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ぽんきち
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「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」(フリードリヒ・ニーチェ)
スティーブン・キングの中編2作、「刑務所のリタ・ヘイワース」と「ゴールデンボーイ」を収める。
原著は全体として、中編4作でDifferent Seasons(それぞれの季節)として発刊されている。1編ずつ、春・夏・秋・冬を現す副題がつく。
邦訳では「恐怖の四季」とされる。おそらくキングがホラーの大家として知られるためにつけられたのだろうが、本作は実はホラー要素は薄い。
それぞれの作品はキングが長編小説を書いた後に余力で(!)書いたようなもので、書かれた年代も違えば、深い関連もない(1つの作品の劇中人物が他の作品にちらりと出てくることはある)。
ホラー色が薄い小説、しかも中途半端な長さとあって、なかなか刊行の機会がなかったものを、4編をまとめて出すことになった、という経緯である。
原題のDifferentはホラーとは「違う」ということも示唆しているのだが、にもかかわらず邦題ではわざわざ「恐怖」と銘打っているのはなかなか皮肉な感じではある。

新潮文庫版は、春・夏にあたる「刑務所の・・・」と「ゴールデンボーイ」で1冊、秋・冬にあたる「スタンド・バイ・ミー」と「マンハッタンの奇譚クラブ」で1冊と分けている。4作のうち、「マンハッタン・・・」を除く3作が映画化されているというのはさすがキングというところか(「マンハッタン・・・」も映画化の計画はある(あった?)らしい)。

「刑務所のリタ・ヘイワース」
Rita Hayworth and Shawshank Redemption - Hope Springs Eternal
今回本書を読んでみる気になったのは、久しぶりに映画「ショーシャンクの空に」を見たため。本作の映画化作品である。
妻と愛人を殺害した容疑で、アンディー・デュフレーンがショーシャンク刑務所にやってくる。「調達屋」と呼ばれるレッドは、アンディーと友だちになる。銀行家だったというアンディーはどこか超然とした雰囲気で、周囲の囚人たちとは違っていた。自分は無実だと主張していたが、皆本気にはしていなかった。
アンディーは、刑務所の無法者たちに痛い目に遭わされもするが、彼らに対抗する術も持っていた。聡明で根気よく、希望を失わない彼は、1つ1つ、刑務所では不可能と思われた事柄を成し遂げていく。
ある日、入所してきた男はアンディーの事件の真犯人を知っているといった。そこから大きく状況が動くかと思われたが・・・。
映画とは少々ラストが異なる。途中のエピソードも映画の方が輪郭がくっきりして劇的なイメージ。だがこちらはこちらで悪くない読み心地である。余韻の残るラストもよい。

「ゴールデンボーイ」
Apt Pupil - Summer of Corruption
「刑務所の・・・」の方が主目的だったので、ついでという感じで読み始めたのだが、いや、これは少し驚いた。
いわゆるホラーではないが、これは怖い。
13歳の少年トッドは、両親自慢の優等生。勉強だけでなくスポーツも万能。金髪碧眼で顔立ちも整っている。家も裕福、前途洋々である。
彼はある時、街に住む老人が隠れナチであることを突き止める。そして老人の家を訪れ、黙っている代わりにナチ時代の話をしろとせがむ。強制収容所や大量殺戮に興味があったのだ。老人は渋々ながらそれに応じ、2人は毎週、多くの時間を共に過ごすことになる。両親には、「気の毒な老人のために本を読んでやっているのだ」と偽って。
だが、過去のサディスティックな所業の物語は、次第に語り手と聞き手の両方を蝕んでいく。自身の中のサディズムが呼び覚まされ、2人は徐々に道を踏み外していく。お互い憎み合いながら、お互いを理解してもいる老人と少年。2人を待ち受けるものとは。
原題のApt Pupilとは「物分かりのよい生徒」といった意味。邦題のゴールデンボーイは将来性のある青年を指し、映画でもこの邦題を使用している。誰がどの時点でこの邦題にしたのかよくわからないが、中身を汲んだタイトルとは言えるだろう。
本作で特に怖いのは前半で、思春期の不安定さと相まって、少年が徐々に闇に飲まれていくわけである。少年は当初は事態を制御できると思っていたのだろうが、そんなはずはない。「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」(フリードリヒ・ニーチェ)。サディズムは特殊な人にだけ宿るのではないのだろうと思わせ、ひたひたと怖さが忍び寄る。
但し、彼が実際に道を踏み外して以降はそれほど怖くない。個人的には、いくら何でもここまでのことはしないだろうとすっと冷めた。
動物や人に対する残虐シーン、女性や人種に対する差別的発言(独白)はかなりきつい。
映画化にあたっては、ラストなどが改変されているようだ。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1826 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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この書評へのコメント

  1. noel2022-06-27 15:36

    ああ、そうでしたね。Apt Pupil - Summer of Corruption。怖かったですね。いま、キングを読み終えて、Philip K. Dickの"We Can Build You"を読んでいます。遅読なので、読み終えたら、アップするつもりです。わたしのRita Hayworth and Shawshank Redemption評も読んでやってくださいな。
    https://www.honzuki.jp/book/307153/review/276096/

  2. ぽんきち2022-06-27 09:25

    あー、こちらは拝読しました。原作のラストもなかなかでしたよね。

    レッド曰く、調達屋をやっている理由が、「ときには、品物のほうがひとりでやってくる。説明はできんな。おれがアイルランド系ってこと以外には」("Sometimes, things just seem to come into my hand. I can't Explain it. Unless it's because I'm Irish.")てことだったのですが、アイルランド人だと物が手に入りやすい、ということなんでしょうかね? ここがよくわかりませんでした。

  3. noel2022-06-27 15:14

    アイルランド人がアメリカの独立に大きく貢献したことはよく知られていますが、世界中に散らばったアイルランド人は、いわば華僑のように互いのコネを利用して広範な商業ネットワークを築き上げました。そのイメージが原作者であるキングの脳裏にも浸透していたのでしょう。だから、レッドが「便利屋」としてあれる理由として「アイリッシュ・コネクション」を挙げたのだと思います。(関西弁で「知らんけど」)認知症老人のわたしがいうのだから、話半分に聴いておいてくださいね。

  4. ぽんきち2022-06-27 18:01

    なるほど、そういうことなんですかね。
    アイルランド系移民は警官とか消防士になった人が多かったというのは聞いていたのですが、横のつながりも強かったんですね。

  5. noel2022-06-27 19:35

    アルカポネの時代の映画(タイトルが憶い出せない)に警察官の役でショーン・コネリーが演じてましたね。あれもアイリッシュですね。

  6. ぽんきち2022-06-27 20:47

    ケビン・コスナーと出ていた「アンタッチャブル」ですかね。

    消防士の話だと、「バックドラフト」あたりが代表的かな。バグパイプとかアイリッシュパブとかも出てきていたような。
    https://www.amazon.co.jp/%E3%83%90%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%95%E3%83%88-DVD-%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%BB%E3%83%AB/dp/B006QJS9H0

  7. noel2022-08-26 15:25

    そう、そのケビン・コスナーです。最近とみにものが思い出せなくて困っています。変に憶い出そうとすると、次に書こうとしていたことを忘れてしまうので、相手さんには申し訳ないですが、そこはテキトーに胡麻化して書いています。いまも、この「胡麻化して」ということば以外のものを思いついたのですが、それを思い出そうとして思いつかなくて、テキトーに胡麻化して書いたのです。こんなの、どうすればよくなるのでしょうかね。ぽんきちさんにわかるわけもないのに訊ねてもムダかなあ。

  8. ぽんきち2022-06-27 21:46

    ぴったりの言葉が出て来そうで出てこないことはあります。
    忘れた頃に出てくることもあります。

    まぁそんなものかなと思います(^^;)。

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