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ゆうちゃん
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ホームズとワトスンが活躍したヴィクトリア朝のロンドンの写真を集めた本。原典を参照しながらも読めるようになっており、ホームズ・ファンには見逃せない一冊。
シャーロック・ホームズが活躍したであろう、ヴィクトリア朝後期から20世紀初頭のロンドンの写真を物語と関連付けて並べた写真集。もちろん、パスティーシュではなく原典(シャーロッキアンは正典と呼ぶ)に基づいている。写真の並び順は第一作の「緋色の研究」から最終作であり最終短編集でもある「シャーロック・ホームズの事件簿」まで出版順である。著者は本書の編集にあたり数千枚のヴィクトリア朝後期の写真を調査したというので本当に頭が下がる。舞台はロンドンなので、ロンドンが殆ど登場しない、もしくは登場してもベイカー街の風景など他作と被るもの、短編なら「ぶな屋敷」「背の曲がった男」「ライゲートの大地主」「三人の学生」「悪魔の足」「獅子のたてがみ」、長編なら「恐怖の谷」は割愛されている。写真が主で、なぜこの写真が載っているかの説明のために、原典を引用している。それ故、引用部分だけ読んでも、物語はわからない。これは既読者、ホームズ物語に精通した人向けの本である。
例えば、第一作の「緋色の研究」の冒頭では、アフガニスタン戦役から帰国してブラブラしているワトスンの肩をスタンフォード青年が叩いた。彼はホームズ物語に二度と登場しなかったが、彼がそうしなかったら文学史上の不朽のコンビは誕生しなかっただろう。その場所はクライテリオン・バー(酒場)であり、その酒場の写真が12頁にある(因みに、バーはクライテリオンの標柱(バー)と言う人もいる)。「四人の署名」では犯人らをテムズ川で警察船で追跡する場面があるが、ロンドン市中を流れるテムズ川の光景写真が多数載っている。第一短編集の「シャーロック・ホームズの冒険」中の「ボヘミアの醜聞」では、ホームズにとってのあの女(ひと)であるアイリーネ・アドラーが住んだセント・ジョンズ・ウッド村の写真がある(50頁)。この村は、ヴィクトリア時代、しばしば紳士の情婦が住んだそうだ。「赤毛組合」の事件では、事件調査の息抜きにホームズは、午後からセント・ジェームズ・ホールでサラサーテの演奏会に行く。ピカデリーのこのホールの写真とサラサーテの演奏会のポスターが載っている(56頁)。もちろんベイカー街の写真もある。この事件の犯人らを一網打尽にするためにホームズは関係者をベイカー街に集めたが、ここでベイカー街を北に臨む写真が載っている(58頁)。「まだらの紐」では、ホームズは、ロイロット博士の妻の遺言書を調査するが、きっと調査先はサマセットハウス(78頁)だろう。ここはホームズ物語でなくても、推理小説で遺言の検認によく登場する。ホームズと言えば、馬車と並んで列車も良く使う。パディントン駅、チャリング・クロス駅、ヴィクトリア駅、ユーストン駅などが載っている。中でも第二短編集「シャーロック・ホームズの思い出」中の「白銀号事件」に登場するクラパム乗換駅の写真(93頁)は、寝台客車のプルマン・カーが載っていて珍しい。「マスクレーヴ家の儀式書」は、ホームズはこの事件が開業してから扱った最初の事件だが当時はモンタギュー街で暮らした。そのモンタギュー街の写真が99頁にある。ハーレー街は医者の街として有名だが、「入院患者」事件に絡め、そこの写真が100頁にある。「ギリシャ語通訳」事件で、ワトスンはホームズと付き合いが長いのに初めてホームズに兄がいると聞いて驚くのだが、その兄の住居として有名なのがペル・メル街(102頁)である。この辺りで初めて、スコットランド・ヤードの写真(108頁)が登場する。第三短編集「シャーロック・ホームズの帰還」中の「犯人はふたり」では、ホームズとワトスンは追う側ではなく追われる側になってロンドン北西のハムステッドの荒野を逃げる。ロンドン近郊の荒野とはどんなものかは、ずっと興味があったが本書で初めて目にすることが出来た(147頁、196頁)。この事件では卑怯な恐喝王ミルヴァートンが、恐喝された貴婦人に殺されるが、ホームズとワトスンはこの貴婦人の横顔を見てしまった。ふたりがそれを確認に行くのが、有名人の肖像を沢山ならべたリージェント・サーカス(147頁)である。「金縁の鼻眼鏡」の冒頭のベイカー街の描写で外は嵐、中は穏やかと言う光景だが、ここにもベイカー街の写真がある(154頁)。長編第三作の「バスカヴィル家の犬」では、物語によく登場する2輪馬車(ハンサム・キャップ)の写真(179頁目)を紹介してくれている。ホームズ/ワトスンと依頼人のモーティマー博士/サー・ヘンリー・バスカヴィルが今後の事件調査の話合いのために会食したノーサンバーランド・ホテルのモデルとなるグランド・ホテルの写真が180頁にある。第四短編集「最後の挨拶」の「赤い輪」事件を解決したホームズは、ワーグナーの夕べを聞きたいと言ってコヴェント・ガーデンの王立歌劇場に行くが、その写真が199頁目にある(この時点で三代目の建物)。「ブルース・パティントン設計書」事件では、被害者が殺害された現場であるコウフィールド・ガーデンズのモデルとなった家コーン・ウォール・ガーデンズの写真が204頁にある。家は原典では実在の家と別の名になっているが、ここがそうだとされた決め手は、地下鉄の地上に出て、その家の付近で一時停止すると言う小説の記述で、こんな場所はめったにない。事件解決後にホームズが食事をしよう、と言ったシンプスンズの店の写真が204頁と225頁にある。このレストランは「高名の依頼人」でもホームズとワトスンが事件について話し合う場所として使われている。「最後の挨拶」事件の解決後にマーサ(ハドスン?)に来てほしいとホームズが頼んだ場所、クラリッジ・ホテルの写真が214頁目にある。第五・最終短編集の「シャーロック・ホームズの事件簿」中の「高名の依頼人」では、ワトスンはクイーン・アン街に住んでいたとされるが、その写真が221頁に載っている。「マザリンの宝石」では、小説の舞台ではないが、文中で言及されるマダム・タッソーの蝋人形館の写真が232~3頁にある。「ソア橋」事件では、ワトスンがチャリング・クロスにあるコックス銀行の地下に保管したとされるブリキの文書箱に語られざる事件に関する書類は収められていると書いている。これは数々のパスティーシュの元となった話が、この「コックス銀行」のモデルが実際のチャリング・クロス、クレイグズ・コートのコックス・アンド・キングズ銀行で、その写真が242頁にある。「隠居絵具師」事件では、事件を解決したホームズはアルバート・ホールのカリーナの歌を聴きに行く。そのアルバート・ホールの写真が253頁にある。

とこういった具合で、ちょっとピックアップしただけでも、これだけの写真がある。写真の数は、200枚はありそう。場所の索引もあり、原典を再読するなら本書で写真を引きやすい。巻末には地図も載っていて、全ての写真でその地図のどこの地点かも明示している(が、地図はかなり印刷が細かい)。難点を言えば、写真は大小さまざまで、その間に縫うように文章が書かれていて、文章を追っていると写真が数ページ前(か先)にある場合が多く、読みづらい点である。
物語は純粋に文章から光景を想像して楽しんでも良いが、ホームズ物語に登場するヴィクトリア朝のロンドンはかなり研究もされている都市空間であり、実際はどんな感じだろう?と思う人が多いのではないか?だとするととても参考になる本である。また、ロンドンは近代の様々な小説や映画の舞台となった。クリスティなどが代表例だが、それらにも登場するサマセットハウスやハーリー街、パディントン駅、アルバート・ホールなどの写真を見ることができるのも興味深い。
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1687 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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