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DBさん
DB
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レボドパによる目覚めの本
脳神経科医のサックス博士が、1960年代末から70年代にかけてマウント・カーメル病院で働いていた臨床ケースを紹介した本です。
1920年代に流行した嗜眠性脳炎の後遺症として若年で発症する重症のパーキンソン症候群が問題になっていた。
動くことも話すこともできず、精神活動さえもあるかどうかわからない状態で毎日を病院で過ごす人々。
精神の荒野のような状態の中で、奇跡の薬として現れたのがLドーパだ。
この薬の効果と患者の症例を詳しく、そしてわかりやすく書いたのが本著である。

パーキンソンといえば黒質線条体ドーパミンニューロンの欠損とパブロフの犬のように記憶したものだが、本著を読むことでアキネジアやカタレプシーといった言葉として覚えていた状態が目で見える病態として浮かび上がってきた。
パーキンソン症候群に対して画期的な薬としてLドーパだったが、それに対する反応は人によって様々だった。
サックス博士は通常のパーキンソン病の男性も含めた二十人の患者に焦点を当てて、その生い立ちから家族構成、嗜眠性脳炎に倒れるまでの人柄まで詳しく書いている。

中には二ページくらいで終わってしまう例もあるが、看護する家族との関係や細かい観察による人格描写まで生々しい。
半世紀を経ての目覚め、これがその人にどんな影響を与えるのか。
時間の経過を受け入れることができず生きる気力を失ったり、薬の反応の激烈さにすべてのバランスを失ってしまった患者もいる。
ごくわずかの成功例を除いて、患者のほとんどは薬の効果と副作用に翻弄され生涯を閉じていった。

タイトルになっているレナードも、Lドーパに対する反応が過剰すぎて脱落している。
一度Lドーパが作用してドーパミンが過剰になれば、今度は躁病の状態に振り切れてしまう。
それにドーパミンが快楽ホルモンと呼ばれるように本能剥き出しの状態になってしまうのだ。
超新星からブラックホールへという表現のままに、人間などもみくちゃにされてしまいそうな体験談が書かれていた。
しかし、サックス博士はなぜ治療がうまくいったわけでもないレナードをタイトルに冠したのだろうか。
レナードの知性の鋭さと、その経験からくる言葉の深みが記憶に残る。
『私は生けるロウソクである。あなたが学ぶために私は燃えてゆく。私の苦しみの光のなかに新しいものがみえてくるだろう』
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DB
DB さん本が好き!1級(書評数:2022 件)

好きなジャンルは歴史、幻想、SF、科学です。あまり読まないのは恋愛物と流行り物。興味がないのはハウツー本と経済書。読んだ本を自分の好みというフィルターにかけて紹介していきますので、どうぞよろしくお願いします。

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