書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

ぱるころ
レビュアー:
もの悲しさ漂う極寒の流刑地、サハリン島。チェーホフはなぜ、過酷な土地で半年間にも及ぶ調査に挑んだのか。
ぽんきちさんの書評をきっかけに、この本を読みました。ありがとうございます。

村上春樹の小説『1Q84』で本書を知り、いつか読んでみたいと思っていた。
1890年、当時30歳のチェーホフは流刑地サハリン島を訪れる。本文ではこの作品を「旅行記」としているが、半年間に及び村々を訪れチェーホフ自ら住民への聞き取り調査を行ったという内容は、ルポルタージュの要素が強い。

当時のサハリンは流刑地であるほか農業植民地でもあり、妻子を伴って暮らす流刑囚も多かった。
チェーホフが調査を行ったのは、各村の住民の数や、世帯数、男女比、年齢分布、健康状態などについて。「目的は、その結果ではなく、調査の過程そのものの与えてくれる印象」であるとチェーホフ自身述べているように、調査結果よりも出会った人々の暮らし向きや会話、風景の印象が、読み進めるにつれて心に深く刻まれていく。

島に終始漂うもの悲しさ、うら寂しい空気は、極寒で雨と曇りの日が多く湿度が高いという気候のためだろうか。あるいは流刑地だからだろうか。
生活の用具がひと通り揃った家すらも「何か大切なものの欠けていることが感じられる。」とチェーホフは気づく。
「祖父や祖母はいないし、古めかしい聖像や家代々の道具もない。したがってこの家には、過去や伝統が欠けているのだ。」
自由や利便性の観点から自ら選び取ったような場合を除き、このような生活から人間が感じるのは、虚しさである。


サハリンの地が農業に適していないことは、想像に難くないだろう。
チェーホフはオホーツク海の寒流や、六月でも流氷が漂う東海岸などサハリンの気候に関して「自然がサハリンを創った時に、人間や、人間の利益について少しも考慮を払わなかったことを如実に物語っている」と表現している。
しかしながら学者や記者の見解は分かれ、サハリンは農業で自活できる土地へ成長を遂げたとする意見もあったという。調査結果を多角的にまとめ上げていく本書の後半では、当局の思惑も見えてくる。

さらに、多くの流刑囚たちは妻子を呼び寄せる際、「サハリンは素晴らしい土地だ」という内容の手紙を書き、島へと渡ってきた妻は「騙された」「人生が終わった」と語っている。そしてサハリンで生まれた子どもたちの多くは、読み書きなどを学ぶ機会すら与えられない環境で育つこととなった。一方で、本土に帰るべき場所を持たず、サハリンによって救われた者がいるのも事実だ。

チェーホフがサハリンを訪れてこのような報告を書き上げるに至った動機には触れられていないが、本書『サハリン島』は、他の統計からは読み取れない、当時を生きた「一人ひとり」を伝える貴重な資料となっている。


お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
ぱるころ
ぱるころ さん本が好き!1級(書評数:147 件)

週1〜2冊、通勤時間や昼休みを利用して本を読んでいます。
ジャンルは小説・エッセイ・ビジネス書・自己啓発本など。
読後感、気付き、活かしたい点などを自分なりに書き、
また、皆さんからも学びたいと考え参加しました。
よろしくお願いします。

読んで楽しい:2票
参考になる:27票
共感した:1票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『サハリン島』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ