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そうきゅうどう
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ダール作品には、しばしば男女(特に夫婦)の間のすれ違いが、あるグロテスクな結末を引き起こす物語が描かれる。だが、今読み返してみると、その裏には女性に対する強い嫌悪と恐れがあることが分かる。
私は中学1年の頃、まだ創刊間もないハヤカワ・ミステリ文庫でロアルド・ダールの『あなたに似た人』を読んで、短篇への目が開かれた。だから私にとってダールは特別な作家の1人であり、異色作家短篇集(改訂新版)の『キス・キス』も、もちろん持っていた(が多分、親に処分されてしまって、もう今はない)。
ここのところ、過去に読んで(いい意味でも悪い意味でも)印象に残った作品を改めて読み返す、ということをしていて、今回は『キス・キス』で約45年振りにダールを読み返してみた。

ちなみに『キス・キス』は早川書房から1960年に異色作家短篇集の1冊として刊行され、1974年にそこから何冊かを除いて改訂新版として再刊された時もラインナップに残り、2005年には異色作家短篇集として再々刊され、現在は文庫化されている。

ダール作品には、しばしば男女(特に夫婦)の間のすれ違いが、あるグロテスクな結末を引き起こす物語が描かれる(例えば『キス・キス』では収録作11篇のうち6篇がそういう話)。だが、今読み返してみると、その裏には女性に対する強い嫌悪と恐れがあることが分かる。
世の中には、女性と話したり一緒にいたりすると激しい不安や不快感、パニックを起こす「女性嫌悪症(ミソジニー)」というものがあるという。ハリウッド女優のパトリシア・ニールを妻にしていたダールがミソジニーだったのかどうかは分からないが、彼の作品には特に「産む性」としての女、そしてその女から産まれてくるもの=赤ん坊に対する激しい嫌悪と恐れ(「畏れ」ではなく)が色濃く滲んでいる。
本書では「ウィリアムとメアリイ」、「天国への登り道」、「ビクスビイ夫人と大佐のコート」、「ローヤルゼリー」、「ジョージイ・ボーギイ」、「暴君エドワード」の6篇が明らかにそうであるが、「女主人」、「誕生と破局」、「豚」もそういう話として読むことができる(というか、実はそう読むのが正しいと思う)。そうなると実に11篇中9篇であり、これはもう「たまたまそうなっただけ」では済まない数字だ。

解説で阿刀田高は本書の収録作から「女主人」、「天国への登り道」、「牧師のたのしみ」をベスト3として挙げているが、私は「ローヤルゼリー」、「ジョージイ・ボーギイ」、「豚」をベスト3として挙げたい。これらはそれぞれ違った形で、ダールの提示する女性に対する嫌悪と恐れが強烈に感じられる作品たちだ。
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そうきゅうどう
そうきゅうどう さん本が好き!1級(書評数:595 件)

「ブクレコ」からの漂流者。「ブクレコ」ではMasahiroTakazawaという名でレビューを書いていた。今後は新しい本を次々に読む、というより、過去に読んだ本の再読、精読にシフトしていきたいと思っている。
職業はキネシオロジー、クラニオ、鍼灸などを行う治療家で、そちらのHPは→https://sokyudo.sakura.ne.jp

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