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ゆうちゃん
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謎解きや落ちを楽しむ作品が並んでいる。ミステリっぽい作品が多い。表題作は好きな短編。エレベーター事故で息子を失った父親の悲哀を傍観者が乾いた目で見つめている。
表題作「晩餐後の物語」他、7編が載る短編集。

「晩餐後の物語」はNHKのラジオドラマで聞いて買った作品でアイリッシュの短編の中でも自分にはイチオシである。マッケンジーという浄水器の販売員が、ある日、13階からエレベーターに乗った。夜も遅い時間だった。エレベーター・ボーイ入れて7人が乗客となったエレベーターは、落下事故を起こした。エレベーター・ボーイは亡くなったが、他6名は生きているようだった。間もなく救出隊が駆け付け、マッケンジーは天井を焼き切る火花が落ちる中で、その中に上下ではなく水平に飛ぶ火花も見た気がした。救出されてみるとエレベーター・ボーイの他にハーデッカーと言う青年も亡くなっていた。数日後、刑事が訪ねてきた。ハーデッカーの父に頼まれてたのだと言う。彼は落下の衝撃ではなく拳銃で撃たれていた。警察では事故の混乱と悲観で自殺と結論したが、その父親は納得していない。マッケンジーは死んだハーデッカーの落ち着いた声を聞いていて自殺などしそうもないと思ったのでそう口にした。しかし、刑事は父親がうるさいので一応は調べているという態度だった。1年後、マッケンジーと他に助かった4名の客がハーデッカーの父親に晩餐に招待された。生きがいの息子と、息子の死にショックを受けたその妻も亡くなり、あの日に縁があった5人に遺産を分けたいという。ところが晩餐が出た後・・。
この短編は終始マッケンジーの視点で語られる。彼は観察力の鋭い男で、探偵物の主人公にしてもよさそうだが、徹底的な傍観者であり、始終達観した感じを受ける。そんな彼も遺産の誘惑に抗しきれず晩餐に参加したが、その結果がまた意外なほど秀逸な内容である。

他の7編だが、大別して事件とその解決(ミステリに近いもの)が、「射的の名手」、「盛装した死体」である。アイリッシュの短編集には特定の探偵と言うものはおらず、本書の場合、その場その場の公的機関の捜査官が捜査に当たっている。これらはミステリに近いと言っても、手掛かりが全て与えられている訳ではなく、最後に著者が明かしたプロットの妙を楽しむ作品と言える。
ミステリの味わいを残しながらもアイリッシュらしいミステリ以外の意外さの要素を織り交ぜたのが「階下(した)で待ってて」と「ヨシワラ殺人事件」である。前者は「幻の女」を彷彿とさせる作品。後者は、題名の通りミステリだがアメリカ人が見た日本的要素を絡ませた点が、アイリッシュ的か(その日本的要素が殺人のプロットの妙に加え、別の意外さを持ち込んでいる)。
「遺産」「金髪殺し」「三文作家」は落ちを楽しむものだが、だいたい結末は予測できた。予測できたなりに楽しいのが「三文作家」で、これはもしかしたら著者の実体験なのかもしれない。

「ヨシワラ殺人事件」は、マッカーサーが進駐した頃の日本を扱っている。アメリカ人の書いたミステリ・サスペンスでは「ニッポン樫鳥の謎」と言う作品があるが、大きな点では日本の習俗は理解されているが、どちらも細かい点で日本への誤解がある。
「ホリンジャー(探偵役のアメリカ水兵)は、白はこの国では不吉を表すという(327頁)」(日本でも不吉の印は黒ではないか・・)
「(遊郭の庭に)コオロギが鳴いていた。この国では賊が入るとコオロギが鳴き止むと聞いていた。案の定そうなってホリンジャーは緊張した(336~337頁)」

後者はそういう慣習があって自分が知らないだけなのかもしれないが一般的ではない気がする。それにヨシワラ殺人事件が起きたのは末尾の会話から5月頃のことと推測され、コオロギの季節ではない。側に日本人の校正者が居れば、もっと良い作品になったのだろうと思うのだが、それは自分が日本人だからだろうか。
末尾で細かい欠点を挙げてしまったが、押しなべて楽しめるサスペンス小説が並んでいる買って損はない短編集である。
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1689 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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