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DBさん
DB
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箱に残されたものは絶望の話
青少年の自殺予防プロジェクトの一環として、センターに収容された子供たちを描いた作品です。
五歳の時に国から選ばれた子供は心臓に装置を埋め込まれ、十歳になると家族から引き離されてセンターに収容される。
その時自分の命を終わらせるスイッチを渡されると、あとは独房のような個室で食事をとり、机と椅子しかないロビールームで同じ境遇の子供たちと交流するという外部から隔絶された生活が永遠に続く。
設定に疑問しかないのだが、ディストピア小説ということでそこには突っ込まずに読み進める。

絶望しかないセンターの存在意義は悩むところだが、子供たちはある者は泣き疲れ、ある者は来世を信じ、そしてある者は外界の家族や親しかった人の訃報に接して次々にスイッチを押して死んでいった。
持って数カ月という極限状態の中で、横浜センターに収容された四人の子供たちは七年という時間を生き延びていた。
その前に二年ほど働いていたセンターで子供がいなくなってしまったため横浜センターに移動してきた監視員の南は、十七歳になった四人の子供と毎日接する中で何を思うのか。

監視員は子供たちに食事を配り、ロビールームでは部屋の隅に立って見張り役をする。
幼い子供たちが絶望して死んでいくのを見ていたら精神が病みそうだ。
先輩の監視員は「深くかかわらない方がいい」というスタンスですが、南は自分に話しかけてくる子供たちを無下にはできなかった。
話好きの子供の相手になったり、絵を描くことが好きな子供に色鉛筆を差し入れたり。
子供たちとの交流が深まるにつれて、南は心の葛藤に苦しめられることになる。

四人のうちの一人が幼馴染の死を伝え聞いてスイッチを押したその日、残る三人を連れてセンターを脱走する南。
三人の家族に会いたいという望みをかなえてやるが、それは彼らを見送ることでもあった。
母親に捨てられたという最後の一人の子供と思い出の場所を巡る南は自分の幼いころを思い出す。

監視員の心理状態も実験のうちに入っているのだろうということは最初の方からわかっていたけど、ラストはちょっと意外だった。
人間はどんな時に死を選ぶのだろうか。
親しい人を亡くしたとき。
最後の望みが叶ったとき。
命の重さと意味を考えさせる作品だったが、ここまで絶望しか残らない作品も珍しい。
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DB
DB さん本が好き!1級(書評数:2034 件)

好きなジャンルは歴史、幻想、SF、科学です。あまり読まないのは恋愛物と流行り物。興味がないのはハウツー本と経済書。読んだ本を自分の好みというフィルターにかけて紹介していきますので、どうぞよろしくお願いします。

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