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かもめ通信
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「ユーモアには人の心を楽にする力がある。アスピリンのようなものだ。百年後、人類がまだ笑っていたら。わたしはきっとうれしいと思う。」とヴォネガットはいう。たっぷりの皮肉を込めて。
ヴォネガットの遺作となったエッセイ集が中公文庫から出た。
なんでもタイトルはA MAN WITHOUT A COUNTRY
邦題は『国のない男』というらしい。

ん?どこかで聞いたことがあるタイトルだ。
と思って積読山にめをやると……

ああ、またやってしまった。

決して文庫化が早かったわけではない。
私が長々と積んでいただけ。

この本は、2005年、ヴォネガットが82歳のときに書かれた作品だ。

そう、この地球はいまやひどい状態だ。しかしそれはいまに始まったことではなく、ずっと昔からそうだったのだ。「古きよき時代」など、一度たりともあったためしがない。同じような日々を重ねてきただけだ。


文明や環境破壊への痛烈な批判、

アメリカにおいてもっとも許しがたい反逆は、「アメリカ人は愛されていない」という言葉を口にすることだ。アメリカ人がどこにいようと、そこで何をしていようと。


イラク戦争に踏み出したブッシュ政権への怒り、
皮肉と裏表にある愛情のこもったまなざし、

「どこへ行くの?」妻の少女時代の愛読書は「ナンシー・ドルー」のシリーズだったらしい。例の少女探偵モノだ。その影響で、妻は疑問があれば聞かずにはいられない。


全てを包み込んでしまうようなユーモア。

わかってもらえると思うが、偉大な文学作品はすべて--『モウビィ・ディック』『ハックルベリ・フィン』『武器よさらば』『緋文学』『赤い武勲章』『イリアス』『オデュッセイア』『罪と罰』『聖書』「経騎兵旅団の突撃の詩」(アルフレッド・テニスン)--人間であるということが、いかに愚かなことであるかについて書かれている(だれかにそう言ってもらうと、心からほっとするはずだ)。


ふせんを貼りたくなるようなページがいっぱいある本。

情けない話だけれど、ちっとも古びてはいない。
むしろ、世界の状況はますます悪くなっている。
百年後、笑っていられるように
なんとかしなくてはとは思うのだけれど……。

数年後、またこの本を開いて
ますます深いため息をついているような気がする。


<カート・ヴォネガット・ジュニアその他の作品レビュー>
スローターハウス5
はい、チーズ
猫のゆりかご


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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2233 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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