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ぱせりさん
ぱせり
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「またたとえば同じ景色を見るにしても、心の眼のよく利く人ならば、いくらでも眼新しいところを見つけ出すから、決して退屈することはないでしょう」
岩波少年文庫100冊マラソン 19冊目


無尽蔵といわれる自然であるが、「たとい一本の草、一塊の石でも細かに観察し研究すれば、数限りない知識の泉になる」という。それを寺田寅彦は「心の眼」と呼んでいる。


身近な生活――線香花火や、電車の混雑、風呂の温度のこと、蜂や蓑虫、とんぼや、鳶、ほととぎすなど、身近な生き物のこと、昼顔、のうぜんかずらなどの植物や、津波のような自然現象、化け物や人魂についてまで、科学者の「心の眼」で見たままに綴っている。


たとえば著者は、茶碗の湯からたちのぼる湯気をみてごらん、と語りかける。水蒸気の核になる小さな小さな塵の話から易しく諄々と語り、大空を悠々と渡る山谷風や季節風へと広げていく楽しさ。


また、夏目漱石の「落ちざまに虻を伏せたる椿かな」の句から、椿の花が落ちるとき、花があおむき、うつむきになるのはどういうときか、と考える。そして、落花が虻を伏せるようになる条件を探しあてる。ここでも「心の眼」がちゃんと利いている。
「自分はこういう瑣末な物理学的の考察をすることによって、この句の表現する自然現象の現実味が強められ、その印象が濃厚になり、したがってその詩の美しさが高まるような気がするのである」と書いている。


子どもを見守る父親としての文章もよかった。
子が求めるままに、亡き祖父の昔話を繰り返し語って聞かせる。「祖父に対するなつかしみは浄化され純化されて、子らの頭の中の神殿に収められるだろう」
また、夕涼みの折、子が、大きな赤味がかった星(火星)をみつけて「あれは何か」と尋ねたところから、天文雑誌を調べる。そして星座図に、現在の位置と日付を書き入れ星の軌道を追跡してみたそうだ。
父と遊びながら子どもたちが育んでいる「心の眼」を楽しく想像する。


「たとえば同じ景色を見るにしても、ただ美しいなと思うだけではじきに飽きてしまうでしょうが、心の眼のよく利く人ならば、いくらでも眼新しいところを見つけ出すから、決して退屈することはないでしょう」
との言葉に、レイチェル・カーソン『センス・オブ・ワンダー』の一節が蘇ってきた。
「地球の美しさと神秘を感じ取れる人は、科学者であろうとかなろうと、人生に飽きて疲れたり孤独に苛まれることは決して無いでしょう」(「センス・オブ・ワンダー』上遠恵子訳;佑学社)
科学者の言葉はよく似ている。
ともに、心の眼の利かせ方=センス・オブ・ワンダーの育て方を、こうして読者にも分けてくれる。
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ぱせり
ぱせり さん本が好き!免許皆伝(書評数:1742 件)

いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。

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