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darklyさん
darkly
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珍しい綾辻さんのホラー短編集。
カドフェス制覇に参加しようと思いまして未達成状況の中から選んで読んでみました。全く予備知識がなかったのですが綾辻さんの本なので推理小説かと思いきやホラー小説短編集ということで、どのようなホラー小説を書かれるのだろうと期待しながらページをめくりました。

印象的には収められた作品の半分以上はホラー小説というよりは、不思議な話やファンタジーに近いものが多く、夜中にトイレに行けなくなるようなものはあまりありませんでした。(笑)
しかし、それは面白くなかったということではありません。

気に入った作品から何点か書いてみたいと思います。

【呼子池の怪魚】
主人公が近くの池で奇妙な魚を釣り上げる。家に持って帰り水槽で飼うことにした。夫婦二人暮らしなのだが妻は過去の流産が元で子供を産むことができない体となっている。水槽の魚は徐々に形を変えていきトカゲのような陸棲生物に変身した。夫は薄気味悪く感じ始める一方、妻はこの生物に執着し始める。そしてその変化は更に進んで・・・

妻のこの生物に執着する意味が最後に分かります。しかし、漫然と読んでしまうと意味が分からず単なるファンタジーとして読んでしまう危険がある話です。読み終えて少し考えて唸りました。この発見はこの夫婦にとって良いことなのか、悪いことなのか。

【特別料理】
主人公は学生時代にカレーに混じったゴキブリを食べたことがきっかけでゲテモノ食いとなった。ひょんなことから夫婦でゲテモノのレストランの常連客となったが、ある日常連にしか提供されない<ランクC>の特別料理、回虫や蟯虫、サナダムシなどの寄生虫料理を食べる。はたして<ランクB><ランクA>の料理とは?

読むと気分が悪くなること必定です。ですが、気持ち悪い話であってもホラーではなないなあと思いながら読みました。最後の二行までは。なんとも不気味な終わり方。その後の主人公たちの行動を想像してしまうという部分では「呼子池の怪魚」と同じですが、後者の少し希望がある話とは対照的。

【人形】
綾辻さんと思われる主人公が実家で静養していた。犬を連れて散歩に行き川のほとりで犬を放したところ人形を咥えて戻ってきた。人形は服は着ているがのっぺらぼうであった。その人形を家に持って帰ったところ不可解な現象が起こり始める。入浴中に自分の胸にあった黒子がないことに気づく。人形を見ると同じところに黒子のような黒い点ができている。

ベルギーの幻想小説家トーマス・オーウェンの「黒い玉」を彷彿するようなループ状の構造を持つ話です。これもホラーというよりも幻想小説といった趣ですが、雰囲気がとても好きな作品です。

【眼球奇譚】
主人公に後輩から郵便が届く。その中には「眼球奇譚」という小説の原稿が入っており、「読んでください。夜中に、一人で。」という手紙が添えられていた。
「眼球奇譚」という小説の中の主人公倉橋は、同窓会のため久しぶりに昔住んでいたところを訪れる。そこでは殺した後に目をくりぬくという殺人事件が6件発生していたが、既に犯人は射殺され事件は解決していた。しかし、くりぬかれた目は発見されなかった。倉橋は住んでいた当時母親を自殺で亡くしたが、その母親の瞳の色は特徴があった。ある無人の屋敷を自分の秘密の隠れ家にしていたが、そこで現実とも幻ともつかない母親と同じ瞳の色の女性と愛し合う。そしてその時期の出来事が連続殺人の遠因であったことを倉橋は知る。

「眼球奇譚」という小説の中での怪異の連鎖がやがてそれを読んでいる主人公にも及ぶという入れ子構造が見事です。表題作であり、もっともホラー色が強い。集英社版のジャケットのデザインは京極夏彦が担当しており、この作品の翌年の京極氏の作品が「絡新婦の理」。この作品は目つぶし魔の話であるのは偶然だろうか。

短編集すべての話に「由伊」という女性が出てきます。「由伊」の役割は全く違い、怪異そのものの場合もあれば、全くイノセンスな登場人物という場合もあります。しかし、すべてこの「由伊」が絡んでいることにより一種の不気味な神話、「由伊神話」のような印象を私は持ちました。

綾辻さんの小説だからはずれはないだろうと思っていましたが予想以上の短編集でした。
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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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