原著は全体として、中編4作でDifferent Seasons(それぞれの季節)として発刊されている。1編ずつ、春・夏・秋・冬を現す副題がつく。
邦訳では「恐怖の四季」とされる。おそらくキングがホラーの大家として知られるためにつけられたのだろうが、本作は実はホラー要素は薄い。
それぞれの作品はキングが長編小説を書いた後に余力で(!)書いたようなもので、書かれた年代も違えば、深い関連もない(1つの作品の劇中人物が他の作品にちらりと出てくることはある)。
ホラー色が薄い小説、しかも中途半端な長さとあって、なかなか刊行の機会がなかったものを、4編をまとめて出すことになった、という経緯である。
原題のDifferentはホラーとは「違う」ということも示唆しているのだが、にもかかわらず邦題ではわざわざ「恐怖」と銘打っているのはなかなか皮肉な感じではある。
新潮文庫版は、春・夏にあたる「刑務所の・・・」と「ゴールデンボーイ」で1冊、秋・冬にあたる「スタンド・バイ・ミー」と「マンハッタンの奇譚クラブ」で1冊と分けている。4作のうち、「マンハッタン・・・」を除く3作が映画化されているというのはさすがキングというところか(「マンハッタン・・・」も映画化の計画はある(あった?)らしい)。
「刑務所のリタ・ヘイワース」
Rita Hayworth and Shawshank Redemption - Hope Springs Eternal
今回本書を読んでみる気になったのは、久しぶりに映画「ショーシャンクの空に」を見たため。本作の映画化作品である。
妻と愛人を殺害した容疑で、アンディー・デュフレーンがショーシャンク刑務所にやってくる。「調達屋」と呼ばれるレッドは、アンディーと友だちになる。銀行家だったというアンディーはどこか超然とした雰囲気で、周囲の囚人たちとは違っていた。自分は無実だと主張していたが、皆本気にはしていなかった。
アンディーは、刑務所の無法者たちに痛い目に遭わされもするが、彼らに対抗する術も持っていた。聡明で根気よく、希望を失わない彼は、1つ1つ、刑務所では不可能と思われた事柄を成し遂げていく。
ある日、入所してきた男はアンディーの事件の真犯人を知っているといった。そこから大きく状況が動くかと思われたが・・・。
映画とは少々ラストが異なる。途中のエピソードも映画の方が輪郭がくっきりして劇的なイメージ。だがこちらはこちらで悪くない読み心地である。余韻の残るラストもよい。
「ゴールデンボーイ」
Apt Pupil - Summer of Corruption
「刑務所の・・・」の方が主目的だったので、ついでという感じで読み始めたのだが、いや、これは少し驚いた。
いわゆるホラーではないが、これは怖い。
13歳の少年トッドは、両親自慢の優等生。勉強だけでなくスポーツも万能。金髪碧眼で顔立ちも整っている。家も裕福、前途洋々である。
彼はある時、街に住む老人が隠れナチであることを突き止める。そして老人の家を訪れ、黙っている代わりにナチ時代の話をしろとせがむ。強制収容所や大量殺戮に興味があったのだ。老人は渋々ながらそれに応じ、2人は毎週、多くの時間を共に過ごすことになる。両親には、「気の毒な老人のために本を読んでやっているのだ」と偽って。
だが、過去のサディスティックな所業の物語は、次第に語り手と聞き手の両方を蝕んでいく。自身の中のサディズムが呼び覚まされ、2人は徐々に道を踏み外していく。お互い憎み合いながら、お互いを理解してもいる老人と少年。2人を待ち受けるものとは。
原題のApt Pupilとは「物分かりのよい生徒」といった意味。邦題のゴールデンボーイは将来性のある青年を指し、映画でもこの邦題を使用している。誰がどの時点でこの邦題にしたのかよくわからないが、中身を汲んだタイトルとは言えるだろう。
本作で特に怖いのは前半で、思春期の不安定さと相まって、少年が徐々に闇に飲まれていくわけである。少年は当初は事態を制御できると思っていたのだろうが、そんなはずはない。「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」(フリードリヒ・ニーチェ)。サディズムは特殊な人にだけ宿るのではないのだろうと思わせ、ひたひたと怖さが忍び寄る。
但し、彼が実際に道を踏み外して以降はそれほど怖くない。個人的には、いくら何でもここまでのことはしないだろうとすっと冷めた。
動物や人に対する残虐シーン、女性や人種に対する差別的発言(独白)はかなりきつい。
映画化にあたっては、ラストなどが改変されているようだ。



分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
この書評へのコメント
- noel2022-06-27 15:36
ああ、そうでしたね。Apt Pupil - Summer of Corruption。怖かったですね。いま、キングを読み終えて、Philip K. Dickの"We Can Build You"を読んでいます。遅読なので、読み終えたら、アップするつもりです。わたしのRita Hayworth and Shawshank Redemption評も読んでやってくださいな。
https://www.honzuki.jp/book/307153/review/276096/クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - ぽんきち2022-06-27 09:25
あー、こちらは拝読しました。原作のラストもなかなかでしたよね。
レッド曰く、調達屋をやっている理由が、「ときには、品物のほうがひとりでやってくる。説明はできんな。おれがアイルランド系ってこと以外には」("Sometimes, things just seem to come into my hand. I can't Explain it. Unless it's because I'm Irish.")てことだったのですが、アイルランド人だと物が手に入りやすい、ということなんでしょうかね? ここがよくわかりませんでした。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - ぽんきち2022-06-27 20:47
ケビン・コスナーと出ていた「アンタッチャブル」ですかね。
消防士の話だと、「バックドラフト」あたりが代表的かな。バグパイプとかアイリッシュパブとかも出てきていたような。
https://www.amazon.co.jp/%E3%83%90%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%95%E3%83%88-DVD-%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%BB%E3%83%AB/dp/B006QJS9H0クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 
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- 出版社:新潮社
- ページ数:507
- ISBN:9784102193129
- 発売日:1988年03月01日
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