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紅い芥子粒
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若者よ、旅に出よう!
アルケミストって、なんのことかと思ったら、スペイン語で錬金術師のことをいうのだった。旅する少年の物語だから、歩け歩けの「歩けミスト」かしらん、なんて、少年の前に錬金術師が現われるまで思っていた。

少年の名を、サンチャゴという。しかし、その名は、冒頭の一行にしか出てこない。作中ではずっと、「少年」とか「彼」とか書かれているので、読んでいるうちに主人公に名前があったことなんて、忘れてしまった。

少年は、羊飼いだった。スペイン南部のアンダルシア平原を、羊を連れて旅をしていた。彼は、神学校でラテン語とスペイン語と神学を学んでいたから、両親の望み通り神父になることもできたのだ。しかし、もっと広い世界を知りたいと思い、両親を説得して、この生き方を選んだのだった。
一枚の上着と、一冊の本と、羊の群れ。それが、羊飼いの全財産だった。

ある日、少年は、エジプトのピラミッドに宝物が眠っているという夢を二度も見た。
セイラムの王様だったという老人に背中を押され、少年は、羊を売って海峡を渡る。
エジプトへ、ピラミッドへ。
セイラムの王様だった老人は、こういったのだ。
「何かを本当に欲すれば、宇宙は常にお前の味方になってくれる」
これはもう、行くしかない。

心地よく読める物語だった。少年の一人旅だから、危険な目にも会うが、出会う人々がみな賢い。
少年も賢いから、金言の宝庫のような物語になっている。

少年は、ひとりでも孤独ではなかった。
もともと羊飼いだから、動物や空や大地の声を聞くことができた。
砂漠を旅するうちに、砂漠や星の声に耳を澄ますこともできるようになった。
旅の終わりごろには、自分の心と会話ができるようになった。
旅は、このように人を成長させるのだなと思った。

錬金術師は、鉛を金に変えるし、宝物はみつかるし、聖母のような少女と出会うし、少年の旅はいいことづくめ。
さあ、若者よ、旅に出よう。

しかし、わたしが心ひかれたのは、定住して人生という旅を生きる人々だ。
旅へのあこがれを胸に封じ込め、食べ物と水と家を守って少年を育てた両親。
メッカへの巡礼を永遠の夢として、丘の上で商売に励むクリスタル店主。
砂漠のオアシスで、日々同じ営みを繰り返しながら、旅に出た男の帰りを待つ女たち。
どんな生き方をしようと、人生という旅路は、人を成長させるのさ。

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紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:559 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

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この書評へのコメント

  1. ヤドリギ2019-09-05 08:42

    おはようございます。私も「アルケミスト」ハマりました。特に、彼が羊と共に旅する前半部分が好きです。

    気になる言葉に線を引いては、持ち歩いて占いの本みたいに使ってました。

    >歩け歩けの「歩けミスト」
    とは、素晴らしい名言です。

  2. 紅い芥子粒2019-09-05 12:43

    ヤドリギさん、コメントありがとうございます。ほんとにね、人生に恐いものがなくなるような本ですよね。名言がいっぱい。

  3. No Image

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