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紅い芥子粒
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ミステリー小説ではありません。犯罪捜査の本でもありません。やさしく書かれた科学の本、きのこ学入門書です。
きのこがニョキニョキ生えている地面を掘って見ると、そこにはバラバラ死体が―― というわけではありません。
死体から直接、きのこが生えるわけではないのです。

森の中で、動物が死にます。
死体は、細菌類によって分解され、その過程でアンモニアが発生します。
アンモニアには殺菌作用があり、その土壌にもともといた微生物を殺してしまいます。
かくして微生物的空き地になった土壌に、発生するのがアンモニア菌。
その子実体がきのこです。
動物の糞尿からもアンモニアが発生するので、同じことがおこります。
アンモニア菌のきのこには、まことにそれらしい名まえがつけられています。
イバリチャワンタケとか、イバリシメジとか……(イバリとは、尿のことですよね)

イバリチャワンタケもイバリシメジも、ものを腐らせて栄養を吸収する腐生菌です。
森の中には、枯れ葉や枯れ枝、倒木などの植物遺体があります。
植物遺体の主成分は、リグニンやセルロースというなかなか分解されない物質。
それらを分解してくれるのが、腐生菌。
きのこは森の掃除やといわれるゆえんです。
そのきのこも、動物に食べられ、糞として排泄され、そのあとにまたきのこが発生し……
みごとな森の生命の循環ですね。

きのこには、植物と栄養のやりとりをして生きる菌根共生という生き方もあります。
日本人が大好きなマツタケや、コアなファンが多いベニテングタケは、この菌根菌。
マツタケは、共生の相手が松でなければなりません。
よく手入れされた、松林でないと生えないのだそうです。
むかし、里山に松を植えて、落ち葉や枯れ枝を拾って燃料にしていた時代には、マツタケはありふれたきのこでした。
里山というものが、日本人の暮らしから消えていくとともに、マツタケは貴重なきのこになったんですね。

きのこは、菌類が胞子を飛ばすための装置です。
きのこの胞子は、とても小さくて肉眼では見えないのですが、きのこの傘を指でぱちんとはじくと、もわもわと煙のようなものがたちのぼります。
きのこの胞子は、ごくごく軽く、台風の風やジェット気流に乗って、やすやすと海を越えていくこともできます。しかし、首尾よく着地できたところで、そこで生きていける可能性は、ほぼ、ない。菌根菌なら、そこに共生できる木が生えていないとだめですからね。

きのこの毒についても、もちろん書かれてあります。
ユーモアのある文章、写真や図や表もあり、読みやすくわかりやすい、きのこ学入門の書です。

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紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:560 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

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