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星落秋風五丈原
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「ポーランドの国そのものが、まさに墓石のない墓なのよ」
 冒頭は、現代のポーランドだ。女性版オスカー・シンドラーと呼ばれる、ポーランド人女性イレナ・センドレルの存在は、長らく秘せられてきた。本家本元オスカー・シンドラーは、スピルバーグの映画で、一躍有名となったのに。

 プロローグは、ゲシュタポに捕まったイレナが、あるファイルを必死に隠そうとしている。そのファイルは、彼女と仲間たちが救い出した、子供たちの本名と出自の記録だ。戸籍に乗せようものなら、ナチスドイツの餌食になる。戦争が終わって家族と再会できた時に、自分が自分であることを証明できる、唯一の大切な書類は、シガレットペーパーに書かれていた。

 本編でイレナの出生に戻る。1939年9月1日、ドイツ軍がポーランドに侵攻して、第二次世界大戦が始まる。戦前、ポーランドにはユダヤ人の富裕層が多く住んでいた。ナチス占領下では、彼等が真っ先にターゲットになる。資産を奪われ、職業を奪われ、ユダヤの星をつけて歩くよう命じられる。

当時ポーランド人は、アーリア人種から一段下がった人種のように看做されており、ユダヤ人と同じく、親衛隊員の気まぐれやお遊びで、通りすがりに撃ち殺される対象だった。自らが救われるために、ユダヤ人を差し出す者もいた。一方で、唯々諾々と従ったポーランド国民だけではなかった。イレナは既に結婚していたが、信奉する教授のもとで、ユダヤ人救済にいち早く動く。その事で夫とも疎遠になるが、彼女には恋人がいた。ナチス占領下のワルシャワのゲットーから、彼女は2500人ものユダヤ人の子供たちを救い出した。あるときは木箱に入れて、あるときはトラックの積荷に隠して、あるときは下水道をつたって、連れ出した子供たちは、仲間たちがかくまい、カトリックに改宗させて偽名を与え、ナチスの目を欺いた。子供の命だけは守りたいという親たちの願いをかなえるために、イレナと仲間達は、文字通り自らの命を賭けた。

 いつか親子が出会えるように、子供たちが自分が誰なのかを知ることができるように、それぞれの本名と出自を記録したリストを作った。ゲシュタポに知られたら、命がないのは火を見るより明らかだったというのに。事実、イレナもゲシュタポに連行され死刑宣告を受けるのだ。本当は、親たちは、戦争後の再会を望んでおり、その時のためのリストでもあった。だが“その時”を迎える子供たちは、殆どいなかった。

 イリナは勿論偉人であるが、彼女に関わった人々全てが英雄と言っても過言ではない。多くの子供たちを救い、ユダヤ人の血脈を守った人たちの、知られざる闘いを描いたノンフィクション。
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2336 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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