サンペーリさん
レビュアー:
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もし私に棋譜が読めたなら。
私の祖父は将棋好きで、孫の中で唯一駒の動かし方を知っていた私が、よく相手をさせられていた。他のいとこ達が遊んでいるのに早く一緒になりたくて、自分は気もそぞろに指していたのを思い出す。
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聖が始めて将棋に出会ったのは、広島市民病院の病床だった。彼は5歳の頃からネフローゼという難病を患い、入退院を繰り返していた。その日の朝に隣の子が亡くなり、主を失ったスチールベットの上で、父を相手に最初の対局が行われた。「またやってみたい」興奮に眠れない長い夜をすごした。
数年後のある日、やはり病床の上で彼が綴った日記。
その後、彼は体の奥に病魔を抱えながらも、プロ棋士の世界で熾烈な闘いを繰り広げていくことになる。しかし一度病魔が牙を向けば、
そして部屋を可能なかぎり暗くしてただじっと体力が回復し、蓄積していく時を待ち続けるしかない。そんな状態が1週間近くつづくこともあった。
それでも聖は青春を謳歌する。仲間たちと朝まで飲み、麻雀をし、ときには殴り合いのケンカもする。推理小説と少女漫画をこよなく愛し、狭いアパートで蔵書の山に埋もれて暮らした。
将棋界の頂点である「名人」を目指して、きら星のごとく居並ぶ個性豊かで強力なライバルたちと、数々の名勝負を繰り広げる。子供の頃いつか必ず倒すと誓ったヒーロー谷川浩司。「東の天才、西の怪童」と並び称された羽生善治。彼等との闘いの記録は「棋譜」という形で残され、その激戦の跡を追うことができる。
最期の年、村山聖は将棋年鑑のアンケートにこう答えた。
病の悪化により次期の休場を決めた後、最後の5局、彼は全勝した。そのどれもがプロをもうならせる名局だったそうだ。
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今でも私は駒を動かしはできるが、棋譜は読めない。もし彼が残した棋譜が読めれば、さらに多くのものを感じ取れるに違いない。
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聖が始めて将棋に出会ったのは、広島市民病院の病床だった。彼は5歳の頃からネフローゼという難病を患い、入退院を繰り返していた。その日の朝に隣の子が亡くなり、主を失ったスチールベットの上で、父を相手に最初の対局が行われた。「またやってみたい」興奮に眠れない長い夜をすごした。
数年後のある日、やはり病床の上で彼が綴った日記。
3月13日 はれ 22ど。
今日もしょうぎのれんしゅうを六、七時間しました。朝から夕がたまでです。そしてまだ、のこっているので夜、やろうと思います。あと二もんです。だから時間はあと一時間です。
その後、彼は体の奥に病魔を抱えながらも、プロ棋士の世界で熾烈な闘いを繰り広げていくことになる。しかし一度病魔が牙を向けば、
蒲団にくるまり、ただひたすら体を休める。尿瓶のかわりのペットボトルを近くに置き、用はそこですませる。起き上がって、トイレにいく体力すら温存しなければならないのだ。
そして部屋を可能なかぎり暗くしてただじっと体力が回復し、蓄積していく時を待ち続けるしかない。そんな状態が1週間近くつづくこともあった。
それでも聖は青春を謳歌する。仲間たちと朝まで飲み、麻雀をし、ときには殴り合いのケンカもする。推理小説と少女漫画をこよなく愛し、狭いアパートで蔵書の山に埋もれて暮らした。
早く将棋をやめたい。名人になって、将棋をやめたい。
将棋界の頂点である「名人」を目指して、きら星のごとく居並ぶ個性豊かで強力なライバルたちと、数々の名勝負を繰り広げる。子供の頃いつか必ず倒すと誓ったヒーロー谷川浩司。「東の天才、西の怪童」と並び称された羽生善治。彼等との闘いの記録は「棋譜」という形で残され、その激戦の跡を追うことができる。
最期の年、村山聖は将棋年鑑のアンケートにこう答えた。
− 今年の目標は?
土に還る
− 行ってみたい場所は?
宇宙以前
病の悪化により次期の休場を決めた後、最後の5局、彼は全勝した。そのどれもがプロをもうならせる名局だったそうだ。
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今でも私は駒を動かしはできるが、棋譜は読めない。もし彼が残した棋譜が読めれば、さらに多くのものを感じ取れるに違いない。
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もともと、ビジネス書や歴史小説を読むことが多かったですが、
最近読書の幅が拡がってきました。おもしろい本、教えてください!
※ちなみにシカです。犬ではございません。
※(シカの)出身は厳島です。奈良ではございません。
この書評へのコメント
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- Tetsu Okamoto2016-11-04 12:18
棋譜を読むこと自体は初段はいりません。村山9段の棋譜を味わうには高段者の解説が必要です。わたしは4段ですし、当時も将棋世界は定期購読していましたが、村山9段の中終盤は予想外の手だらけでした。当時は感動よりは驚きでみていました。
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