ぷるーとさん
レビュアー:
▼
映画化されたというので、改めて読み直してみた。
イギリスの片田舎に住む悦子のところに、娘のニキが訪ねてきた。かつてこの家にはイギリス人の夫と悦子、悦子の連れ子の景子、イギリス人の夫との間にできたニキが住んでいたが、今は悦子一人が住んでいる。
ニキは、家を出ていた景子が父親の葬式に参列しなかったこと、景子の葬式に自分が参列しなかったことにわだかまりを持っていて、ニキの会話はそのことの方に流れていく。
一方、悦子の意識は、離れてきた長崎の方へと流れていく。原爆投下後の荒れ果てた長崎で、妊娠中の悦子は、自分たちが住むアパートから見える瓦礫が散乱した荒地の向こうにある一軒家に住む佐知子と知り合いになる。佐知子は、裕福な家に嫁いで娘万里子ができたが、戦争で今までの価値観が崩れさり、長崎に流れて来た。アメリカ兵の恋人(?)がいてアメリカに母娘ともども連れていくという話が持ち上がっているようなのだが、よくわからない。
よくわからないのは、悦子も同じだ。悦子の長崎の回想では、夫の二郎は会社で上手くやっているらしくみえる。昔からの固定観念に縛られた元教師の父親緒方が同居を望んだのを拒んで別々に住むという新しい考え方の一方で、自分の思うようにならないと癇癪を起こしやすいというところがあり、それがつまずきの原因になったらしいことが暗示されているが、悦子の回想は妊娠中のときとイギリスに来てからのことばかりで、どんな経緯で悦子がイギリス人と再婚したかは全く分からないのだ。
この話のミソは、アメリカに行きたがっていた佐知子の姿が数年後にイギリスに渡る悦子とダブっているというところだ。悦子は、アメリカに行くという佐知子に「娘の万里子さんは大丈夫?」と心配しているのだが、母親の生き方に反抗的で心を閉ざしている万里子はイギリスに行ってから引きこもりになった悦子の長女景子の姿でもあったことが後に明らかになる。
戦争で何もかも無くし、それまでの価値観が崩壊した世界。そんな世界で、自分のアイデンティティを保つのは並大抵のことではない。
佐知子や緒方は過去の固定観念に囚われたままのタイプとして描かれている。緒方は過去にしがみついてそこから離れようとせず、佐知子は過去の名声に見合うものをつかもうともがいている。一方で、名家の夫人だったけれども生きるためにうどん屋を始めた藤原さんや悦子はこれから前を向いて生きていく人として描かれている。
それでも、悦子は、自分の幸せのために景子を犠牲にしたという自責の念を感じずにはいられない。景子の暗い影は、悦子だけでなくニキにも重くのしかかっている。
だが、悦子もニキもなんとか前を向いて生きていくしかない。それこそが自分らしさを保つために必要なことだから。
ニキは、家を出ていた景子が父親の葬式に参列しなかったこと、景子の葬式に自分が参列しなかったことにわだかまりを持っていて、ニキの会話はそのことの方に流れていく。
一方、悦子の意識は、離れてきた長崎の方へと流れていく。原爆投下後の荒れ果てた長崎で、妊娠中の悦子は、自分たちが住むアパートから見える瓦礫が散乱した荒地の向こうにある一軒家に住む佐知子と知り合いになる。佐知子は、裕福な家に嫁いで娘万里子ができたが、戦争で今までの価値観が崩れさり、長崎に流れて来た。アメリカ兵の恋人(?)がいてアメリカに母娘ともども連れていくという話が持ち上がっているようなのだが、よくわからない。
よくわからないのは、悦子も同じだ。悦子の長崎の回想では、夫の二郎は会社で上手くやっているらしくみえる。昔からの固定観念に縛られた元教師の父親緒方が同居を望んだのを拒んで別々に住むという新しい考え方の一方で、自分の思うようにならないと癇癪を起こしやすいというところがあり、それがつまずきの原因になったらしいことが暗示されているが、悦子の回想は妊娠中のときとイギリスに来てからのことばかりで、どんな経緯で悦子がイギリス人と再婚したかは全く分からないのだ。
この話のミソは、アメリカに行きたがっていた佐知子の姿が数年後にイギリスに渡る悦子とダブっているというところだ。悦子は、アメリカに行くという佐知子に「娘の万里子さんは大丈夫?」と心配しているのだが、母親の生き方に反抗的で心を閉ざしている万里子はイギリスに行ってから引きこもりになった悦子の長女景子の姿でもあったことが後に明らかになる。
戦争で何もかも無くし、それまでの価値観が崩壊した世界。そんな世界で、自分のアイデンティティを保つのは並大抵のことではない。
佐知子や緒方は過去の固定観念に囚われたままのタイプとして描かれている。緒方は過去にしがみついてそこから離れようとせず、佐知子は過去の名声に見合うものをつかもうともがいている。一方で、名家の夫人だったけれども生きるためにうどん屋を始めた藤原さんや悦子はこれから前を向いて生きていく人として描かれている。
それでも、悦子は、自分の幸せのために景子を犠牲にしたという自責の念を感じずにはいられない。景子の暗い影は、悦子だけでなくニキにも重くのしかかっている。
だが、悦子もニキもなんとか前を向いて生きていくしかない。それこそが自分らしさを保つために必要なことだから。
お気に入り度:









掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
ホラー以外は、何でも読みます。みなさんの書評を読むのも楽しみです。
よろしくお願いします。
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:早川書房
- ページ数:0
- ISBN:B0F9N97JR3
- 発売日:2025年06月02日
- 価格:1315円
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。
『遠い山なみの光〔新版〕 (ハヤカワepi文庫)【Kindle】』のカテゴリ
登録されているカテゴリはありません。























