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ぽんきち
レビュアー:
舞台芸術としての能を、文字に置き換えた能物語
白洲正子による能の有名演目の物語化。
まえがきによれば白洲が心がけたのは、
間をたいせつにする
お能を、目で見るように書く
幽玄な雰囲気をこわさぬよう注意する
の3点である。
能は室町初期に完成された舞台芸術で、猿楽を元に他の舞踊や流行歌も取り入れて集大成されたものである。舞と歌、それに囃子(伴奏)で成り立つ。歌の部分を構成する謡曲は読み物ではなく、詩歌に近いもの。これが舞と合わさって1つの作品になる。叙情的な作品では枕詞や掛詞を使って優美な雰囲気に、また鬼が出てくるようなものでは漢文や経文から引用して厳めしく、と、曲に合わせて使う言葉も変わる。
そのため、詞章(謡曲の文章)だけをとっても全体像は見えないということになる。
能舞台を鑑賞したかのような形で、能の演目に触れることを目して書かれてはいるが、本作を読んで、「ああ、能ってこういうものか」と終わりにするのではなく、これをきっかけに興味を持ってもらい、舞台を見るきっかけにしてほしいというのが白洲の願い。ある種、カタログのようなものと考えればよいだろうか。

収録作は:
井筒/鵺/頼政/実盛/二人静/葵上/藤戸/熊野俊寛/巴/敦盛清経/忠度/大原御幸/舟弁慶安宅/竹生島/阿漕/桜川隅田川道成寺
計21演目(リンクは「対訳でたのしむ」シリーズの該当作品)。

幼少時から能に慣れ親しんできたという白洲。各作品も知り尽くしているというところだろうか。端正で折り目正しい印象だが、それは白洲自身の性格もあり、能自体の持ち味でもあろうか。
但し、詞章にはない若干の脚色が時々ある。白洲が受けた印象だと思われ、それはそれで味わいにはなっているが、実際に個々人が能を鑑賞した際に同じ印象を受けるかどうかはまた少し別のような気はする。例えば「熊野」では、武将の愛妾であった熊野が病の母の元に戻った後はもう帰ってこなかったり、「清経」で、夫に先立たれて恨んでいた妻が夫の成仏を知って剃髪し心安らかに余生を送ったり、「俊寛」で孤島に取り残された俊寛の元を家来が訪れて再会し、さらに遺骨を本土に持ち帰ったり、といった具合。ストーリーの「余白」の部分が(特にラストで)具体的に描写されている。

並べてみると、「伊勢物語」「源氏物語」に由来するものもあるが、圧倒的に「平家物語」に材を取ったものが多い。あとは神様が出てくるもの、別れた子を探す女物狂いのもの、鬼が出てくるもの、といったところか。

あとがきで白洲は世阿弥の「花伝書」に触れる。その中で、世阿弥は、「お能は本来、神さまのものだ」という趣旨のことを述べているという。
元々、神楽のような民俗芸能は、見物に見せることを目的にするというより、神さまが現れて人々に祝福を与え、豊穣を約束する意味合いがあった。能では「翁」という演目が古い芸能に近い形で、長寿と祝福を象徴する老人が出てきて、舞を舞う。詞章には、特にあらすじはなく、おめでたい言葉に終始する。
一方、能で出てくる人物の多くは亡霊であったり物狂いであったりする。正真正銘の人間が出る演目もあるが、舞を舞う際に、往々にして酒盛りが行われる。つまり、しらふではなかなか夢の世界、神の世界に近づくことは難しいということらしい。
物狂いや盲人は一般人とは異なり、神の世界に近づきやすいと見なされていたものらしい。
この世ならぬものと交わる芸能。
この観点はなかなか興味深い。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1825 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。現在、中雛、多分♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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