ぽんきちさん
レビュアー:
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閉ざされた島で。閉ざされた夢を。
著者デビュー作。
白亜(はくあ)とスケキヨは川の中州にある島に住む。彼らは捨て子で気がついた時には一緒にいた。血がつながっているかどうかは定かでないのだが、一緒に引き取られ、姉弟として育てられた。
島にはかつて一大遊廓があったが、今では寂れてしまっていた。ほそぼそと残った遊女屋と、わずかな魚をすなどる漁師と、訳ありで「本土」で暮らせなくなったものとが暮らす吹き溜まりのような島である。「本土」からは売春宿を利用する客が舟でやってきた。けれども島の住民は身分証明書なしでは「本土」に渡ることはできなかった。
白亜もスケキヨも美しい子供だった。硬質の陶器のような美しさ。白亜は遊女になると本人も周囲も了解していた。ではスケキヨは・・・? これもまた周囲も本人も薄々はわかっていたのだろうが、はっきりと口に出す者はなかった。
2人の住む島は澱みのようでもあり、一方、どこか神話の世界のようでもある。
島に住む人々は夢を見ないという。それは祠に住む「獏」のせいだと人々はささやく。しかしそれを信じない白亜は時々夢を見る。
島に伝わる伝説をスケキヨが物語る。昔、凄艶な遊女がいた。名を白亜といった。ある時、巨大な雷魚が現れ、水の神の命で贅沢になり過ぎたこの島を滅ぼすことにしたと告げる。けれども雷魚は白亜の美しさに打たれ、彼女だけは救いたいというのだ。種を超えた恋の行方は、最後までは語られることがない。
ねっとりと濃密な世界観。妖しく官能的な美しさ。凄絶で血生臭い暴力。
閉じた世界の中で、互いに魅かれながらも踏み出すことに臆病でもある、白亜とスケキヨの運命は。
表紙の宇野亜紀良の装画が美しい。
☆は3寄りの4か4寄りの3か、という感じなのだが、痛みや苦しさを伴う官能に今一つ乗れない部分があったので4寄りの3で。この辺りはまったく好みの問題だと思う。
死ぬかもしれない行為を白亜が求めるのは、あるいはこの閉じた世界を抜け出る手段が「死」しかない、ということなのかもしれないのだが。
*すばる新人賞受賞時の対談記事(第21回小説すばる新人賞受賞記念スペシャル対談 千早茜×花村萬月)がネットに残っています。なかなかおもしろかったです。千早さんはアフリカで暮らしたことがあるんですね。『雷と走る』は、もちろん、全部実体験というわけではないでしょうが、私小説的な部分が結構あるのかな。
*姉弟の幼少時の描写は、うっすらと樋口一葉の『たけくらべ』を思い起こさせます。
白亜(はくあ)とスケキヨは川の中州にある島に住む。彼らは捨て子で気がついた時には一緒にいた。血がつながっているかどうかは定かでないのだが、一緒に引き取られ、姉弟として育てられた。
島にはかつて一大遊廓があったが、今では寂れてしまっていた。ほそぼそと残った遊女屋と、わずかな魚をすなどる漁師と、訳ありで「本土」で暮らせなくなったものとが暮らす吹き溜まりのような島である。「本土」からは売春宿を利用する客が舟でやってきた。けれども島の住民は身分証明書なしでは「本土」に渡ることはできなかった。
白亜もスケキヨも美しい子供だった。硬質の陶器のような美しさ。白亜は遊女になると本人も周囲も了解していた。ではスケキヨは・・・? これもまた周囲も本人も薄々はわかっていたのだろうが、はっきりと口に出す者はなかった。
2人の住む島は澱みのようでもあり、一方、どこか神話の世界のようでもある。
島に住む人々は夢を見ないという。それは祠に住む「獏」のせいだと人々はささやく。しかしそれを信じない白亜は時々夢を見る。
島に伝わる伝説をスケキヨが物語る。昔、凄艶な遊女がいた。名を白亜といった。ある時、巨大な雷魚が現れ、水の神の命で贅沢になり過ぎたこの島を滅ぼすことにしたと告げる。けれども雷魚は白亜の美しさに打たれ、彼女だけは救いたいというのだ。種を超えた恋の行方は、最後までは語られることがない。
ねっとりと濃密な世界観。妖しく官能的な美しさ。凄絶で血生臭い暴力。
閉じた世界の中で、互いに魅かれながらも踏み出すことに臆病でもある、白亜とスケキヨの運命は。
表紙の宇野亜紀良の装画が美しい。
☆は3寄りの4か4寄りの3か、という感じなのだが、痛みや苦しさを伴う官能に今一つ乗れない部分があったので4寄りの3で。この辺りはまったく好みの問題だと思う。
死ぬかもしれない行為を白亜が求めるのは、あるいはこの閉じた世界を抜け出る手段が「死」しかない、ということなのかもしれないのだが。
*すばる新人賞受賞時の対談記事(第21回小説すばる新人賞受賞記念スペシャル対談 千早茜×花村萬月)がネットに残っています。なかなかおもしろかったです。千早さんはアフリカで暮らしたことがあるんですね。『雷と走る』は、もちろん、全部実体験というわけではないでしょうが、私小説的な部分が結構あるのかな。
*姉弟の幼少時の描写は、うっすらと樋口一葉の『たけくらべ』を思い起こさせます。
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
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- 出版社:集英社
- ページ数:264
- ISBN:9784087712766
- 発売日:2009年01月05日
- 価格:1470円
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