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darklyさん
darkly
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人間の心は実在するのだろうか。それは単なる素粒子の相互作用であり幻想に過ぎないのだろうか。
奔放な母の異父兄弟であるミシェルとブリュノ、半分血がつながっていながら全く性格が異なる兄弟。ミシェルは若い頃から愛というものが分からなかった。幼馴染でとても美しくミシェルと人生を歩んでいくことを望んでいたアナベルとの間も結局上手くいかなかった。

一方ブリュノは思春期を迎えた時から頭にあるのは常に性のことばかり。すべての努力はいかにセックスの相手を見つけるかということに向けられていると言っても過言ではない。

ミシェルは研究一筋に打ち込み分子生物学者として名を馳せる。ブリュノは国語教師になったが40歳を超えても相変わらず頭の中は女のことばかり。

ミシェルはアナベルと再会しやり直そうとするがその時すでにアナベルには病魔の影が忍び寄っていた。愛を知らなかったミシェルは数週間自分が平和と安らぎに満たされていたことを自覚し愛を知る。しかし時は既に遅かった。

ミシェルの研究はミシェルの死後、人類に生殖の必要がない世界を作り出します。男女の差もなく、病気もない世界、宗教は破壊され、そこに神という概念が入り込む余地はありません。

科学的に見れば我々は分子化合物に過ぎません。いやもっと言えば確率的にしかその存在を把握できない素粒子でできている。そこにあるのは単なる物理学上の存在であり心、愛などは単なる素粒子の作用であって幻想に過ぎないのでしょうか?形而上学や哲学は意味がないのでしょうか?果たしてこのような未来が実際に訪れるのでしょうか?

ミシェルはそのような未来を考えていたのかもしれません。しかし、彼はアナベルを失った後、彼女の存在の大きさに気づくと同時に人間としての絆を持たない自分に気づき死を選びます。皮肉にも自らの死が完全に科学的に解明できない心というものの実在を物語っているのではないかと思います。ミシェルは科学者として人類に貢献したという自負を持ちながら人間としてはただ一人の女性すら救えなかったという後悔の内に自らの命を絶ったのかもしれない。

この小説はフランスにおける20世紀後半の性愛を始めとした社会的変遷を描くうえで両極端なミシェルとブリュノを配し、幅広い読者に共感と嫌悪を抱かせ、また近未来までも見通すSFとしての側面も含めた壮大な物語と言えます。

フランスという国のことを私はほとんど知りませんが、結婚制度を始めとして性に関することはとても先進的なイメージがあります。そのイメージが正しいとしてもフランスにおいてこの小説はかなり物議を醸しだしたと聞きます。この作家の小説はどれも何か心をザワつかせるところがあります。我々が将来に関して想像したくないこと、触れたくないことをリアルに描き出すイメージがあります。だからこそ目が離せない作家だと思います。
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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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