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紅い芥子粒
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小説のかけらや、つぶやき、詩のようなもの、が集められている。カフカ自身が描いたイラストのページも。
短篇集ではなく「断片集」。
小説のかけらや、つぶやき、詩のようなものを集めたものだ。
解説によれば、カフカといえば、「断片」なのだそうだ。

本文181ページの中に、130の断片が収められている。

短いものは、ほんの一行。
長いものでも2ページ。
1ページ以上のものは、短編集で読んだものがほとんどだった。

活字が大きく読み易い。
これは、生前のカフカの希望だという。
『可能な限り活字は大きく、余白は多く』

ページを繰っていくと、ところどころにイラストだけのページがある。
カフカ自身が描いた、いかにもカフカらしい絵だ。
カフカは、生前はあまり評価されずほぼ無名の作家だった。
41歳で結核のために亡くなったが、「原稿はすべて灰に」が遺言だったという。
託された親友が遺言を無視してくれたおかげで、わたしたちは、カフカを読むことができるというわけだ。
近年は、文学作品だけではなく、イラストも評価されているという。

断片集だから、どこから読んでもいい。拾い読みでも、後ろから読んでも。

130の断片の中からいくつか紹介する。
パッと開いて目についたものから。

〔告白と嘘〕

告白と嘘は同じものだ。
嘘をつくことで、はじめて告白が可能になる。
人はありのままの自分を表すことはできない。
人とは言い表すことができないものだからだ。
伝えることができるのは、ありのままの自分でないことだけ。
つまり、嘘だけだ。
合唱の中にようやく、なんらかの真実が見いだせるのかもしれない。

(創作ノート1920年8月/12月)



〔この世の声〕

静まり、消えていく、この世の声

(八つ折り判ノートG)



〔助けて!〕

「助けて!」
「自分でどうにかしろ」
「見捨てるのか?」
「そうだ」
「おれがおまえに何かしたか?」
「何も」

(八つ折り判ノートE)



〔わたしがふれるものは〕

わたしがふれるものは、壊れていく

(八つ折り判ノートE)



おお、共感した。と、思う断片もあれば、これはいい、と思う断片もある。
共感してもお気に入りでも、わかったわけではない。
最後の一行や一語で、あれ?と思うものばかり。
その「わからなさ」に、わたしはひかれる。

読むものがないときに、読みたいけれど時間も余裕もないときに、本棚から取り出して、よくわからないが共感してしまう一行に読みふけるしあわせを、わたしは手に入れた。


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紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:558 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

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