紅い芥子粒さん
レビュアー:
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三島由紀夫が死の直前に編んだ自薦短編集。貴種流離、倒錯した性、肉体的嗜虐、異類の孤独…… 複雑な読後感を残す作品が九篇。
『軽王子と衣通姫』(昭和22年)
「古事記」にある軽王子と軽大郎女を基にした貴種流離譚。
皇太子軽王子は、父天皇の愛妃である衣通姫(そとよりひめ)に恋してしまう。父天皇の崩御後は、目に余る放恣な愛となる。
臣たちの心は軽王子から離れ、弟の穴穂皇子が皇位につき、軽王子は伊予に流謫となる。
伊予では、皇位を奪還するべく股肱の臣が謀反の準備を進める。
宮廷に残された衣通姫は、王子が恋しくて恋しくてたまらず、王子の後を追う。
伊予で再会したふたりは、激しく愛し合う。
肉体をむさぼり合う愛。愛欲に溺れるふたり。
王子の股肱の臣は、王子の堕落を止めるために、姫に毒の草の実を食べさせ……
毒のある頽廃的な、美しくも残酷な物語。
ちなみに原典の「古事記」では、同母の兄妹の禁断の愛の物語である。
『殉教』(昭和23年)
舞台は、私立の男子校。
裕福で家柄の良い家庭の子弟が集う学園で、小学校から高校まで続いている。
中高は一貫、中学一年生は全員が寮生活を送る。
軍人が設立した学校であり、教育方針はスパルタ式である。
そんな学園で、数人の優秀な生徒が、グループをつくっている。
すらりと背の高い魔王と呼ばれる少年を中心に、カルトのような集団。
寮にはひとりだけ別の小学校から入学してきた生徒がいた。
魔王がその少年を集団に引き込んだことで、悲劇が、いや惨劇が始まる。
陰湿で、残虐ないじめ。嗜虐的な倒錯した性。
魔王への崇拝と暴力への陶酔は、やがて殺人へと発展する……
『獅子』(昭和23年)
物語の主人公は、繁子。
元はブルジョワの令嬢で、いまは夫も子もある。
夫は、邸に帰らない夜が多い。
仕事だというが、繁子は気づいている。
夫には、恋人ができたのだ。その恋人は、繁子のよく知っているブルジョワの令嬢だ。
その夜も夫は帰らず、繁子は眠れず悶々としたまま朝を迎えたのだった。
夫は自分を捨てて、恋人といっしょになろうとしている。
繁子のものであるこの邸宅を恋人の父に売り、繁子を家から追い出そうとしている……
繁子は、夫に復讐を考える。
夫がいちばん苦しむ方法で。死んでしまったら苦しめない。だから、夫は殺さない。
繁子が殺すのは……
繁子の狂気じみた、冷酷な人間性が怖い。
『三熊野詣』(昭和41年)
45歳の常子は、若いころに夫に死に別れた。
歌を作ることが好きで、その道の大家である藤宮教授の内弟子となり先生の身の回りの世話をしている。
藤宮先生は60歳になる今日まで、結婚したことはない。
先生は、ひいき目に見ても美男子とはいえず、服装のセンスもよろしくない。
それでも高く積まれた教養と、深い学識が、先生を神のように尊く見せる。
常子は、神に仕える巫女のように、先生にかしずき仕えている。
十年、先生のお側に仕えてはいるが、男女の関係はない、いっさいない。
先生は、このたび、三熊野詣に行くことになり、そのお伴に常子を指名した。
60歳の老歌人と、付き添う45歳の常子。傍目には、夫婦に見られるだろうか。
見られてもよい、見られるといいな……常子はひそかに胸を高ぶらせる。
那智の滝、速玉神社、熊野大社と巡るうち、常子は先生から秘密の初恋話を聞かされる。それが、およそ先生には似つかわしくない美しい思い出で……
最上級の敬語で語られる、悶えるような老いたる男女の禁欲の愛⁉
他に収録されている作品は、
『毒薬の社会的効用について』(昭和24年)、『急停車』(昭和28年)、『スタア』(昭和35年)、『三熊野詣』(昭和41年)、『孔雀』(昭和40年)、『仲間』(昭和41年)
「古事記」にある軽王子と軽大郎女を基にした貴種流離譚。
皇太子軽王子は、父天皇の愛妃である衣通姫(そとよりひめ)に恋してしまう。父天皇の崩御後は、目に余る放恣な愛となる。
臣たちの心は軽王子から離れ、弟の穴穂皇子が皇位につき、軽王子は伊予に流謫となる。
伊予では、皇位を奪還するべく股肱の臣が謀反の準備を進める。
宮廷に残された衣通姫は、王子が恋しくて恋しくてたまらず、王子の後を追う。
伊予で再会したふたりは、激しく愛し合う。
肉体をむさぼり合う愛。愛欲に溺れるふたり。
王子の股肱の臣は、王子の堕落を止めるために、姫に毒の草の実を食べさせ……
毒のある頽廃的な、美しくも残酷な物語。
ちなみに原典の「古事記」では、同母の兄妹の禁断の愛の物語である。
『殉教』(昭和23年)
舞台は、私立の男子校。
裕福で家柄の良い家庭の子弟が集う学園で、小学校から高校まで続いている。
中高は一貫、中学一年生は全員が寮生活を送る。
軍人が設立した学校であり、教育方針はスパルタ式である。
そんな学園で、数人の優秀な生徒が、グループをつくっている。
すらりと背の高い魔王と呼ばれる少年を中心に、カルトのような集団。
寮にはひとりだけ別の小学校から入学してきた生徒がいた。
魔王がその少年を集団に引き込んだことで、悲劇が、いや惨劇が始まる。
陰湿で、残虐ないじめ。嗜虐的な倒錯した性。
魔王への崇拝と暴力への陶酔は、やがて殺人へと発展する……
『獅子』(昭和23年)
物語の主人公は、繁子。
元はブルジョワの令嬢で、いまは夫も子もある。
夫は、邸に帰らない夜が多い。
仕事だというが、繁子は気づいている。
夫には、恋人ができたのだ。その恋人は、繁子のよく知っているブルジョワの令嬢だ。
その夜も夫は帰らず、繁子は眠れず悶々としたまま朝を迎えたのだった。
夫は自分を捨てて、恋人といっしょになろうとしている。
繁子のものであるこの邸宅を恋人の父に売り、繁子を家から追い出そうとしている……
繁子は、夫に復讐を考える。
夫がいちばん苦しむ方法で。死んでしまったら苦しめない。だから、夫は殺さない。
繁子が殺すのは……
繁子の狂気じみた、冷酷な人間性が怖い。
『三熊野詣』(昭和41年)
45歳の常子は、若いころに夫に死に別れた。
歌を作ることが好きで、その道の大家である藤宮教授の内弟子となり先生の身の回りの世話をしている。
藤宮先生は60歳になる今日まで、結婚したことはない。
先生は、ひいき目に見ても美男子とはいえず、服装のセンスもよろしくない。
それでも高く積まれた教養と、深い学識が、先生を神のように尊く見せる。
常子は、神に仕える巫女のように、先生にかしずき仕えている。
十年、先生のお側に仕えてはいるが、男女の関係はない、いっさいない。
先生は、このたび、三熊野詣に行くことになり、そのお伴に常子を指名した。
60歳の老歌人と、付き添う45歳の常子。傍目には、夫婦に見られるだろうか。
見られてもよい、見られるといいな……常子はひそかに胸を高ぶらせる。
那智の滝、速玉神社、熊野大社と巡るうち、常子は先生から秘密の初恋話を聞かされる。それが、およそ先生には似つかわしくない美しい思い出で……
最上級の敬語で語られる、悶えるような老いたる男女の禁欲の愛⁉
他に収録されている作品は、
『毒薬の社会的効用について』(昭和24年)、『急停車』(昭和28年)、『スタア』(昭和35年)、『三熊野詣』(昭和41年)、『孔雀』(昭和40年)、『仲間』(昭和41年)
掲載日:
書評掲載URL : http://blog.livedoor.jp/aotuka202
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読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:408
- ISBN:9784101050317
- 発売日:2004年07月01日
- 価格:620円
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