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すずはら なずな
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「最後の一葉」を含む、優しい、思いやりの詰まった「嘘」が光る15編
 部屋の窓から見える蔦の葉は一枚、また一枚と落ちていく。

「あの最後の一枚が落ちたらわたしも死ぬ」
病気で弱ったジョンジーは そう言って自分が死ぬと諦めてしまっている。

昔読んだ覚えのあるお話を、今 読み返して 随分と覚え間違いをしていることに気が付いた。病気の少女と恋人の「若いふたり」の感動話だと思っていたのだ。

今回 私の涙腺を刺激したのは(最近 年のせいかよく泣く)「若い二人」の話ではなかった点が大きい。
というのも、画家を目指す あるいは「自称画家」たちの集う集合住宅の一室が舞台で、ルームシェアをするスウという女友達との二人の話で、あれ、じゃあ あの「葉っぱの絵」を描いたのは?と思ったら そこにもう一人、別室に住む老人が絡んで来るのだ。

ペアマンさんは偏屈な爺さんで、「いずれ傑作を描く」と言い続けながら ほとんど絵を描くこともなく 他の絵描きのモデルをして稼いでいる老人だ。

そんな偏屈な老人とジョンジーのルームメイトのスウが、彼女の病状を二人して嘆き、なんとしても良くなってもらいたいと思う。二人の気持ちが熱い。

さっきまで泣いてたスウが口笛でふきながら威勢良く部屋に入る様子、ジョンジーを勇気づけようと明るくふるまう姿、なにより その偏屈な爺さん絵描きが ジョンジーを死なせない、自分が傑作を描いて金持ちになったら 三人でここを出るんだ、と言うところが 胸に迫るのだ。

あまりに有名になったその結末 うろ覚えだったその結末に、そんな老人の身を挺しての思いやりがあったなんて、そこを忘れていたことが驚きなんだけれど、きっと昔読んだ頃は、恋愛話の方が美しく感じて、「老人」について今ほど思い入れがなかったのかもしれない。
周囲の人も自分も年を重ねて、失う痛みも知ったから 見えてくるものや感動するところが変わってきたのだと思う。

嵐のような風が吹いて 雨が降り続いても落ちることのなかった「最後の一葉」。
そのタネ明かしの仕方こそ、作者の真骨頂というところだろう。

どの短編もラストの締め方が実に鮮やかだ。語り過ぎず、でも、それと解るような。
雨の夜が明けて見つかった、はしごと葉っぱの色の絵具の残ったパレット。肺炎で亡くなってしまったペアマン老人。「最後の一葉」に勇気をもらったジョンジー。

その「肺炎」を克服できるか否かは、本人の生きようとする気持ち次第と言われていたのは ジョンジーの方だったのだから。

「傑作を描く」とちゃんと絵も描かず夢みたいなことばかり言っていた絵描きの老人の「最後の作品」は 大事な友達を勇気づけ、生かす「最高の傑作」となったという。
伏線となる会話や言葉の使い方が鮮やかだ。

他の14編も小粋で洒落た、または少し皮肉なオチがあり、予想のつくのや、意外なのや たまにはちょっとわかりづらいのもあって、それぞれ楽しめた。

優しい嘘、人を想う気持ち、その気持ちのすれ違いや勘違いのせいでの残念な結末や ハッピーエンド、日本よりちょっと乾いた空気感、レトロな時代の雰囲気も漂う中で、いずこも同じ人間模様。

久しぶりの O・ヘンリ 堪能しました。


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すずはら なずな
すずはら なずな さん本が好き!1級(書評数:442 件)

実家の本棚の整理を兼ねて家族の残した本や自分の買ったはずだけど覚えていない本などを読んでいきます。今のところ昭和の本が中心です。平成にたどり着くのはいつのことやら…。

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