのに抗議したので、ルブランは頭文字「S」を操作して、ヘルロック・ショルメス(Herlock Sholmès)と表示している。普通はこうなってもホームズと訳すのだが、堀口大學は、これをその通りヘルロック・ショルメスと訳している。
ルパン・シリーズでは、毎度、ヒロインが登場する。本書では可憐な若い女性ジュヌビエーブとケッセルバック夫人だが、ルパンは、ケッセルバック夫人に心を惹かれ、フランスでの山師稼業は引退して、南米で彼女と暮らすと言うセリフもあった。結局、ルパンはそれが出来なくなり、野心も果たせず、傷心のままモロッコに旅立つのだった。このことは後の作品に度々引用される重要な場面となる。「813」事件で憔悴したルパンは、ここでこんなことを言う。
このうちソニア(「リュパンの冒険」のヒロイン)とレイモンド(「奇巌城」)、クロチルド(「リュパン対ホームズ」)は、本作までの作品ではっきり死去したと書かれている。ところが、ここまでの作品にクラークと言う女性は登場しない。ルパン・シリーズにもホームズ譚と同様に「語られざる事件」、ならぬ「語られざる情事」があるのだろうか。前作「奇巌城」まで発表順=事件発生順であることがわかっており、ここで列挙されたヒロイン名を読むとルパン・シリーズでは本作も発表順=事件発生順が維持されているようだ。
*後に別書を読んでいてルブラン・ルパンの研究家がクラークの名は、ルブランが作品に登場させたことはないと書いていてスッキリした。
ケッセルバックという大金持ちがパリのホテルで殺された。彼はある重大な秘密の持ち主で、ルパンは彼が殺される前にそれを聞きだそうとしていたのだった。下手人は、アルテンハイム男爵と言う男で、ルパンは結局、「813」と「Apoon」という文字列、ケッセルバックの秘密を知る彼の友人のスタインウェッグと言う老人の存在だけは知ることが出来た。だがスタインウェッグはアルテンハイムらに誘拐されてしまう。正編の最後では、警察の包囲中に、アルテンハイムとルパンが地下で死闘を演じた。アルテンハイムの背後のさらに黒幕がいることがわかり、死闘の最中にアルテンハイムを殺す。同時に、ルパンは警察に逮捕された。これまでの経緯から黒幕はL・Mと言う頭文字だとわかる(「813」の粗筋)。
獄中のルパンは、まずスタインウェッグの救出方法を考える。配下を使い、予審判事の妻を人質にすることで、ルパンは一時的に出獄を許され、当局監視の許でスタインウェッグが監禁されている建物の捜索を指揮した。その結果、見事にスタインウェッグを救出する。獄中のルパンを訪ねて来たスタインウェッグはお礼にケッセルバックの秘密の一部を明かす。それは独のある大公国に関するものだった。スタインウェッグによれば大公国の領主ヘルマン3世は、ビスマルクの側近だった時代があり、ビスマルクの死後、ドイツの外交問題に関する秘密を文書にして、かつて自身の居城だったベルデンツに隠したとされる。ルパンは日刊大報と言う新聞を使って、ケッセルバックの教えてくれた秘密の一端を盛んに宣伝する。すると獄中に面会に来たのはドイツ皇帝自身だった。皇帝はヘルマン3世の秘密に興味津々である。ルパンは皇帝に取引を持ち掛け自身の自由と引き換えにヘルマン3世の機密書類を発見すると言う。ドイツ皇帝がフランスの司法当局に圧力をかけられる訳がないのだが、ルパンは微妙な外交問題を持ち出して、それで独仏の元首同士で折衝しろと言う。その結果、彼は自由を得た(ルパン2度目の「脱獄」)。そしてドイツ皇帝監視の元、ベルデンツの古城にてヘルマン3世の隠した文書を探した。そこで役立ったのがケッセルバックの残した手がかり813とApoonだった。ところが、手がかり通りの文書の隠し場所だったところには、文書はなかった。ルパンは、アルテンハイムの背後の黒幕L・Mが先回りしたと感じ、皇帝に文書の発見に一か月の猶予を頼み込んだ。そして、今度はルパンと黒幕L・Mとの死闘が繰り広げられる。
本書は第何章と言う番号表示がないのだが、続編は十の章から成り、読んでいくと七つ目の章で事件はルパンの勝利で解決したかのように読める。ただ、あと三つも章(百頁程度)が残っている。事件解決はまだ先だろうと思うが、例えば、黒幕のあっけない逮捕と、逮捕後の不可解な態度がそう感じさせる。案の定、残りの三章で逆転に次ぐ逆転の結末となる。確かに、どんでん返しが楽しめる小説である。
ルパン・シリーズは本格推理小説ではないので、理路整然とした説明である必要はないのだが、その観点で見た場合、ちょっと無理筋などんでん返しのため、事件の説明は全てルパンの想像に任せることになる点が弱点かもしれない。また、そんなどんでん返しを設定したが故に、筋書きだけではなく、人間関係までも強引に作った印象を受ける。
ベルデンツの古城で文書を探す役目は、ルパンがまだ収監されている時からドイツ皇帝の命令で始まり、御声がかかったのがシャーロック・ホームズである。ただ、ホームズとルパンが顔合わせをすることもなく、ホームズの動向はほんのちょっと述べられているだけである。ここまでの作品、大半で毎度イギリスの名探偵の名声の借用をしてルパンを際立たせている。ここまで来れば、こんなことはもう良いのではないかと思う。因みに、シャーロック・ホームズ(Sherlock Holmes)の著者ドイルはルブランが自分のキャラクターを使用するのに抗議したので、ルブランは頭文字「S」を操作して、ヘルロック・ショルメス(Herlock Sholmès)と表示している。普通はこうなってもホームズと訳すのだが、堀口大學は、これをその通りヘルロック・ショルメスと訳している。
ルパン・シリーズでは、毎度、ヒロインが登場する。本書では可憐な若い女性ジュヌビエーブとケッセルバック夫人だが、ルパンは、ケッセルバック夫人に心を惹かれ、フランスでの山師稼業は引退して、南米で彼女と暮らすと言うセリフもあった。結局、ルパンはそれが出来なくなり、野心も果たせず、傷心のままモロッコに旅立つのだった。このことは後の作品に度々引用される重要な場面となる。「813」事件で憔悴したルパンは、ここでこんなことを言う。
ソニア、レイモンド、クロチルド・デタンジ、クラークの後を追うべきか(295頁)。
このうちソニア(「リュパンの冒険」のヒロイン)とレイモンド(「奇巌城」)、クロチルド(「リュパン対ホームズ」)は、本作までの作品ではっきり死去したと書かれている。ところが、ここまでの作品にクラークと言う女性は登場しない。ルパン・シリーズにもホームズ譚と同様に「語られざる事件」、ならぬ「語られざる情事」があるのだろうか。前作「奇巌城」まで発表順=事件発生順であることがわかっており、ここで列挙されたヒロイン名を読むとルパン・シリーズでは本作も発表順=事件発生順が維持されているようだ。
*後に別書を読んでいてルブラン・ルパンの研究家がクラークの名は、ルブランが作品に登場させたことはないと書いていてスッキリした。
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神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:361
- ISBN:9784102140024
- 発売日:1980年05月03日
- 価格:660円
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