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あずまる
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全校生徒が、朝の8時から夜通しかけて80㎞を歩く北高伝統行事「歩行祭」。その中で彼らが抱く様々な想いは「青春の煌き」という言葉がぴったりです。
ある日、息子に「・・これ」と言って手渡された学校のプリント。『高校生の間に読んで欲しい本』のリストとありました。それじゃぁと、我が家の積み上がった本の中から、そのリストにある数冊を渡し、後日、「一番面白かった。」と戻ってきたのがこの本です。

物語は「歩行祭」と呼ばれる学校行事の朝に始まり、ゴールするところで終わります。時間軸にすれば、ほんの一日のことなのに、高校生たちが過ごす密度の濃い時間が、読み手の私に『充実感』という読後感を残してくれました。

主に焦点が当てられるのは貴子と融。貴子には、三年間、誰にも言えなかった秘密があり、彼女がそれに向き合う様子と、一方、融は、彼自身では消化できない複雑な感情を持て余していて、それがこの歩行祭の間に変化していく様子とが、時に交錯しながら、本書の軸となってストーリーが進んでいきます。
しかし、そのことに殊更多くのボリュームを割くわけではありません。ただ、ひたすら歩き続ける高校生たちの道行を追いながら、彼らの胸に去来する様々な想い、その時間その場所で目にする景色から沸き起こる感情の描写、同じ時間を過ごす友人がいることの喜びに気付く様子など、高校生の瑞々しい感性をメインに丁寧に綴られています。

そして、大げさな表現のない、穏やかな筆致で書かれているこの作品は、時に高校生時代の私の感覚や感情を呼び覚まします。それは、ふと気づくと「高校生の自分」と「今の自分」と二人で一緒にこの作品を読み、場面一つひとつについて語らってるような錯覚を覚える程でした。

まだまだ道のりは遠い筈なのに、自分の掌から砂がサラサラとこぼれ落ちていくかのように大事な時間が過ぎていくことに気付いて、「あぁ、もう終わってしまう」と切羽詰まった気持ちに囚われる感覚。
日が沈んでもいつまで赤く広がる空や、黒い空が滲むように明るさを取り戻す日の出の、毎日訪れて当たり前の繰り返しに、自然の凄さを感じて心動かされる姿。
まだまだ、数え上げればきりがない程、小さな共感や胸の奥がキュッとなる場面が、本書の中には散りばめられています。
また、高校生である登場人物たちのやりとりも、その年代の子供たちが持つ素直さ、未熟さ、伸びゆく強さといった要素が、それぞれとても自然な形で表現されていて、しみじみと「いい作品を読ませてもらったなぁ」という気持ちになりました。

読み終わった後、我が息子にしつこく感想を求めましたが、彼は、「ん〜、別に。いいと思っただけ。」といったぶっきら棒な言葉しか返してくれません。でも、ちょうど高校生の時に、彼がこの本に出会えて、それを面白いと感じたことを嬉しく思いました。
この本は、我が家の本棚に収めて、またいつか息子が再読してくれればなぁと期待します。
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あずまる
あずまる さん本が好き!1級(書評数:137 件)

最近は、本選びに迷走中です。

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