ぽんきちさん
レビュアー:
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ほんとうのさいわいを求め、冬の空を旅する
「新編」というけれども平成元年(1989年)初版である。
詩人の天沢退二郎が編者となって編んだ、宮沢賢治童話集3冊のうちの1冊(他は『風の又三郎』、『注文の多い料理店』)。
よく知られている「よだかの星」「オツベルと象」(ずっと「オッペル」だと思っていたが、「オツベル」が正しいらしい)「セロ弾きのゴーシュ」などに加えて、「飢餓陣営」「ビジテリアン大祭」など、自分では初めて読むものも含めて、14編が収録されている。
賢治の著作はほとんどが未整理箇所を残す未定稿だったのだそうで、本書では自筆原稿や初版本に近いものを採用しており、ところどころに「一字抜け」「以下原稿数枚なし」などという箇所があって「おっとっと・・・」と思う。慣れてしまうとあまり気にならないのだが。
宮沢賢治という人は、相当に複雑で、しかし健康な精神を持った人だったのではないかと思う。人として、自分や他人の心の「黒さ」も熟知した上で、さらに高みを目指そうというような、強い透明なまなざしを、この作品群からは感じる。
「ビジテリアン大祭」の論戦の応酬がおかしくもすごい。「銀河鉄道の夜」の透き通るような淋しさ・美しさには、再読してよかったと思った。一番好きなのは、「セロ弾きのゴーシュ」。「猫の事務所」は何だか悲しいお話だった。
さて、表題作である。
冬の空のように、うつくしいけれど凍てつくような淋しさ。
大人になって、再読にし、そんなふうに感じた。
ジョバンニは級友の意地悪に歯噛みし、一方で列車で行き会わせた鳥捕りや姉弟を疎んじたり軽んじたりする。彼は自ら、その2つの根っこが同じところにあることを知り、それだけに苦しい思いをしている。蔑みたくはないし、蔑んで欲しくもないのに、蔑み、そして蔑まれる。矛盾を抱えたまま、真にさいわいなるものを求める旅。
カムパネルラはザネリのために自らの命を失う。それがほんとうのさいわいであったのかはわからないが、命を失ったカムパネルラの旅は終わらざるを得ない。
それぞれのさいわいはそれぞれが見つけ出すべきものだ。だからさいわいなるものを探す旅は、孤独だ。深い孤独を背負いつつ、手に届くかどうかわからないきらめく星のようなさいわいを追い求める旅は、夢のように淋しくうつくしい。
*ベースは2009年12月に書いたもの。本作はやはり、冬に似合うような気がします。
詩人の天沢退二郎が編者となって編んだ、宮沢賢治童話集3冊のうちの1冊(他は『風の又三郎』、『注文の多い料理店』)。
よく知られている「よだかの星」「オツベルと象」(ずっと「オッペル」だと思っていたが、「オツベル」が正しいらしい)「セロ弾きのゴーシュ」などに加えて、「飢餓陣営」「ビジテリアン大祭」など、自分では初めて読むものも含めて、14編が収録されている。
賢治の著作はほとんどが未整理箇所を残す未定稿だったのだそうで、本書では自筆原稿や初版本に近いものを採用しており、ところどころに「一字抜け」「以下原稿数枚なし」などという箇所があって「おっとっと・・・」と思う。慣れてしまうとあまり気にならないのだが。
宮沢賢治という人は、相当に複雑で、しかし健康な精神を持った人だったのではないかと思う。人として、自分や他人の心の「黒さ」も熟知した上で、さらに高みを目指そうというような、強い透明なまなざしを、この作品群からは感じる。
「ビジテリアン大祭」の論戦の応酬がおかしくもすごい。「銀河鉄道の夜」の透き通るような淋しさ・美しさには、再読してよかったと思った。一番好きなのは、「セロ弾きのゴーシュ」。「猫の事務所」は何だか悲しいお話だった。
さて、表題作である。
冬の空のように、うつくしいけれど凍てつくような淋しさ。
大人になって、再読にし、そんなふうに感じた。
ジョバンニは級友の意地悪に歯噛みし、一方で列車で行き会わせた鳥捕りや姉弟を疎んじたり軽んじたりする。彼は自ら、その2つの根っこが同じところにあることを知り、それだけに苦しい思いをしている。蔑みたくはないし、蔑んで欲しくもないのに、蔑み、そして蔑まれる。矛盾を抱えたまま、真にさいわいなるものを求める旅。
カムパネルラはザネリのために自らの命を失う。それがほんとうのさいわいであったのかはわからないが、命を失ったカムパネルラの旅は終わらざるを得ない。
それぞれのさいわいはそれぞれが見つけ出すべきものだ。だからさいわいなるものを探す旅は、孤独だ。深い孤独を背負いつつ、手に届くかどうかわからないきらめく星のようなさいわいを追い求める旅は、夢のように淋しくうつくしい。
*ベースは2009年12月に書いたもの。本作はやはり、冬に似合うような気がします。
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
この書評へのコメント
- たけぞう2015-07-09 23:09
失礼しまーす。勝手ながらリンクを貼っておきます。
風竜胆さんの企画です。
勝手にコラボ企画:「新潮文庫の100冊 2015」
[[http://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no224/index.html?latest=20]]
銀河鉄道の夜もその中の一冊で、今年の100冊をみんなでコンプリートしようと書評を上げています。もちろん過去のものもOK、まずはお寄りいただければ。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:357
- ISBN:9784101092058
- 発売日:1989年06月01日
- 価格:420円
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