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ぽんきち
レビュアー:
2つの裁判員裁判が絡み合う。裁き裁かれ、真相はどこにある?
第28回ミステリー文学大賞新人賞受賞作(この賞は、光文社の関連団体である光文文化財団が主催している。正賞・副賞のほか、受賞作が光文社から出版されることになっている)。

女性容疑者が過去の交際相手を殺したとされる事件。裁判員裁判となることが決まっていた。事件の裁判員に選ばれた面々が、「オリエンテーションがある」と、とあるビルに呼び出されていた。折しも外は大雨で、交通にも影響が出る可能性があるほどだった。
主人公・神山実帆(こうやまみほ)は、補充裁判員として選ばれた。欠員が生じた場合のための要員だが、裁判には最初から参加することになるため、オリエンテーションにも来てほしいと請われた。
ところが、集まった7人は、呼び出した裁判官により、スマホ等を没収され、1室に閉じ込められてしまう。実は、実帆以外の6人は、過去、別の裁判員裁判に関与しており、彼らの評決で無罪となった被告が、その後、有罪であったことが判明していた。
別室へと移った裁判官は、今回の事件では、全員一致で正しい結論を導け、そうでなければ7人のいる部屋を爆破する、と宣言した。
タイムリミットは午前零時。あと6時間。事件の資料はすべて揃っている。
さて、彼らは正しい答えにたどり着けるのだろうか。

なかなか凝った作りのクローズドサークルもの。田舎町のビルの1室なのだが、大雨の中、停電するといった条件も緊迫感を高めている。何より、現代では、電子機器を取り上げられ、外部との連絡手段がないという状態は、精神的に追い詰められるものとなるだろう。

ジャンル的には、あとがきで著者が述べる通り、本格ミステリとして書かれている。一応、伏線はちりばめられ、さほど姑息な感じはしないのだが、ところどころ、力技の印象を受ける。
事件を討論するうち、6人の素性もいろいろとわかってくる。糾弾されるべき人物は糾弾され、次にまた別の人物が槍玉に上がり、事態は二転三転する。
そもそも彼らを招集した裁判官の目的は何か。そして当該事件の真相は。
彼らはひとつの結論に到達するのだが、それは果たして真相だっただろうか。
さらには、事件は実は評議室では終わらない。
裁き、裁かれるどんでん返し。最後の数ページで読者が見る景色はどんなものだろうか。

脳をこねくり回されたような読み心地。少々てんこ盛り過ぎではないかと思うが、時には悪くない。


*著者の衣刀(いとう)信吾という名前もなかなかですが、登場人物にも西志(にし)、元邑(もとむら)、羽水(うすい)と結構こだわりを感じる名前が付けられています。作中、1点、名前の読みがキーとなるエピソードもあります。単なるこだわりかもしれないですが、別の作品等で、トリックに使われることもあるのかも?

*爆発物を仕掛けてなんちゃら、みたいな展開は、小説にも映像作品なんかにもありがちですが、そんな簡単に取り扱えるものなんですかね・・・? (「仕掛けたぞ」という威力業務妨害みたいなやつはともかく)現実の事件ではそれほど聞かないように思うのですが。そうでもないのかな。

選評を読んでいたら、選考委員の作家さんたちが結構温かい言葉をかけていて、ちょっと「へぇ」と思いました。同士、あるいはプレ同士に向けたエール、的なものなのかな。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1821 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)、ひよこ(ニワトリ化しつつある)4匹を飼っています。


*能はまったくの素人なのですが、「対訳でたのしむ」シリーズ(檜書店)で主な演目について学習してきました。既刊分は終了したので、続巻が出たらまた読もうと思います。それとは別に、もう少し能関連の本も読んでみたいと思っています。

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