ゆうちゃんさん
レビュアー:
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日本のアニメでもお馴染みのカリオストロ伯爵夫人が登場する作品。リュパンの最初の冒険で25年後に伝記作者の「私」がやっと公開を許されたものとされる。恋と冒険をめぐる典型的なリュパンもの長編である。
アルセーヌ・リュパンの長編第十作目。
題名は、日本のアニメ「ルパン三世」でもおなじみの名である。内容も謎の文書とそこから隠された財宝を得る、そこに恋と冒険が絡むと言うこのシリーズでのオーソドックスなものとなっている。本書は、リュパン最初の冒険で、伝記作家である「私」が25年を経てやっと公開を許されたもの、と冒頭に断り書きがある。作中の事件は1894年に起き、その後25年経っているというのだから、リュパンが出版を許したのは1919年、きっとリュパンがアフリカでの冒険を終えて50代になった頃に「私」に許可を出したのだと思われる。カリオストロは実在のイタリア人詐欺師で、その子孫とされるカリオストロ伯爵夫人は、ルブランの創作である。この女性は、作品の中ではカリオストロとナポレオン一世の最初の夫人ジョセフィーヌとの間の子孫とされているが、ルブランは、謎の多いジョゼフィーヌの生涯を上手く利用して話に真実味を持たせている。
ラウール・ダンドレジー子爵は、アルセーヌ・リュパンの変名。最初の変名と言える。因みに「アルセーヌ・リュパン」もとって付けた名(「怪盗紳士」の「アンベール夫人の金庫」参照)でリュパンの本名は実は不明の筈が、どうも本書ではリュパンが本名のように扱われている。ラウールは、子爵を名乗りながら親も亡くし無一文。それでもデチーグ男爵の娘クラリスと恋仲になった。結婚を申し込みに行き、男爵にけんもほろろに扱われたが、如才なく男爵の書斎に何か秘密があることを嗅ぎつける。冒頭は、リュパンが男爵の生垣屋敷に忍び込み秘密の手紙を発見するところから。そこには、ある女性をかどわかして私設裁判をこの屋敷で行うとあった。リュパンは、「法廷」と思しき別棟に行き外から様子をうかがう。数人の男が集まり、女性が連れて来られるのを見た。手紙の内容からは彼女は50代の女性に思えたが、見ると若く美しい女だった。男たちは、女をカリオストロ伯爵夫人だと決めつけたが、その女の肖像は古くは、1816年、更にはナポレオン三世の時代(1860年代)に遡る。どの時代の女の肖像も今と同じくらい若く美しい謎めいた女だった。彼女自身はペルグリニ夫人だと名乗っている。だがペルグリニの名もカリオストロの縁者の名だと男たちは決めつける。法廷の裁判長役は屋敷の主ではなくボーマニャンと言う高僧だった。彼は女が自分の仲間を2人殺した上、自分の毒殺も謀ったと告発する。結局彼女は「死刑」の判決を受け、デチーグとその従兄弟ベンヌトが彼女を海中に沈めて殺すことになった。ラウールは海岸に先回りして彼女を助けた。農家の納屋に連れて手当をするが、翌朝、ラウールが起きてみると彼女はいなくなっていた。
「法廷」では、女への告発の他にカリオストロが書き留めたとされる謎の文言も話に出た。
in robore forituna(幸運の力によりて)
ボヘミア王の敷石
フランス諸王の富
七本枝の燭台
このうち、本書の主題は最後の「七本枝の燭台」である。謎はノルマンディー地方の七つの修道院が十分の一税を嵩張らない宝石に代え、その隠し場所がフランス革命の混乱でわからなくなったことに起因する。ボーマニャン一党と、その敵であるカリオストロ伯爵夫人とされる女、そこに最初の冒険として飛び込んだラウールが、十億フランとも言われる宝石をめぐって三つ巴の戦いをする。ラウールは、最初はクラリスのことなど忘れ、カリオストロ伯爵夫人の虜になり、一緒に謎を解明してゆく。ところが、彼女が平気で手下に人殺しをさせるのに嫌気がさし、途中で訣別し三グループの戦いとなる。最後の方ではクラリスまで謎の解明に参戦している。
問題の文言のうち三つは、以下の作品で解明されている
in robore forituna(幸運の力によりて)・・・「綱渡りのドロテ」
ボヘミア王の敷石・・・・・・・・・・・・・「棺桶島」
フランス諸王の富・・・・・・・・・・・・・「奇巌城」
これで「綱渡りのドロテ」がリュパンの外伝と言われる理由がわかる(「綱渡りのドロテ」にリュパンは全く登場しないし触れられることもない)。因みにこのラテン語は「綱渡りのドロテ」では「宝は魂の堅固さにあり」と訳されている。両者で訳があまりにも違い、ちょっと戸惑う。ラウールは若く無一文に近いので、移動は自転車。後にリュパンは自動車を駆使するのだが、自転車と言うのが微笑ましい。当時は自動車は無かったので、金があれば馬車を駆使するのだろう。リュパンは殺しをしない義賊とされているが、本書では彼の殺しを嫌う性格が強調されている。
カリオストロ伯爵夫人の魅力にはラウールもボーマニャンもしてやられるし、彼女にも神経の発作と言う弱点がある。それらを考慮したとしても、筋書きは「金三角」や「虎の牙」と同じようにかなり強引なものに戻ったと言う印象。リュパンことラウールの判断力に問題があるのは、まだ若いからと言えるが、恋に判断力を狂わされるのは「虎の牙」でも散々聞かされた話であり、幾つになっても変わらないものだと思う。本書の舞台もエトルタであり、ラウールことリュパンのその後の私生活とも絡み、「奇巌城」との関連が強い作品となっている。
題名は、日本のアニメ「ルパン三世」でもおなじみの名である。内容も謎の文書とそこから隠された財宝を得る、そこに恋と冒険が絡むと言うこのシリーズでのオーソドックスなものとなっている。本書は、リュパン最初の冒険で、伝記作家である「私」が25年を経てやっと公開を許されたもの、と冒頭に断り書きがある。作中の事件は1894年に起き、その後25年経っているというのだから、リュパンが出版を許したのは1919年、きっとリュパンがアフリカでの冒険を終えて50代になった頃に「私」に許可を出したのだと思われる。カリオストロは実在のイタリア人詐欺師で、その子孫とされるカリオストロ伯爵夫人は、ルブランの創作である。この女性は、作品の中ではカリオストロとナポレオン一世の最初の夫人ジョセフィーヌとの間の子孫とされているが、ルブランは、謎の多いジョゼフィーヌの生涯を上手く利用して話に真実味を持たせている。
ラウール・ダンドレジー子爵は、アルセーヌ・リュパンの変名。最初の変名と言える。因みに「アルセーヌ・リュパン」もとって付けた名(「怪盗紳士」の「アンベール夫人の金庫」参照)でリュパンの本名は実は不明の筈が、どうも本書ではリュパンが本名のように扱われている。ラウールは、子爵を名乗りながら親も亡くし無一文。それでもデチーグ男爵の娘クラリスと恋仲になった。結婚を申し込みに行き、男爵にけんもほろろに扱われたが、如才なく男爵の書斎に何か秘密があることを嗅ぎつける。冒頭は、リュパンが男爵の生垣屋敷に忍び込み秘密の手紙を発見するところから。そこには、ある女性をかどわかして私設裁判をこの屋敷で行うとあった。リュパンは、「法廷」と思しき別棟に行き外から様子をうかがう。数人の男が集まり、女性が連れて来られるのを見た。手紙の内容からは彼女は50代の女性に思えたが、見ると若く美しい女だった。男たちは、女をカリオストロ伯爵夫人だと決めつけたが、その女の肖像は古くは、1816年、更にはナポレオン三世の時代(1860年代)に遡る。どの時代の女の肖像も今と同じくらい若く美しい謎めいた女だった。彼女自身はペルグリニ夫人だと名乗っている。だがペルグリニの名もカリオストロの縁者の名だと男たちは決めつける。法廷の裁判長役は屋敷の主ではなくボーマニャンと言う高僧だった。彼は女が自分の仲間を2人殺した上、自分の毒殺も謀ったと告発する。結局彼女は「死刑」の判決を受け、デチーグとその従兄弟ベンヌトが彼女を海中に沈めて殺すことになった。ラウールは海岸に先回りして彼女を助けた。農家の納屋に連れて手当をするが、翌朝、ラウールが起きてみると彼女はいなくなっていた。
「法廷」では、女への告発の他にカリオストロが書き留めたとされる謎の文言も話に出た。
in robore forituna(幸運の力によりて)
ボヘミア王の敷石
フランス諸王の富
七本枝の燭台
このうち、本書の主題は最後の「七本枝の燭台」である。謎はノルマンディー地方の七つの修道院が十分の一税を嵩張らない宝石に代え、その隠し場所がフランス革命の混乱でわからなくなったことに起因する。ボーマニャン一党と、その敵であるカリオストロ伯爵夫人とされる女、そこに最初の冒険として飛び込んだラウールが、十億フランとも言われる宝石をめぐって三つ巴の戦いをする。ラウールは、最初はクラリスのことなど忘れ、カリオストロ伯爵夫人の虜になり、一緒に謎を解明してゆく。ところが、彼女が平気で手下に人殺しをさせるのに嫌気がさし、途中で訣別し三グループの戦いとなる。最後の方ではクラリスまで謎の解明に参戦している。
問題の文言のうち三つは、以下の作品で解明されている
in robore forituna(幸運の力によりて)・・・「綱渡りのドロテ」
ボヘミア王の敷石・・・・・・・・・・・・・「棺桶島」
フランス諸王の富・・・・・・・・・・・・・「奇巌城」
これで「綱渡りのドロテ」がリュパンの外伝と言われる理由がわかる(「綱渡りのドロテ」にリュパンは全く登場しないし触れられることもない)。因みにこのラテン語は「綱渡りのドロテ」では「宝は魂の堅固さにあり」と訳されている。両者で訳があまりにも違い、ちょっと戸惑う。ラウールは若く無一文に近いので、移動は自転車。後にリュパンは自動車を駆使するのだが、自転車と言うのが微笑ましい。当時は自動車は無かったので、金があれば馬車を駆使するのだろう。リュパンは殺しをしない義賊とされているが、本書では彼の殺しを嫌う性格が強調されている。
カリオストロ伯爵夫人の魅力にはラウールもボーマニャンもしてやられるし、彼女にも神経の発作と言う弱点がある。それらを考慮したとしても、筋書きは「金三角」や「虎の牙」と同じようにかなり強引なものに戻ったと言う印象。リュパンことラウールの判断力に問題があるのは、まだ若いからと言えるが、恋に判断力を狂わされるのは「虎の牙」でも散々聞かされた話であり、幾つになっても変わらないものだと思う。本書の舞台もエトルタであり、ラウールことリュパンのその後の私生活とも絡み、「奇巌城」との関連が強い作品となっている。
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神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。
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- 出版社:東京創元社
- ページ数:385
- ISBN:9784488107086
- 発売日:1973年01月26日
- 価格:903円
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