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ウロボロス
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今年は、戦後80年ということで図書館には、コーナーが展示されており、そこで手に取った一冊です。
この雑誌は、14年前の2011年に「太平洋戦争から70年」をテーマとして文学者のその責任の一端を切り口としたアンソロジー的な内容になっています。ですから内容は「評論」「対談」「戦争にフォーカスした短篇小説」のカテゴリーで編まれています。

詩人・文芸批評家である林浩平の「三好達治と戦争─愛国詩を読み直す─」は吉本隆明の戦時の愛国詩人としての代表格の一人である三好達治への批判を、「いささか短絡的すぎると」いう洞察は秀逸であり、ハイデガーの「開け」という概念を手引きとした論の展開は説得力があった。

安藤礼二の「永遠の夏 ─蓮田善明と三島由紀夫」では、ともに二人が「天皇」に見いだそうとしていたものが《それは始まりでもあり終わりでもある「空白」、あらゆるものがそこから生まれ、あらゆるものがそこに滅し去っていく「無」の場所だった》という指摘はそのまま最近の著作である『空海』に敷衍されているように感じました。

高橋敏夫の「死」を言祝がぬ人々のほうへ
─藤沢周平、山本周五郎、井上ひさし、それぞれの戦争から─もたいへん興味深く示唆的でした。
そして【特別対談】の川村湊と成田龍一の ─3.11からアジア太平洋戦争を照射する─は大変刺激を受けました。原発と核兵器と戦争を同値化する論点がとりあげられ、アメリカに担がれた正力松太郎と中曽根康弘の暗躍の指摘も面白かった。原子力の平和利用としての左翼陣営からのポジティブな評価(野間宏がソビエトロシアの世界初の原子力発電の稼働を称えたのは1954年)、鉄腕アトムのヒーロー化に国民もその危険性を考慮しなかった。冷戦期から冷戦崩壊後の「戦後、後論」としての陰謀論、謀略論が動き出す背景の一つとして、松本清張、五味川純平、山崎豊子を謀略史観とし、黒幕がいて秘密裏に操作していると。それがアメリカでありCIAであると。またこの三者の共通項を「反米容共」であると。(笑)。最後にはチュニジアで起こったジャスミン革命が語られ、大いに啓蒙されました。

小説作品では久生十蘭の『少年』と火野葦平の『象と兵隊』、そして田中英光の『黒蟻と白雲の思い出』が通俗的な「お涙ちょうだい」だけではない、沁みるいい話で、反戦へのメッセージとしてうけとめた。とくに久生十蘭の『少年』の16歳の初年兵(あだ名がお地蔵さん)と上官とのやりとりの中にユーモアを織り交ぜ、そして深い絆で結ばれたラストの結末に涙した。
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ウロボロス
ウロボロス さん本が好き!1級(書評数:277 件)

これまで読んできた作家。村上春樹、丸山健二、中上健次、笠井潔、桐山襲、五木寛之、大江健三郎、松本清張、伊坂幸太郎
堀江敏幸、多和田葉子、中原清一郎、等々...です。
音楽は、洋楽、邦楽問わず70年代、80年代を中心に聴いてます。初めて行ったLive Concertが1979年のエリック・クラプトンです。好きなアーティストはボブ・ディランです。
格闘技(UFC)とソフトバンク・ホークス(野球)の大ファンです。

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