三太郎さん
レビュアー:
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2016年、トランプ大統領が誕生した年に、柴崎さんはアイオワ大学に招待されて10週間アメリカに滞在していた。その時の記録である。
作家の柴崎友香さんは2016年のアメリカ大統領選挙の年の夏の終わりから秋までの三か月、アイオワ大学で毎年開催されるインターナショナル・ライティング・プログラム(IWP)に招待された。その報告がこの本の内容だった。
IWPというのは世界中から数十名の小説家や詩人やシナリオライターが招待されて、10週間共同生活しながら用意されたテーマに沿って討論したり、映画を観たり、大学生相手にレクチャーしたりするらしい。費用はすべて大学もちで、これまでも多数の日本の作家が招待されているとか。すべて英語なので著者はちょっと苦労したらしい。
アイオワ大学は大学と町が混然一体となった大学町で、IWPの参加者は学生会館に隣接するホテルに宿泊した。鉄道は通っておらずどこへ行くにも車だった。参加者はボランティアの住民の車でロデオを観に行ったり、アーミッシュの村を訪れたりした。周囲は一面のトウモロコシ畑で、野生の鹿や七面鳥が見られた。
期間中にニューオリンズへの小旅行があった。ニューオリンズは観光の町だったが、2005年のハリケーン・カトリーナの傷跡はまだあちこちに残っていたとか。著者はこの町で第二次大戦の記念館を訪れた。3D-CGを駆使したテーマパークのようなところだが、欧州戦線と太平洋戦争の2コースに分かれて戦争の経緯を体感できるようだ。著者が入り口で登録するとIDカードが与えられ、太平洋戦争のコースを選ぶと日系アメリカ人の青年の戦争体験が追体験できた。最後は画面を真っ白な閃光が覆い戦争が終わった。母が広島の爆心地の近くで生まれた著者は原爆のシーンは見たくなかったのだが。
IWPのメンバーは最後にニューヨークへ移動して解散したが、著者は大統領選挙の開票日が直ぐだったので数日ニューヨークに自費で滞在して、トランプ大統領の誕生を目撃した。開票日はバーに行くとどこも開票速報を流しており、赤(共和党)が勝つとブーイングが起こった。ニューヨークはトランプタワーがあるものの青(民主党)の支持者が多数派だった。しかし著者の亡くなった父親は戦後の米軍占領下で育ち、アメリカを特に共和党を支持していた。
柴崎さんは選挙戦を振り返ってみて、トランプが勝利した理由は民主党のエリートたちに不満(妬み)を募らせた非エリートの民衆の力だったと思った。というのも柴崎さんが生まれ育った大阪にも似たような状況があり、大阪都構想の住民投票や市長選挙・府知事選挙などでは選挙民にトランプ支持者と似たような感情があると感じたからだ。
実は僕は2016年は2月と6月に米国出張していたが、11月の投票日に現地にいられなかったのがちょっと残念だった。その後、トランプは2024年に大統領に返り咲き、世界は混乱と戦争の時代に突入したが、その原動力になったのは選挙民の妬みや恨みといった負の感情が元にあるように思える。日本の政治においても負の感情が理性では計り知れない結果を生みつつあるような気がするので、そのスタート地点の現場を自分で見てみたかったと思った。
IWPというのは世界中から数十名の小説家や詩人やシナリオライターが招待されて、10週間共同生活しながら用意されたテーマに沿って討論したり、映画を観たり、大学生相手にレクチャーしたりするらしい。費用はすべて大学もちで、これまでも多数の日本の作家が招待されているとか。すべて英語なので著者はちょっと苦労したらしい。
アイオワ大学は大学と町が混然一体となった大学町で、IWPの参加者は学生会館に隣接するホテルに宿泊した。鉄道は通っておらずどこへ行くにも車だった。参加者はボランティアの住民の車でロデオを観に行ったり、アーミッシュの村を訪れたりした。周囲は一面のトウモロコシ畑で、野生の鹿や七面鳥が見られた。
期間中にニューオリンズへの小旅行があった。ニューオリンズは観光の町だったが、2005年のハリケーン・カトリーナの傷跡はまだあちこちに残っていたとか。著者はこの町で第二次大戦の記念館を訪れた。3D-CGを駆使したテーマパークのようなところだが、欧州戦線と太平洋戦争の2コースに分かれて戦争の経緯を体感できるようだ。著者が入り口で登録するとIDカードが与えられ、太平洋戦争のコースを選ぶと日系アメリカ人の青年の戦争体験が追体験できた。最後は画面を真っ白な閃光が覆い戦争が終わった。母が広島の爆心地の近くで生まれた著者は原爆のシーンは見たくなかったのだが。
IWPのメンバーは最後にニューヨークへ移動して解散したが、著者は大統領選挙の開票日が直ぐだったので数日ニューヨークに自費で滞在して、トランプ大統領の誕生を目撃した。開票日はバーに行くとどこも開票速報を流しており、赤(共和党)が勝つとブーイングが起こった。ニューヨークはトランプタワーがあるものの青(民主党)の支持者が多数派だった。しかし著者の亡くなった父親は戦後の米軍占領下で育ち、アメリカを特に共和党を支持していた。
柴崎さんは選挙戦を振り返ってみて、トランプが勝利した理由は民主党のエリートたちに不満(妬み)を募らせた非エリートの民衆の力だったと思った。というのも柴崎さんが生まれ育った大阪にも似たような状況があり、大阪都構想の住民投票や市長選挙・府知事選挙などでは選挙民にトランプ支持者と似たような感情があると感じたからだ。
実は僕は2016年は2月と6月に米国出張していたが、11月の投票日に現地にいられなかったのがちょっと残念だった。その後、トランプは2024年に大統領に返り咲き、世界は混乱と戦争の時代に突入したが、その原動力になったのは選挙民の妬みや恨みといった負の感情が元にあるように思える。日本の政治においても負の感情が理性では計り知れない結果を生みつつあるような気がするので、そのスタート地点の現場を自分で見てみたかったと思った。
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1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。
長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:0
- ISBN:B07M5K2NZT
- 発売日:2018年07月31日
- 価格:1496円
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