レビュアー:
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この厳寒の地の物語は、スコットランドの古い歌のよう。抒情的な音色で静かに心に沁みわたる。
私がいま茶色い犬を飼っているのは、ひと昔前に読んだこの作品のせいではないかと思うことがある。その犬は、家族を乗せて漕ぎ出された小舟をひたすら泳いで追ってゆく。「帰れ!」という怒鳴り声はいつか励ましの声に変わり、たくましい赤毛の男は身を乗り出して犬を舟に引き入れる。「よしよし、もう捨てたりしない。一緒に行こうな。」スコットランドからカナダに移住した彼の子孫の傍らには、以来ずっと茶色の犬の子どもたちがいるのである。
「話がここにくると、いつもぐっとなるんだよ。」と、主人公の祖父は言う。彼らはハイランダー氏族の末裔で、遠い祖先の苦難の歴史も近しい祖父母の思い出も、大切に語り伝えながら生きてきた。主人公が思い出す風景には、彼を育ててくれたおじいちゃんとおばあちゃんの面影がまとわりついている。陽気な笑い話にも深い慟哭にも甘やかな痛みが伴うのは、この物語が「追憶」という過去の歌で出来ているからだろうか。
16歳でひとり立ちせざるを得なかった長兄の厳しい人生と、大学を出て歯医者になった主人公の人生と。全く違う道を歩んだふたりを結びつけているのは、「身内の面倒はちゃんとみる」という一族の決まりだ。情が深すぎて頑張りすぎるこの人たちは、先祖代々それをずっと守ってきた。そんな彼らだから動物たちにも信頼される。野生の雌馬は兄の指笛で走ってきては重労働を助け、茶色い犬はもういない父母の家を全力で守ろうとした。
この厳寒の地の絆の物語は、彼らが集まると歌いだすスコットランドの古い歌ようだ。家族を愛し守ること、祖先への尊敬を忘れぬこと、勇気と誇りを持って生きる事。作者が奏でる静かで抒情的な音色に心が締め付けられてしまう。そして、私たちが忘れ去ろうとしているもの、価値を認めず捨てようとしているものを思い出す。切ない郷愁を覚えるのは、私たちがもうそれを取り戻せないことに、気づいてしまうからかもしれない。
「話がここにくると、いつもぐっとなるんだよ。」と、主人公の祖父は言う。彼らはハイランダー氏族の末裔で、遠い祖先の苦難の歴史も近しい祖父母の思い出も、大切に語り伝えながら生きてきた。主人公が思い出す風景には、彼を育ててくれたおじいちゃんとおばあちゃんの面影がまとわりついている。陽気な笑い話にも深い慟哭にも甘やかな痛みが伴うのは、この物語が「追憶」という過去の歌で出来ているからだろうか。
16歳でひとり立ちせざるを得なかった長兄の厳しい人生と、大学を出て歯医者になった主人公の人生と。全く違う道を歩んだふたりを結びつけているのは、「身内の面倒はちゃんとみる」という一族の決まりだ。情が深すぎて頑張りすぎるこの人たちは、先祖代々それをずっと守ってきた。そんな彼らだから動物たちにも信頼される。野生の雌馬は兄の指笛で走ってきては重労働を助け、茶色い犬はもういない父母の家を全力で守ろうとした。
この厳寒の地の絆の物語は、彼らが集まると歌いだすスコットランドの古い歌ようだ。家族を愛し守ること、祖先への尊敬を忘れぬこと、勇気と誇りを持って生きる事。作者が奏でる静かで抒情的な音色に心が締め付けられてしまう。そして、私たちが忘れ去ろうとしているもの、価値を認めず捨てようとしているものを思い出す。切ない郷愁を覚えるのは、私たちがもうそれを取り戻せないことに、気づいてしまうからかもしれない。
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「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。
この書評へのコメント
- Wings to fly2018-07-27 22:28
星落秋風五丈原さん
はーい^ ^
再読でも最後にしびれるような感動が溢れてくることに呆然としてしまいました。
マクラウドさんの作品はあと2作しかないんですよね。書評を拝見すると、どちらも極上品に違いないと思います。なんかもったいなくて、なかなか読めないかも…クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 
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- 出版社:新潮社
- ページ数:343
- ISBN:9784105900458
- 発売日:2005年02月26日
- 価格:2310円
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