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Wings to fly
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私は、私の浜辺で貝殻を拾おう。
浜辺に横たわり、寄せては返す波音や空を渡る風に耳を澄ませている自分を想像してほしい。仕事や家事や日々の雑事から離れ、浜辺と同化してひたすら空虚に横たわっている自分を。「ここ」と「今」しか存在しない時、思いはひたすら自分の中へと向かう。そして無意識の波は、深い心の海の底から様々な貝殻を運んでくる。

夫と5人の子どもから離れ、島の別荘でひとり休暇を過ごすリンドバーグ夫人は貝殻を拾い集めた。“ほら貝”は暮らしの簡素さを語り、“つめた貝”は孤独の必要性を語り、人間についての思索が貝殻に事寄せて紡がれてゆく。この貝殻コレクションには、「何に価値を置いて生きるか」というひとつのテーマがある。愛すること、また人の本質への深い考察は、夫人と同じく飛行家だったサン=テグジュペリの『人間の土地』を思わせる。

「私たちは私たちの孤独の世界に自分の夢の花を咲かせる代わりに、そこを絶え間ない音楽やお喋りで埋めて、そして我々はそれを聞いてさえいない。」

60年前の作品だが、え?!これって現代のことでしょ?・・・なんて思うところがたくさんある。自分の内面との対話、精神的な自立など、生きがいある人生に必要な普遍的事柄が、詩的に表現された作品と思う。「なるほど、美しい日本語だもの。」と、今も版を重ねているのが納得の吉田健一訳なのだが、ところどころ文章が固く、若い世代には少し読みづらいだろうとも感じた。そろそろ新訳が出てもいい頃ではなかろうか。

喜びを自分のために曲げるものは
翼がある命を滅ぼすが、
通り過ぎる喜びに接吻するものは
永久の日差しに生きる。

夫人が紹介してくれたブレークの詩である。愛とは、自分の中の、相手の中の、「翼ある命」を尊ぶこと。この詩のためだけでも、読んだ甲斐があったというものだ。

こうして時々、読んだ本から得たものを書きながら、私は自分と対話しているのだと思った。私は、私の浜辺で貝殻を拾おう。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

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