三太郎さん
レビュアー:
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癌に対する正しい知識を持つことは誰にとってもよいことだ。「知らない悪魔より知っている悪魔の方がまし」だから。
米国の癌専門医のジョーンズと彼の幼馴染のマコーミックの共著という本です。書くのは医学には素人のマコーミックで、一般の人に分かり易く癌治療の現状を知らせ、癌に対する過剰な恐れを取り除こうという本のようです。
ジョーンズ博士はジョンズ・ホプキンス大学医学部の腫瘍内科の教授ですから、平易な文章でも内容に間違いはなさそうです。
癌細胞というものは、体細胞の元になる幹細胞が突然変異の蓄積により癌化することで生じます。癌化するまでに幹細胞は最低でも3〜7回の突然変異が蓄積しており、癌化の確率は極めて低いものです。
幹細胞が癌化するとその幹細胞から細胞分裂により癌化した体細胞が次々生じ、癌細胞の塊がある程度まで大きくなると各種の検査で癌と判断できるようになります。最初の癌化した幹細胞から癌の塊が見えるようになるまでにはかなりの時間がかかります。人は年を取るほどに突然変異の回数が蓄積し、癌化した幹細胞が生じますが、癌が見つまる前に寿命が尽きる場合も多そうです。
誰でも癌になる可能性があるし、年を取るほどその確率が増えますが、癌になるかどうかはほとんど運しだいで、生活習慣で癌が増えると判っているのは喫煙くらいです。特定の癌では遺伝的な要因もありますが必ず癌になるわけではありません。
癌化した幹細胞も正常な幹細胞と同様に体中を駆け巡ります。正常な幹細胞は元の臓器以外では分裂しないので問題を起こしませんが、癌化した幹細胞は別の臓器にたどり着くとそこで増殖し癌を引き起こすことがあります。これが癌の転移ですが、初期の癌が治療により一旦は完治したとしても、いずれは転移した癌の幹細胞が新たな癌になる可能性があります(時間が経っていれば転移だとは判断できないのかも)。
著者によれば癌が見つかった時には既に癌化した幹細胞が体内に広がってしまっており、いつかは別の場所で癌になる(転移する)と考えるのが正しいようです。
中盤では化学療法を例として、癌の完治が実際には不可能なことを説明しています。化学療法では治療できない癌もありますが、薬の効果がある場合には、例えば細胞数が1兆個からなる癌が化学療法で細胞数を1万分の1に減少させます。すると癌細胞の数は1億個になり、癌は小さくて見えなくなります。これで治癒したといっても実際にはまだ1億個の癌細胞が残っており、何れは再発します。
また化学療法では癌が小さくなることを目指すので、癌化した幹細胞から生まれた癌細胞には効果が認められますが、大本の癌化した幹細胞に効果があるのかは分かりません。幹細胞は数が少なく見えないので、薬の効果が確認できないためです。幹細胞が残っているので癌が再発するわけです。
最後の部分は自分や家族に癌が見つかったらどうしたらよいか述べています。癌だと診断されても絶望する必要はありません。癌によりますが、治療後何年も生きる人もいます。ただし癌が体から完全に無くなることはありそうにないので、これで絶対癌が治る、などという根拠の薄い情報に踊らされないほうが穏やかな余生が遅れるでしょう。大概の人は死ぬときには見つからなかった癌を体内に既に持っているらしいので。
癌のスクリーニング検査に対しても最近は医師でも慎重な意見があるようです。検査により癌を早期に発見しても癌による死亡率は変化しなかったからです。
著者の一人であるマコーニックは70歳で、前立腺がんの検査であるPSA検査を毎年受けていますが、数値が高くなっても特に何もせずに翌年また検査を受けるそうです。大体の場合、PSA検査で陽性でも癌でない場合の方が多く、次の年には正常値に戻っています。PSA検査は米国で過剰診断につながるとして医師の間で慎重な意見があるとか。
実は僕自身、4年前に職場の検診でPSAの値が高くなり生検を受けましたが、癌は見つからず、翌年のPSA試験では基準値以内になりました。生検は空振りも多く、痛いし出血があり不愉快だし、感染症のリスクもあるらしい。それに僕の様な老人の前立腺がんは成長が遅く、特に治療しないことも多いとか。
空振りになったがん検診はそれでよかったとも言えますが、陰性だと確定するまで気分が落ち込むので精神衛生には明らかにマイナスです。
癌の検査もほどほどにということかな。
ジョーンズ博士はジョンズ・ホプキンス大学医学部の腫瘍内科の教授ですから、平易な文章でも内容に間違いはなさそうです。
癌細胞というものは、体細胞の元になる幹細胞が突然変異の蓄積により癌化することで生じます。癌化するまでに幹細胞は最低でも3〜7回の突然変異が蓄積しており、癌化の確率は極めて低いものです。
幹細胞が癌化するとその幹細胞から細胞分裂により癌化した体細胞が次々生じ、癌細胞の塊がある程度まで大きくなると各種の検査で癌と判断できるようになります。最初の癌化した幹細胞から癌の塊が見えるようになるまでにはかなりの時間がかかります。人は年を取るほどに突然変異の回数が蓄積し、癌化した幹細胞が生じますが、癌が見つまる前に寿命が尽きる場合も多そうです。
誰でも癌になる可能性があるし、年を取るほどその確率が増えますが、癌になるかどうかはほとんど運しだいで、生活習慣で癌が増えると判っているのは喫煙くらいです。特定の癌では遺伝的な要因もありますが必ず癌になるわけではありません。
癌化した幹細胞も正常な幹細胞と同様に体中を駆け巡ります。正常な幹細胞は元の臓器以外では分裂しないので問題を起こしませんが、癌化した幹細胞は別の臓器にたどり着くとそこで増殖し癌を引き起こすことがあります。これが癌の転移ですが、初期の癌が治療により一旦は完治したとしても、いずれは転移した癌の幹細胞が新たな癌になる可能性があります(時間が経っていれば転移だとは判断できないのかも)。
著者によれば癌が見つかった時には既に癌化した幹細胞が体内に広がってしまっており、いつかは別の場所で癌になる(転移する)と考えるのが正しいようです。
中盤では化学療法を例として、癌の完治が実際には不可能なことを説明しています。化学療法では治療できない癌もありますが、薬の効果がある場合には、例えば細胞数が1兆個からなる癌が化学療法で細胞数を1万分の1に減少させます。すると癌細胞の数は1億個になり、癌は小さくて見えなくなります。これで治癒したといっても実際にはまだ1億個の癌細胞が残っており、何れは再発します。
また化学療法では癌が小さくなることを目指すので、癌化した幹細胞から生まれた癌細胞には効果が認められますが、大本の癌化した幹細胞に効果があるのかは分かりません。幹細胞は数が少なく見えないので、薬の効果が確認できないためです。幹細胞が残っているので癌が再発するわけです。
最後の部分は自分や家族に癌が見つかったらどうしたらよいか述べています。癌だと診断されても絶望する必要はありません。癌によりますが、治療後何年も生きる人もいます。ただし癌が体から完全に無くなることはありそうにないので、これで絶対癌が治る、などという根拠の薄い情報に踊らされないほうが穏やかな余生が遅れるでしょう。大概の人は死ぬときには見つからなかった癌を体内に既に持っているらしいので。
癌のスクリーニング検査に対しても最近は医師でも慎重な意見があるようです。検査により癌を早期に発見しても癌による死亡率は変化しなかったからです。
著者の一人であるマコーニックは70歳で、前立腺がんの検査であるPSA検査を毎年受けていますが、数値が高くなっても特に何もせずに翌年また検査を受けるそうです。大体の場合、PSA検査で陽性でも癌でない場合の方が多く、次の年には正常値に戻っています。PSA検査は米国で過剰診断につながるとして医師の間で慎重な意見があるとか。
実は僕自身、4年前に職場の検診でPSAの値が高くなり生検を受けましたが、癌は見つからず、翌年のPSA試験では基準値以内になりました。生検は空振りも多く、痛いし出血があり不愉快だし、感染症のリスクもあるらしい。それに僕の様な老人の前立腺がんは成長が遅く、特に治療しないことも多いとか。
空振りになったがん検診はそれでよかったとも言えますが、陰性だと確定するまで気分が落ち込むので精神衛生には明らかにマイナスです。
癌の検査もほどほどにということかな。
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1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。
長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。
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- 出版社:丸善出版
- ページ数:0
- ISBN:9784621311660
- 発売日:2025年08月27日
- 価格:3080円
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