レビュアー:
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作家の名前は憶えづらいけれど、きっと忘れられない読者体験になる、素晴らしい短編集!
愛おしい、なんて愛おしいのだろう……。タイ系アメリカ人作家・ラッタウット・ラープチャールンサップの短編集を読んで、そんな感想が心に浮かんできた。数年前に読んで以来の再読となったが、当時の鮮烈な印象そのままに、色褪せたところがまったくなかった。
本書には6つの短編と1つの中篇が収められている。とりわけ印象深いのは、バンコクに生きる若者(少年)の視点で語られる作品群である。リゾート地を舞台に、アメリカ人の父とタイ人の母をもつ少年(作中では混血児と云われる)が、リジーというアメリカ人女性に恋を抱く「ガイジン」、兄に憧れ大人の世界をかいま見たいと願う少年を主人公にした「カフェ・ラブリーで」の2篇だ。
ふたつの作品には、往年のハリウッド映画やマクドナルドに憧れ、コカコーラを口にしたり、日本製バイクを乗り回したりと、異国文化を享受する若者たちの姿が描き込まれている。いっぽうで、バンコクを訪れる観光客を快く思わない地元民の心証がここに対比されており、前者の作品に登場する、母親や叔父はその象徴的な存在だ。わたしが新鮮な気持ちで読んだのは、こうした地元民のシニカルで屈折した心情を織り込みながら、そこに生きる人々の自尊心やアイデンティーが繊細な筆致で掬いとられたところにあった。
また、難民の少女と少年の出逢いと別れまでを描く「プリシラ」も、親友との仲が国家に引き裂かれる「徴兵の日に」も、読み手の胸に沁み入るような味わい深さがある。どの作品にも、遠い国の出来事のようには思えない近しさ・親密さが感じられるのは不思議だ。恵まれない環境に生きる人々の姿が、なんとまばゆく読者の胸に射し込んでくることか。とにかく読んでください。ひとりひとりをそっと抱きしめたくなりますよ。素晴らしい短編集です。
本書には6つの短編と1つの中篇が収められている。とりわけ印象深いのは、バンコクに生きる若者(少年)の視点で語られる作品群である。リゾート地を舞台に、アメリカ人の父とタイ人の母をもつ少年(作中では混血児と云われる)が、リジーというアメリカ人女性に恋を抱く「ガイジン」、兄に憧れ大人の世界をかいま見たいと願う少年を主人公にした「カフェ・ラブリーで」の2篇だ。
ふたつの作品には、往年のハリウッド映画やマクドナルドに憧れ、コカコーラを口にしたり、日本製バイクを乗り回したりと、異国文化を享受する若者たちの姿が描き込まれている。いっぽうで、バンコクを訪れる観光客を快く思わない地元民の心証がここに対比されており、前者の作品に登場する、母親や叔父はその象徴的な存在だ。わたしが新鮮な気持ちで読んだのは、こうした地元民のシニカルで屈折した心情を織り込みながら、そこに生きる人々の自尊心やアイデンティーが繊細な筆致で掬いとられたところにあった。
また、難民の少女と少年の出逢いと別れまでを描く「プリシラ」も、親友との仲が国家に引き裂かれる「徴兵の日に」も、読み手の胸に沁み入るような味わい深さがある。どの作品にも、遠い国の出来事のようには思えない近しさ・親密さが感じられるのは不思議だ。恵まれない環境に生きる人々の姿が、なんとまばゆく読者の胸に射し込んでくることか。とにかく読んでください。ひとりひとりをそっと抱きしめたくなりますよ。素晴らしい短編集です。
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ごめんちゃい。
(2019/11/16)
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- 出版社:早川書房
- ページ数:320
- ISBN:9784151200625
- 発売日:1999年11月30日
- 価格:840円
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