Yasuhiroさん
レビュアー:
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200冊目のレビュー記念に、#棚マル企画参加も兼ねてこの作品を選んでみました。問答無用の文学史上世界最高傑作の一つです。(全巻まとめてのレビューです)
これで早いもので本が好き!のレビューも200冊目を迎えることができました。いつもイイネしてくださる皆さん、コメントくださる「濃い」レビュアーの皆さんのおかげと感謝しております。
せっかくなのでデカいのを、と思っていたのですが、ちょうど愛州帝、じゃなかった哀愁亭味楽さんの「#棚マル 応援企画!みんなの推薦本リストを制覇しよう!」が始まったので、それにのっかって、ゆうちゃんさんのレビューされた「カラマーゾフの兄弟」を選んでみました。コンプリートするには一番高い壁でしょうし(w。
実は私、一度ブクレコでレビューしたことがあるのですが、最近職場の広報誌に「お勧めの一冊」で選んで再読する機会があったので、その原稿をもとに再構成してみました。よろしくお付き合いください。
「カラマーゾフの兄弟」、誰でもその題名は一度は聞いたことがあるであろう、サマセット・モームの選んだ「世界十大小説」の一つです。
ドストエフスキーの人生は波乱万丈。
・病的なまでに天才的な文才を持ち、
・農奴解放、西洋科学の流入、社会主義の台頭という激動の時代のロシアに生き、
・社会主義に染まりかけて死刑判決を受け銃殺寸前で恩赦となり、
・シベリアに流刑され、その際にロシア正教に帰依したはいいが、
・その後も無類の浪費家でギャンブル狂で借金にまみれ、結婚離婚を繰り返し、
・持病の癲癇発作と肺気腫に悩みながら、
幾多の傑作小説を書き続けた人間でした。
そしてこの作品はその彼の最後にして最長の作品で、21世紀の現在においてもいまだこれ以上の小説は現れていないのではないかと個人的には思います。それも第二部の構想があった「未完」の作品なのですから驚きです。
一言で言えば農奴解放後のロシアである町の名家の父親が殺されその犯人探しをするだけの「ミステリー」なのですが、そこに充溢するエネルギーとドストエフスキーの人生を賭けた宗教哲学観の開陳は読む者を圧倒します。
・第一部での野卑で好色な父フョードルの傍若無人、出てきた途端に暴れまくる長男ドミートリー(ミーシャ)の無邪気なまでの放埓
・第二部での無神論と「大審問官」を延々と語り続ける次男イワンの異様なまでの興奮
・第三部でいよいよ本領発揮するドミートリー、その恋狂いと金策、フョードル殺害事件での動揺と其の後の乱痴気騒ぎ、これはまさに神聖喜劇
・第四部でついにその正体を現し、イワンを追い詰めるフョードルの私生児スメルジャコフと、それまで見下していたそのスメルジャコフに魂を引き裂かれ、分身の悪魔に翻弄されるイワン
しかし、これらの怪物たちを差し置いて語り手わたし(≒ドストエフスキー)が主人公に指名するのは三男アレクセイ(アリョーシャ)です。
上記の殆ど全ての場面や女性たちの家、更には地元のこどもたちの家にも顔を出す、この心優しい男も「わたし」に言わせれば、
なのです。ただ、「わたし」が言うようにこの物語を読むだけではその片鱗しかわかりません。おそらくは「エピローグ」の最後を飾る名場面を共にするコーリャ少年たちとともに、第二部でその真価は発揮されることになっていたのでしょう。
もちろん「カラマーゾフの血」以外の登場人物も尋常ではありません。徹底して「善」として描かれるゾシマ長老と、その死後の早すぎる腐敗に狂喜するフェラポント神父の狂気。ゾシマ長老の若かりし頃に決定的な影響を与える「謎の訪問者」。
女性陣だって負けてはいません。父フョードルと長男ミーシャを手玉に取る妖婦グルーシェニカ、ミーシャとイワンの間で揺れ最後の裁判で本性を見せるカテリーナ、純真な少女なのか小悪魔なのかこの作品だけではわからない美少女リーズ(リーザ)、とにかく脈絡もなくひたすら喋り捲るリーズの母ホフラコーワ未亡人。
神学論と恋愛小説と殺人事件が絡まった糸のように混乱を極める中で、これらの女性たちはしょっちゅうヒステリーで気を失いはするものの、意外にしたたか。小林秀雄は言います。
と。
神学論に関しては、突き詰めていけば「不可知論」になってしまうのでここではやめておきます。ドストエフスキーが正教に帰依していたのですから「大審問官」にキリストは勝ったのでしょう、おそらくは。そしてそれはアリョーシャがイワンに勝ったということでもあるのでしょう。
再読再再読に耐えうる傑作ですので、未読の方はもちろん若い頃に読んだという方も再挑戦されてはいかがでしょうか。訳者を選ぶのが難しいところですが、平易さと詳細な解説がついているこの亀山邦夫訳が現代ではスタンダードとなりつつあります。「亀山問題」なるものも存在するのですが、まあ普通に読む分にはまず問題ないと思います。
せっかくなのでデカいのを、と思っていたのですが、ちょうど愛州帝、じゃなかった哀愁亭味楽さんの「#棚マル 応援企画!みんなの推薦本リストを制覇しよう!」が始まったので、それにのっかって、ゆうちゃんさんのレビューされた「カラマーゾフの兄弟」を選んでみました。コンプリートするには一番高い壁でしょうし(w。
実は私、一度ブクレコでレビューしたことがあるのですが、最近職場の広報誌に「お勧めの一冊」で選んで再読する機会があったので、その原稿をもとに再構成してみました。よろしくお付き合いください。
「カラマーゾフの兄弟」、誰でもその題名は一度は聞いたことがあるであろう、サマセット・モームの選んだ「世界十大小説」の一つです。
ドストエフスキーの人生は波乱万丈。
・病的なまでに天才的な文才を持ち、
・農奴解放、西洋科学の流入、社会主義の台頭という激動の時代のロシアに生き、
・社会主義に染まりかけて死刑判決を受け銃殺寸前で恩赦となり、
・シベリアに流刑され、その際にロシア正教に帰依したはいいが、
・その後も無類の浪費家でギャンブル狂で借金にまみれ、結婚離婚を繰り返し、
・持病の癲癇発作と肺気腫に悩みながら、
幾多の傑作小説を書き続けた人間でした。
そしてこの作品はその彼の最後にして最長の作品で、21世紀の現在においてもいまだこれ以上の小説は現れていないのではないかと個人的には思います。それも第二部の構想があった「未完」の作品なのですから驚きです。
一言で言えば農奴解放後のロシアである町の名家の父親が殺されその犯人探しをするだけの「ミステリー」なのですが、そこに充溢するエネルギーとドストエフスキーの人生を賭けた宗教哲学観の開陳は読む者を圧倒します。
・第一部での野卑で好色な父フョードルの傍若無人、出てきた途端に暴れまくる長男ドミートリー(ミーシャ)の無邪気なまでの放埓
・第二部での無神論と「大審問官」を延々と語り続ける次男イワンの異様なまでの興奮
・第三部でいよいよ本領発揮するドミートリー、その恋狂いと金策、フョードル殺害事件での動揺と其の後の乱痴気騒ぎ、これはまさに神聖喜劇
・第四部でついにその正体を現し、イワンを追い詰めるフョードルの私生児スメルジャコフと、それまで見下していたそのスメルジャコフに魂を引き裂かれ、分身の悪魔に翻弄されるイワン
しかし、これらの怪物たちを差し置いて語り手わたし(≒ドストエフスキー)が主人公に指名するのは三男アレクセイ(アリョーシャ)です。
上記の殆ど全ての場面や女性たちの家、更には地元のこどもたちの家にも顔を出す、この心優しい男も「わたし」に言わせれば、
「たしかにすぐれた人物だが」「けっして偉大な人物ではない」「変人といってもよいくらい風変わりな男」
なのです。ただ、「わたし」が言うようにこの物語を読むだけではその片鱗しかわかりません。おそらくは「エピローグ」の最後を飾る名場面を共にするコーリャ少年たちとともに、第二部でその真価は発揮されることになっていたのでしょう。
もちろん「カラマーゾフの血」以外の登場人物も尋常ではありません。徹底して「善」として描かれるゾシマ長老と、その死後の早すぎる腐敗に狂喜するフェラポント神父の狂気。ゾシマ長老の若かりし頃に決定的な影響を与える「謎の訪問者」。
女性陣だって負けてはいません。父フョードルと長男ミーシャを手玉に取る妖婦グルーシェニカ、ミーシャとイワンの間で揺れ最後の裁判で本性を見せるカテリーナ、純真な少女なのか小悪魔なのかこの作品だけではわからない美少女リーズ(リーザ)、とにかく脈絡もなくひたすら喋り捲るリーズの母ホフラコーワ未亡人。
神学論と恋愛小説と殺人事件が絡まった糸のように混乱を極める中で、これらの女性たちはしょっちゅうヒステリーで気を失いはするものの、意外にしたたか。小林秀雄は言います。
「女達は皆ぐっすりと眠っている事に注意し給え。」
と。
神学論に関しては、突き詰めていけば「不可知論」になってしまうのでここではやめておきます。ドストエフスキーが正教に帰依していたのですから「大審問官」にキリストは勝ったのでしょう、おそらくは。そしてそれはアリョーシャがイワンに勝ったということでもあるのでしょう。
再読再再読に耐えうる傑作ですので、未読の方はもちろん若い頃に読んだという方も再挑戦されてはいかがでしょうか。訳者を選ぶのが難しいところですが、平易さと詳細な解説がついているこの亀山邦夫訳が現代ではスタンダードとなりつつあります。「亀山問題」なるものも存在するのですが、まあ普通に読む分にはまず問題ないと思います。
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馬鹿馬鹿しくなったので退会しました。2021/10/8
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この書評へのコメント
- KIKU2017-08-29 00:40
> Yasuhiroさま, かもめ通信さま, ゆうさま
御三方の素晴らしい書評を拝読させていただきました! (かもめ通信さまにおきましては、読み比べまでなさっていて、感嘆いたしておりました。)
私はこちらの作品、新潮文庫版で挑戦したことがあるのですが、見事に序盤で玉砕いたしましたw
皆様の書評を拝見しておりましたら、光文社古典新訳文庫の亀山郁夫訳で、この機会にもう一度挑戦してみようかなと意欲が湧いてまいりました。
#棚マル企画でこちらの作品に再び出会えたご縁を嬉しく思います。素敵な作品を推薦してくださったゆうさまに改めて感謝致しております。
そして最後に、Yasuhiroさま。200冊書評達成、本当におめでとうございます!! 『カラマーゾフの兄弟』の魅力や指針を与えて下さる書評を拝読させていただき誠にありがとうございました。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。
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