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ビシャカナ
レビュアー:
軽妙なばかりではない、ゾッとするような風刺もさらりと描く星新一の恐ろしさ
このところの心身の不調からようやく立ち直り、リハビリを兼ねて読みやすい本をと思い、星新一のショートショートセレクションを手に取った。何気なく選んだ一冊だったが、『おーい でてこーい』や『ボッコちゃん』といった代表作も収録されており、十分に楽しませてもらった。

しかし、それ以上に「星新一ってこんなに怖かったっけ?」とゾッとする思いをすることもあった。

『なぞの青年』
困窮した老人には人生最後の楽しみとして旅行をプレゼントし、子どもが遊ぶ場所のない街には公園をつくるなど、困っている人のもとに現れては多額の寄付で救済する謎の青年。しかし、その正体は税務署の職員であり、寄付金は税金の使い込みだった。当然、税金をバカげたことに使ったと厳しく叱責される青年だが「わたしが異常で、ほかの議員や公務員たちは、みな正気だとおっしゃるのですか」と言ってのける。この一言の鋭さに、星新一の恐ろしさを思い知らされる。

『証人』
人気タレントが死に、遺書が残されていたことから自殺と判断される。しかし、その遺書の内容があまりにも実態とかけ離れていたため、警察の捜査が始まる。やがて遺書はドラマの演出として書かれたものだと推察されるが、決定的な証人がどこにもいない。テレビ関係者は過去のつまらないドラマのことなどすぐに忘れ、大々的に全国へ証人を求めテレビ放送をしても、その放送すらもあっという間に忘れ去られてしまう。虚構と乱痴気騒ぎのマスメディアと踊らされる大衆には、ここ最近の某放送局の狂騒を思うと決して笑えない一編だった。

『たのしみ』
都会の喧騒から遠く離れた長閑な山村に、不審な男が現れる。村の人々は男を快く迎え入れたかのように見えたが、一転して村の因習に従い、彼を捉えて縊り殺してしまう。そして、それが当然のことのように受け入れられ、村は何事もなかったかのように平凡な日常へ戻っていく。自然豊かで癒やされるような村の風景と、そのすぐ隣にある陰惨な残酷描写。星新一は軽妙な物語ばかりではない、別の一面もあるのだと思い知らされる。

そして、何より恐ろしいのは、この本が「児童向け」に選ばれた作品集だということだ。税金やマスメディアの狂騒、田舎の因習。社会の裏表、建前と現実を、風刺とユーモアを交えて、ごく短いショートショート、それも子どもに読ませても問題ない語り口でさらりと描く、星新一の軽妙さと奥深さにゾッとさせられた。
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ビシャカナ
ビシャカナ さん本が好き!1級(書評数:606 件)

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