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Jun Shinoさん
Jun  Shino
レビュアー:
複雑に、感情が入り乱れる。あくまで静かに。 「魔界」の入り口的作品。
川端康成の作品というのは、断片的で直截でない台詞やシチュエーションから運命の成り行きや大きな感情のうねり、暗喩を見せていくものが多い。この作品は極めつけとも言えるもので、断片的に印象を残す役割だったり、ほとんど出てこないが影響の強い出演者なんかもいて、その要素は数が多くて複雑だ。

波子には夫の八木、品子と高男という2人の子がおり、バレエを教えている。八木とは寝室が同じで時折抱かれているものの、心中は冷え切っており、かつての家庭教師・竹原と付き合っていて、八木も知っている。八木は学者だったが、生活費は波子の財産と稼ぎに頼っていた。バレエの上級者である品子と波子は、弟子の友子が、バレエをやめ妻子ある恋人を経済的に援助するためいかがわしい商売に手を染めると言い出したことにショックを受ける。

んーまあ、さわりだけでもこんな風だ。この作品は昭和25年から26年にかけて朝日新聞に連載されたもので、戦後間もなくの世相が強く反映され、朝鮮戦争の報道から日本の強い危機感も伝わってくる。いまや想像もできないところがあるが、そういう時代だった。八木は次にまた戦争が起きると怖れている。

お嬢さま的な波子の心理、皮肉屋だが、波子にいやらしい執着も見せる八木、海外に留学するという高男、そして基本的に母と行動をともにするが、かつてのバレエダンサー香山に恋心を抱き、母が竹原に走るならと離別をほのめかす品子。家庭が崩壊していくという、戦後の家族の様子を象徴的に描写している。

川端はノーベル賞を受賞した時の演説「美しい日本の私」で一休禅師の

「仏界入り易く、魔界入り難し。」

という言葉を引用して、人間が関係する「魔界」に惹かれていると表明している。

この言葉が初めて出てくるのが「舞姫」で八木がかけた一休の掛け軸に書かれ、品子が見て怖れるシーンがある。

たしかに、川端の編む話には、仏像や骨董の知識がよく散りばめられて、深みを形作っている。今回はまた、やはり川端の趣味であった踊り、舞踊、バレエが主題で、専門用語もそこここに出てくる。「雪国」の主人公島村も舞踊研究家だった。

さて、私的には小説としては錯綜しすぎにも思えるが、うじゅっとあまりにもたくさんのファクターが絡み合ってなんらかのはかなさ、虚脱感、破滅的雰囲気を醸し出してはいるな、とも感じた。

チャイコフスキーのように何度も同じフレーズが出てくるのと違い、同じメロディーはあまり使わず長い曲の中になにかが浮かび上がってくるマーラーの交響曲5番のよう。

うーむ、捉え方が難しいが、川端らしいとも思えてしまうのが不思議である。
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Jun  Shino
Jun Shino さん本が好き!1級(書評数:1370 件)

読む本の傾向は、女子系だと言われたことがあります。シャーロッキアン、アヤツジスト、北村カオリスタ。シェイクスピア、川端康成、宮沢賢治に最近ちょっと泉鏡花。アート、クラシック、ミステリ、宇宙もの、神代・飛鳥奈良万葉・平安ときて源氏物語、スポーツもの、ちょいホラーを読みます。海外の名作をもう少し読むこと。いまの密かな目標です。

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