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サンペーリ
レビュアー:
もし私に棋譜が読めたなら。
私の祖父は将棋好きで、孫の中で唯一駒の動かし方を知っていた私が、よく相手をさせられていた。他のいとこ達が遊んでいるのに早く一緒になりたくて、自分は気もそぞろに指していたのを思い出す。

ーーーーー

聖が始めて将棋に出会ったのは、広島市民病院の病床だった。彼は5歳の頃からネフローゼという難病を患い、入退院を繰り返していた。その日の朝に隣の子が亡くなり、主を失ったスチールベットの上で、父を相手に最初の対局が行われた。「またやってみたい」興奮に眠れない長い夜をすごした。

数年後のある日、やはり病床の上で彼が綴った日記。

3月13日 はれ 22ど。
今日もしょうぎのれんしゅうを六、七時間しました。朝から夕がたまでです。そしてまだ、のこっているので夜、やろうと思います。あと二もんです。だから時間はあと一時間です。


その後、彼は体の奥に病魔を抱えながらも、プロ棋士の世界で熾烈な闘いを繰り広げていくことになる。しかし一度病魔が牙を向けば、

蒲団にくるまり、ただひたすら体を休める。尿瓶のかわりのペットボトルを近くに置き、用はそこですませる。起き上がって、トイレにいく体力すら温存しなければならないのだ。


そして部屋を可能なかぎり暗くしてただじっと体力が回復し、蓄積していく時を待ち続けるしかない。そんな状態が1週間近くつづくこともあった。

それでも聖は青春を謳歌する。仲間たちと朝まで飲み、麻雀をし、ときには殴り合いのケンカもする。推理小説と少女漫画をこよなく愛し、狭いアパートで蔵書の山に埋もれて暮らした。

早く将棋をやめたい。名人になって、将棋をやめたい。

将棋界の頂点である「名人」を目指して、きら星のごとく居並ぶ個性豊かで強力なライバルたちと、数々の名勝負を繰り広げる。子供の頃いつか必ず倒すと誓ったヒーロー谷川浩司。「東の天才、西の怪童」と並び称された羽生善治。彼等との闘いの記録は「棋譜」という形で残され、その激戦の跡を追うことができる。

最期の年、村山聖は将棋年鑑のアンケートにこう答えた。

− 今年の目標は?
土に還る
− 行ってみたい場所は?
宇宙以前


病の悪化により次期の休場を決めた後、最後の5局、彼は全勝した。そのどれもがプロをもうならせる名局だったそうだ。

ーーーーー

今でも私は駒を動かしはできるが、棋譜は読めない。もし彼が残した棋譜が読めれば、さらに多くのものを感じ取れるに違いない。

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サンペーリ
サンペーリ さん本が好き!1級(書評数:103 件)

もともと、ビジネス書や歴史小説を読むことが多かったですが、
最近読書の幅が拡がってきました。おもしろい本、教えてください!

※ちなみにシカです。犬ではございません。
※(シカの)出身は厳島です。奈良ではございません。

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この書評へのコメント

  1. サンペーリ2016-11-03 22:01

    BOOK PORTさんの棚マルで買った本です〜。http://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no254/index.html

  2. Tetsu Okamoto2016-11-04 12:18

    棋譜を読むこと自体は初段はいりません。村山9段の棋譜を味わうには高段者の解説が必要です。わたしは4段ですし、当時も将棋世界は定期購読していましたが、村山9段の中終盤は予想外の手だらけでした。当時は感動よりは驚きでみていました。

  3. サンペーリ2016-11-04 12:47

    >Tetsu Okamotoさん 4段とは!!
    そうなんですね、驚きの手ですか。ただ予想外なだけでなくて、ちゃんと勝ち星を付けていくのがすごいですね。

  4. しげもり2016-11-04 14:19

    「聖の青春」を手に取ってくださってありがとうございます!
    私はこれだけ薦めておきながら、将棋のルールもよくわからないし、
    棋譜も読めないので、書評の最後の一文にぐっときました。
    ああ…本当にそうだなぁ…としみじみと…。
    読んでくださって素敵な書評を書いてくださってありがとうございました!

  5. サンペーリ2016-11-05 12:03

    >しげもりさん お薦めしてくださって、ありがとうございました!ほんとうに熱くさせられる一冊でした〜。

  6. No Image

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