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くにたちきち
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弁護士は、社会インフラの柱であるにもかかわらず、その人材が、質・量ともに危機的な状況にあるという編著者たちは、現在の弁護士の供給過程を徹底的に検証し、利用者視点も加えた上で、改善策を提言しています。
この本の、編著者は、大学教授(内田貴)、会社役員(高畑正子、外山和彦、貝沼由久、榊原美紀)、弁護士事務所(山田重則、元榮太一郎、松本三加)、参議院議員(阿達雅志)、弁護士会会長(久保利英明)であり、全員が弁護士資格を取得しているようです。

従って、その視座は、弁護士からのものであり、法曹界全体はもとより、利用者の意見などはほとんど見当たらないのは、当然かも知れませんが、やや一面的であるように思えました。しかし、その現状分析とそれに基づく改善策は、利用者も含め、第三者にも参考になると考えて、紹介しました。

この本の内容は次の通りです。( )内は主な項目を示しています。

はしがき(人口千人当たりの弁護士数は、0.4人に対し、医師数は、2.4人。これでは、不足であるとといえるのではないか…)
第1章「弁護士不足」とはどういうとはどういうことか (司法試験志願者の減少とその理由、弁護士養成の制度設計はどうあるべきか)
第2章 法曹養成改革のタテマエと現実(平成の司法制度改革、内輪からの反対と抵抗、迷走する政府の対応と問題点)
第3章 弁護士ができる仕事、弁護士という人材(経営コンサルタント、経営者、起業家、企業内弁護士、地方の弁護士、国会議員などから寄せられた弁護士の量と質に関わる意見)
おわりに――待ったなしの司法人材改革(官僚の役割の変化、法定外業務の拡大、法廷外弁護士の役割)

第1章で述べられているのは、総論であり、種々の論点を網羅した骨太の論文であり、問題点とその原因、さらに解決法が示されているので、第三者にとっては、参考になると思われます。そこで、まず取り上げているのは、平成の司法制度改革です。

これを年表的にまとめてみると、次のようになります。
2000年から大規模な司法制度改革が実施に移され、まず刑事裁判に裁判員制度を導入
2004年に法科大学院制度が導入され、司法試験受験には、法科大学院修了が要件
2006年、第1回の新司法試験実施、出願者約5万人、合格者1,483人(合格率約3%)

法科大学院発足当時は、法科大学院を修了しさえすれば、7~8割の確率で新司法試験に合格できると喧伝されていたそうです。しかし、それを実現するには、法科大学院の終了者数が多い場合には司法試験の合格者を増やす必要があるというのが当然の理屈ですが、それが実現できず、合格者数は抑えられました。

その結果、司法試験は従来通り難関試験として維持され、法科大学院志願者も激減し、法科大学院の閉鎖が続出し、ピーク時には74校であったのが、現在は34校になり、終了者数も司法試験受験者数も減少したので、合格率は3割台になっているそうです。これは、制度設計に原因があったとされています。

しかし、その原因は、弁護士会を中心に抵抗が強く、合格者数が抑えられたことによるもので、法科大学院修了者の7~8割が合格できるという情報は、制度的な裏付けのないフェイクニュースだったと述べています。その結果として、弁護士不足になり、多様な専門分野の人たちが弁護士になる構想も実現せずに、現在に至っているということのようです。

筆者の推計によれば、今の日本では、民事訴訟数は減少傾向にあり、刑法犯も減少しているそうですが、社会における法の役割は、裁判外の紛争解決や当事者が安価に紛争を解決するなどのプロセスが増加したことにより弁護士など法律家の役割が大きくなっていると述べています。

ちなみに、現在の弁護士数は、45,808人であり、その他に裁判官が約3,400人、検察官が約3,000人で合計約51,000人が、いわゆる法曹関係者とされてますが、それに司法書士約23,000人を加える考え方もあるようです。

しかし、はしがきで、もう一つの専門職である、医師数の現状と問題点に触れていますが、全国に医師が約34万人、歯科医師が約10万人いることで、日常的な医療サービスが受けられていることから、弁護士ももっと身近にいて日常的な相談ができれば、もっとトラブルは少なくなるだろうと述べています。「隣りの芝生は青く見える」ようです。
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くにたちきち
くにたちきち さん本が好き!1級(書評数:782 件)

後期高齢者の立場から読んだ本を取り上げます。主な興味は、保健・医療・介護の分野ですが、他の分野も少しは読みます。でも、寄る年波には勝てず、スローペースです。画像は、誕生月の花「紫陽花」で、「七変化」ともいいます。ようやく、700冊を達成しました。

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