紅い芥子粒さん
レビュアー:
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ユダヤ人の少女は、鍵を握りしめ、脱走した。死の「ヴェルディヴ」から。弟との約束を果たすために……
1942年7月16日早暁。パリ、およびその近郊に住む13,000人余りのユダヤ人が、フランス警察によって一斉に検挙され、ヴェルディヴとよばれる屋内競技場に押し込められた。
六日後、彼らのほぼ全員が、アウシュビッツに運ばれ、虐殺される。
当時、フランスは親独政権。フランス政府のナチスへの、いわば忖度によって、引き起こされたユダヤ人虐殺だった。
この小説は、ヴェルディヴから勇気ある脱出を遂げた少女と、その少女のその後を追うアメリカ人ジャーナリストの物語である。
物語は、1942年と2002年を往復しながら綴られる。
1942年の主人公は、10歳の少女。
7月16日の朝、パリのアパルトマンに押し寄せた警察官。
とっさに隠し部屋に隠れた4歳の弟。そこは、いつも姉弟で遊んでいる部屋だった。
姉と両親が連行されようとしているのに、弟は出てこない。
少女は、隠し部屋に鍵をかける。
あんたはそこに隠れておいで、きっとそこのほうが安全だから。お姉ちゃんは、すぐに戻ってきて開けてあげるからと、ささやいて。
連れて行かれたのは、絶望のヴェルディヴ。
もう家には帰れないのだと、少女にもわかった。
環境のあまりの過酷さに死者さえも出る。
大人たちは、先にアウシュビッツに連行されて行った。
少女は、あの隠し部屋の鍵を、肌身離さず持っていた。
帰らなければ、あの部屋を開けてあげなければ、弟は飢えと渇きで死んでしまう。
少女は、弟を助けたい一心で、脱走を決意する……
2002年の主人公は、45歳の女性ジャーナリストだ。
アメリカ生まれのアメリカ人だが、フランス人の男性と結婚し、いまはパリに住む、フランス人でもある。仕事でヴェルディヴを取材することになった。時を同じくして、手狭な現在の住居から、夫の両親が暮らしていたアパルトマンに引っ越すことになった。
その部屋は、1942年の「ヴェルディヴ」で検挙されたユダヤ人一家の住まいだったことを知る……
1942年の少女の物語を読むときは、本に釘付けになった。
少女は、鉄条網の狭い隙間をくぐって脱走に成功する。
そのとき、勇気を振り絞って職務に背き、手を貸してくれた警察官がいた。
逃げてきた少女を、かくまってくれた農家の老夫婦がいた。
検挙された約13,000人のユダヤ人のうち、生還できたのは約400人だという。
目を背けず、そっと手を差し伸べる勇気。
ギリギリのところで、良心を守り通す勇気。
市井に生きる人々のふりしぼった勇気の物語が、生還できた400人のそれぞれにあるのだと思うと、人としてあるべき姿を教えられたような気がする。
その後、ユダヤ人の少女がどうなったかは、2002年の主人公の取材と追及によって明らかにされて行く。
国家の恥として封印されてきた「ヴェルディヴ」のユダヤ人虐殺。
心ならずも関わってしまった人々も、深い罪の意識と共に心に秘めてきた。
心の鍵を開け、それを明るみに引きずり出すには、大きな痛みを伴った。
苦しくても目を背けずきちんと向き合わなければならないというのは、それはその通りかもしれない。ただ、追及していくジャーナリストがあまりにも取材対象にのめりこみすぎ、感情に溺れていくようで、後半、いささか辟易させられたのが残念だ。
六日後、彼らのほぼ全員が、アウシュビッツに運ばれ、虐殺される。
当時、フランスは親独政権。フランス政府のナチスへの、いわば忖度によって、引き起こされたユダヤ人虐殺だった。
この小説は、ヴェルディヴから勇気ある脱出を遂げた少女と、その少女のその後を追うアメリカ人ジャーナリストの物語である。
物語は、1942年と2002年を往復しながら綴られる。
1942年の主人公は、10歳の少女。
7月16日の朝、パリのアパルトマンに押し寄せた警察官。
とっさに隠し部屋に隠れた4歳の弟。そこは、いつも姉弟で遊んでいる部屋だった。
姉と両親が連行されようとしているのに、弟は出てこない。
少女は、隠し部屋に鍵をかける。
あんたはそこに隠れておいで、きっとそこのほうが安全だから。お姉ちゃんは、すぐに戻ってきて開けてあげるからと、ささやいて。
連れて行かれたのは、絶望のヴェルディヴ。
もう家には帰れないのだと、少女にもわかった。
環境のあまりの過酷さに死者さえも出る。
大人たちは、先にアウシュビッツに連行されて行った。
少女は、あの隠し部屋の鍵を、肌身離さず持っていた。
帰らなければ、あの部屋を開けてあげなければ、弟は飢えと渇きで死んでしまう。
少女は、弟を助けたい一心で、脱走を決意する……
2002年の主人公は、45歳の女性ジャーナリストだ。
アメリカ生まれのアメリカ人だが、フランス人の男性と結婚し、いまはパリに住む、フランス人でもある。仕事でヴェルディヴを取材することになった。時を同じくして、手狭な現在の住居から、夫の両親が暮らしていたアパルトマンに引っ越すことになった。
その部屋は、1942年の「ヴェルディヴ」で検挙されたユダヤ人一家の住まいだったことを知る……
1942年の少女の物語を読むときは、本に釘付けになった。
少女は、鉄条網の狭い隙間をくぐって脱走に成功する。
そのとき、勇気を振り絞って職務に背き、手を貸してくれた警察官がいた。
逃げてきた少女を、かくまってくれた農家の老夫婦がいた。
検挙された約13,000人のユダヤ人のうち、生還できたのは約400人だという。
目を背けず、そっと手を差し伸べる勇気。
ギリギリのところで、良心を守り通す勇気。
市井に生きる人々のふりしぼった勇気の物語が、生還できた400人のそれぞれにあるのだと思うと、人としてあるべき姿を教えられたような気がする。
その後、ユダヤ人の少女がどうなったかは、2002年の主人公の取材と追及によって明らかにされて行く。
国家の恥として封印されてきた「ヴェルディヴ」のユダヤ人虐殺。
心ならずも関わってしまった人々も、深い罪の意識と共に心に秘めてきた。
心の鍵を開け、それを明るみに引きずり出すには、大きな痛みを伴った。
苦しくても目を背けずきちんと向き合わなければならないというのは、それはその通りかもしれない。ただ、追及していくジャーナリストがあまりにも取材対象にのめりこみすぎ、感情に溺れていくようで、後半、いささか辟易させられたのが残念だ。
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読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:423
- ISBN:9784105900830
- 発売日:2010年05月01日
- 価格:2415円
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