書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

ゆうちゃん
レビュアー:
表題作はヒッチコックの映画で有名。それ以外の8編の短編のうち幾つかは、幻想的な小説も含まれ、これまでのアイリッシュの短編の傾向から外れた作品が多い。傾向が違えば違うなりに楽しい作品に仕上がっている。
アイリッシュ短編集の3巻。表題作の「裏窓」はヒッチコックの映画で有名である。その他、8編を収める。

本書は、アイリッシュ的なミステリ・サスペンスの作品もあるが、1,2巻の傾向から外れたものも収録されている。もっともそれが顕著なのが「いつか来た道」でアメリカの貿易商の息子スティーヴン・ボティリャーが主人公。ボティリャー家は名門で先祖の肖像が陳列館に並んでいるが、彼は外国で死んだという曾祖父そっくりだった。大学を卒業して父親の事業を継ぐ前に海外旅行をするのだが、地中海の隅にある「ダニュービア」(おそらく架空の地名)と言う国を訪れた時に既視感があった。スティーヴンはダニュービアに上陸すると憑かれたようにモラヴァト伯爵の領地を目指すが・・。プロットは全然異なるが似たコンセプトで組み立てられたのが「殺しの翌朝」で、寝不足で過労気味の刑事があるアパートで殺された男の捜査をするのだが、だんだん思い出すことがあり・・、と言う話。
残りは、殺人を扱った何時ものミステリ・サスペンスだが、目先を変えて工夫したものが幾つかある。優れているのが、怪我で一室に閉じ込められた男がアパートの向かいの男の不審な動きから殺人の疑いを深めてゆく「裏窓」。そして10年前に事故か何かで全身麻痺になり、残っているのは視覚と聴覚だけと言う老母ジャネットが、息子の妻ヴェラとその愛人が共謀して息子を殺すと言う内緒話を聞いてしまうと言う設定の「じっと見ている目」。当然のことながらジャネットは、人の良い息子が殺されるのを全力で阻止しようとするが、本人の体が全く思う通りにならない点が、サスペンスを盛り上げる。これまでのアイリッシュのサスペンスは危機的境遇に置かれた主人公の行動がどうなるか、と言う点が主眼だったが、この作品は愛する息子を助けようともがく母親の心情の活写が秀逸。
本書の殺人サスペンスで平凡な出来なのが、同僚のジェーンが殺されたことを知った踊り子ジンジャーの捜査振りを描いた「踊り子探偵」と、ひょんな手掛かりから偽札犯を突き止める「帽子」。
「死体をかつぐ若者」、「だれかが電話をかけている」の2編は殺人事件を扱っているが、落ちを楽しむというアイリッシュの別のパターン。「死体をかつぐ若者」は「じっとみている目」と逆の状況で父親が愛人といちゃつく妻を思わず殺してしまうのだが、息子が自首するという父親を思い留まらせ、あれこれ奔走する話。こちらは父思いの青年の心情がよく描かれているが、主題はそれではなく落ちの方だと思った。「だれかが電話をかけている」は5頁くらいの作品でショートショートと言った方が良い。これも落ちがあるが、この落ちは、既読感があるかもしれない。
「ただならぬ部屋」は、セント・アンセルム・ホテルの913号室の宿泊者が、1年から1年半の間隔を開けて4人も飛び降り自殺するという事件。毎回駆けつけてくる刑事のコーランダーは、遺書を根拠に自殺で片づけるが、そのホテルの保安警備員のストライカーはそうは思わない。彼は「捜査」をするがそれが事情でホテルを首になった。1年後、髭を生やした彼は、客として913号室に泊まり、自ら事件か事故か蹴りをつけようとする。オカルトかミステリか、それは読んでのお楽しみである。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1681 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

読んで楽しい:2票
参考になる:24票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『裏窓―アイリッシュ短編集 (3)』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ