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ゆうちゃん
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星新一の初期のショートショート集。後年の彼の作品のパターンがこの短編集にも散りばめられている。彼は作品において時代を限定することを嫌うが、初期作品故か、珍しく年代を明記したものもあった。
星新一の36編のショートショートが載る作品集。この作品集も表題作はない。「ボンボンと悪夢」は、甘味と辛みが適度に効いた作品が並んでいるという意味だろうか。

このショートショート集は初出が1962年で、初期のものである。星新一は、作品に時代色がつくのを嫌がる作家で、SF的なものでも、現代ものでも、何時の時代のものなのか、わざとぼかしているのが普通である。しかし初期の作品集と言うことで、SF的な作品でも珍しく年代を記載している。「友を失った夜」の時代設定は2030年であり、今から6年後に相当する話である。火星ロケットが打ち上げられる中、祖母と孫がテレビを観ている。そこでは人類の友、ある動物の最後の一匹の息を引き取る様が放映されている。2024年にこの小説を読むと、火星ロケットも、その人類の友の動物の絶滅も真に迫る。偶然だろうが、珍しく年代を書いた、それも1960年代の作品が60年後の我々の感覚に近い出来事を扱っているのは、炯眼と感心したくなる。「健康の販売員」は2062年の話。主人公の私は、薬売りで、各家庭に置いた薬の在庫をチェックしながら、不足分を補うのが商売。同時に新しい薬を家庭に売り込む。その日、訪問した家の主婦には夫の浮気を疑わせ、自白作用の薬を置いてゆく。だが私の商売はこれでは終わらない。家を出るとその足で、電話ボックスに行き、公衆電話から夫に電話をかけて別の薬を売り込むのである。公衆電話と言う点が既に時代遅れだが、それはそれとして、後年の星新一なら2062年と年代を明記しないだろう。「乾燥時代」の年代は2155年。この頃、酒は禁止され老人は味気ないと思っていた。その晩も、ある地下の秘密クラブに行き酒を飲む。勿論、非合法だ。その旨い酒は蛇口をひねると出るのだった。老人は元学者のバーテンダーに、この時代に於いて酒を密造するなど無理の筈だと、そのからくりを訊く。バーテンダーは、老人はお馴染みさんだからとその秘密を教えた。だがその直後、蛇口をひねっても酒が出なくなる。原因を突き止めると・・。この話は実はある民話を結末に引っ掛けているのだが、その民話はそれほど有名ではないので、落ちがわかるかどうか・・。しかし、これも2155年である必然性はない。

本書の中でいつまでも結末を覚えている作品は「囚人」である。この頃は食糧危機の時代。全身が緑色の囚人は、牢獄に居るのになぜか非常に優遇されている。看守は居るが、専らその囚人を目指して外から攻撃してくる大衆を相手に戦っている。囚人は、いい加減に自分を殺したらどうか。と看守に持ち掛けるが、彼は応じない。看守も看守の仕事に就いている限り、政府から食料を保証されるのだ。では、なぜその男はこんな優遇された生活を送れるのか・・・。もうひとつよく覚えているのが「顔のうえの軌道」。主人公の藤川昌子は、容姿はパッとしないが演技力を買われ脚光を浴びている。彼女の演技力の秘密はほくろ。それを指南書通りの位置につけると、ある性格を体現できる。彼女にデビューのきっかけを与えたのは、今や売れっ子脚本家の旗野幸生。ふたりは学生時代からの知り合いで、旗野は藤川に結婚を迫っている。その晩、藤川は暗いタクシー内で次のドラマの撮影のために付けほくろの準備をした。だが暗くてどこに付けたか定かではない。局に着くと準備をさせてくれと頼む藤川の願いを聞きいれることなく、撮影が始まった。彼女は自分の演技が的外れだと悟り、撮影が終わると自分のキャリアも終わりだと思うのだった。そして旗野の待つバーに向かった。きっと結婚の話だろう。バーで鏡を見ると付けほくろはある位置に・・。

これが初期短編集だとすると、その後の星新一のショートショートの典型と言うべきものが多々登場している感じである。貧乏神やお地蔵様を主題にしたもの、セールスマンの来訪(来訪型の話)、研究所ネタ(たいていは、○○博士の研究所に研究成果を寄越せと言う人がやって来るパターン)、夢を手掛かりにした小ネタなど。別に二番煎じと言うつもりはなく、種々の短編集を読んでいくと、この作家は同じパターンの上に様々なアイデアを盛り込むことが出来る人なのだなとわかる。

解説は各務三郎である。彼は「妄想銀行」に載っている「鍵」と言う作品を解説で取り上げて優れた作品と言っている。これは自分と同じ意見で嬉しい。
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1687 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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この書評へのコメント

  1. 三毛ネコ2024-11-16 14:10

    こんにちは。この本は読んでいないのですが、星新一さんは子どものころによく読みました。最近、星新一さんを手本にしてオリジナルのショートショートをいくつか書いています。もちろん、星さんほどうまくは書けませんが。自分にも創作ができることが分かったのが収穫ですね。

  2. ゆうちゃん2024-11-16 20:34

    三毛ネコさん、コメントありがとうございます。
    この春から、時折、星新一のショートショート集の書評を投稿しておりますが、僕が読んでいる本も殆ど子供の頃、中学校時代に買い集めたものの再読です。古びないですし、アイデアがいっぱいですね。ご自分でお書きになるとは!創作までされるとは素晴らしいです!

  3. 三毛ネコ2024-11-17 04:33

    大したものは書いてませんが、ありがとうございます。長編小説は書けませんが、ショートショートなら、と思って始めてみました。書いてみて、ショートショートはアイデアさえ思いつけば書けることが分かりました。頭の体操としては悪くないですね。そのうちキンドルアンリミテッドなどで読めるようにできたらと思っています。

  4. ゆうちゃん2024-11-17 10:41

    三毛ネコさんの自己紹介を拝読すると文筆業のようですね。プロの書かれたものですから、水準を超えたものになっていると思います。キンドルで読めるようになることを楽しみにしております!

  5. 三毛ネコ2024-11-17 13:05

    ありがとうございます!コツコツ書いていきます。

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