ぽんきちさん
レビュアー:
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破滅へと向かう甘美な熱情
シェイクスピア悲劇として至極有名な一作。
ヴェロナの街で、互いに反目し合うモンタギュー、キャピュレット両家。
仇敵同士のモンタギュー家のロミオとキャピュレット家のジュリエットは、ある夜の舞踏会で、相手の素性を知らぬまま、一目で激しい恋に落ちる。
「ああ、ロミオ様、ロミオ様! なぜロミオ様でいらっしゃいますの、あなたは?」
とバルコニーで嘆くジュリエットのセリフはあまりに有名である。
その後、2人は極秘裡に結婚するが、ロミオは重罪を犯し、街から追放されてしまう。一方で、ジュリエットは何も知らぬ両親の意向で、別の男との結婚が決まる。
2人の婚姻を仲介した修道僧は、若き2人を一緒にし、両家の不和も解決しようとはかりごとを巡らせる。だが、どこまでも冷徹な運命の手は、互いを求める恋人たちをすれ違わせる。
かくして、激しい恋は、狂おしい破局へとなだれ込む。
巻末の解説によると、若い2人の悲恋を描くこの物語の原型は古くから綿々と語り継がれていたようである。
シェイクスピアの手による改変は、主に、ジュリエットの年齢設定と、出会いから破滅までの期間である。20歳、18歳等であった令嬢は、実に14歳前の少女となり、数ヶ月の物語が1週間足らずとなった。
それにより、純潔で美しい2人が、情熱的に濃密な時を過ごし、一挙に悲劇へと突き進む、鮮烈な物語となったわけである。
文字通り数え切れないほど上演・翻案されてきた作品だが、グローブ版を種本とした本書を読むと、この劇は本質的にセリフ劇なのだという印象を強く受ける。訳者も訳出には相当に苦心されたようだが、地口(しゃれ)も多い。
注や解説と合わせて読むことで、当時の舞台の様子がほの見えてくる。
小劇場で行われた当時の舞台では、演者と客の間が近く、それゆえ、膨大なセリフもよく聞き取れたことだろう。大道芸や寄席芸さながら、そこでは「語り」の力が大きい。大筋は悲劇であるが、リズミカルな語りを入れることで生まれる笑いもあったろう。ときにそれは猥雑さも含み、大衆劇的な匂いもある。
当時の舞台は比較的シンプルで、大道具を取り替える等の作業はほとんどなかったようだ。舞台上をぐるりと回ると目的地に着いたことになる等の能や狂言に似た演出もあったようで興味深い。ほかにも内側の幕を閉めることで場を転換するなど、映画のカットでシーンが変わるような工夫もあったようである。緻密な道具はないが、想像力が補う劇空間が成立していたようだ。
「主人公が14歳なのはいくら何でも若すぎだろう」とか、「修道僧が親に秘密で未成年を結婚させるなんてどうなの?」とか、「ロミオ、ちょっと前まで別の女の人に熱あげてたのに」とか、人によりいろいろ突っ込み所もあるだろう本作だが、愛されてきた物語であることは不動の事実である。
考えようによってはロミオもジュリエットも実は主役ではないのかもしれない。若くて美しければ、そして2人の間に障害があれば、よかったのである。
真の主役は、「若き日の実らなかったロマンチックな恋」。そう、誰の心にも、おそらくはある、「美しいあの日」の思い出なのだ。
*古本で買ったからか、表紙が違うことに今気付きました(^^;)。昭和26年初版、平成6年改版のものです。中身は同じだと思うのですが
*シェイクスピア作品
・『ヴェニスの商人』
・『オセロー』
・『ハムレット』
・『マクベス』
ヴェロナの街で、互いに反目し合うモンタギュー、キャピュレット両家。
仇敵同士のモンタギュー家のロミオとキャピュレット家のジュリエットは、ある夜の舞踏会で、相手の素性を知らぬまま、一目で激しい恋に落ちる。
「ああ、ロミオ様、ロミオ様! なぜロミオ様でいらっしゃいますの、あなたは?」
とバルコニーで嘆くジュリエットのセリフはあまりに有名である。
その後、2人は極秘裡に結婚するが、ロミオは重罪を犯し、街から追放されてしまう。一方で、ジュリエットは何も知らぬ両親の意向で、別の男との結婚が決まる。
2人の婚姻を仲介した修道僧は、若き2人を一緒にし、両家の不和も解決しようとはかりごとを巡らせる。だが、どこまでも冷徹な運命の手は、互いを求める恋人たちをすれ違わせる。
かくして、激しい恋は、狂おしい破局へとなだれ込む。
巻末の解説によると、若い2人の悲恋を描くこの物語の原型は古くから綿々と語り継がれていたようである。
シェイクスピアの手による改変は、主に、ジュリエットの年齢設定と、出会いから破滅までの期間である。20歳、18歳等であった令嬢は、実に14歳前の少女となり、数ヶ月の物語が1週間足らずとなった。
それにより、純潔で美しい2人が、情熱的に濃密な時を過ごし、一挙に悲劇へと突き進む、鮮烈な物語となったわけである。
文字通り数え切れないほど上演・翻案されてきた作品だが、グローブ版を種本とした本書を読むと、この劇は本質的にセリフ劇なのだという印象を強く受ける。訳者も訳出には相当に苦心されたようだが、地口(しゃれ)も多い。
注や解説と合わせて読むことで、当時の舞台の様子がほの見えてくる。
小劇場で行われた当時の舞台では、演者と客の間が近く、それゆえ、膨大なセリフもよく聞き取れたことだろう。大道芸や寄席芸さながら、そこでは「語り」の力が大きい。大筋は悲劇であるが、リズミカルな語りを入れることで生まれる笑いもあったろう。ときにそれは猥雑さも含み、大衆劇的な匂いもある。
当時の舞台は比較的シンプルで、大道具を取り替える等の作業はほとんどなかったようだ。舞台上をぐるりと回ると目的地に着いたことになる等の能や狂言に似た演出もあったようで興味深い。ほかにも内側の幕を閉めることで場を転換するなど、映画のカットでシーンが変わるような工夫もあったようである。緻密な道具はないが、想像力が補う劇空間が成立していたようだ。
「主人公が14歳なのはいくら何でも若すぎだろう」とか、「修道僧が親に秘密で未成年を結婚させるなんてどうなの?」とか、「ロミオ、ちょっと前まで別の女の人に熱あげてたのに」とか、人によりいろいろ突っ込み所もあるだろう本作だが、愛されてきた物語であることは不動の事実である。
考えようによってはロミオもジュリエットも実は主役ではないのかもしれない。若くて美しければ、そして2人の間に障害があれば、よかったのである。
真の主役は、「若き日の実らなかったロマンチックな恋」。そう、誰の心にも、おそらくはある、「美しいあの日」の思い出なのだ。
*古本で買ったからか、表紙が違うことに今気付きました(^^;)。昭和26年初版、平成6年改版のものです。中身は同じだと思うのですが
*シェイクスピア作品
・『ヴェニスの商人』
・『オセロー』
・『ハムレット』
・『マクベス』
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
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- 出版社:新潮社
- ページ数:267
- ISBN:9784102020012
- 発売日:1996年12月01日
- 価格:460円
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