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ぽんきち
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「軍事史研究」の意義
『日本軍兵士』の続編にあたるもの。前著は、日中戦争から太平洋戦争の間に亡くなった兵士たちの大量死の実態を史料から明らかにした。本書は、そうした大量死をもたらした歴史的背景を探ることを目的としている。軍事思想の特質、統帥権、日本資本主義の実態といった視点から、明治以降の流れを追う。
前著が兵士側のミクロの視点だったのに対し、本書では制度・体制側のマクロの視点で見ていくことになる。

第1章は明治から満州事変まで、第2章は日中戦争下、第3章はアジア・太平洋戦争末期、第4章で全体を統括する。

明治期、徴兵制が導入された当初は、徴兵逃れの問題はあったが、一般に兵士たちの体格は比較的よかった。軍の規模がさほど大きくないため、体格のよいものを選抜することが可能だったからである。兵士たちには白米が供給され、当時はまだ雑穀混じりの主食を食べている庶民が多かったため、兵士にとっては魅力的だった。ただ、一方で、軍には脚気が蔓延し、これが白米を主食とすることによるビタミンB不足であることがわかるまでにはかなりの時間を要した。海軍ではパン食を取り入れていったことで患者数は激減したが、陸軍では拡大が続いた。とはいえ、パン食にはなじみがなく、また味もいまひとつであったため、抵抗もあり、完全にパン食に切り替わったわけではない。

日中戦争期の戦地の病気で目立った特徴は戦争栄養失調症である。重い荷を背負って長距離を移動し、食事は飯盒炊さん方式。1日歩き詰めに歩いて、夕食を作って食べた後に翌日の朝と昼の分を炊かなければならないので、手間取るとほとんど寝る間もない。
このころには徴兵者が増え、体格が劣っていたり、年齢が高かったりしても兵士になるものが増えてくる。
資源の乏しい日本では、軍での自動車の配備も進まなかった。そのため、重い荷(時には自身の体重の60%を超えるようなもの)を担いだ兵士たちが徒歩で移動するしかなかった。疲労困憊で食料も十分でなく、老衰に似たような状態で死んでいく者が多数いた。精神疾患も多かったという。

アジア・太平洋戦争末期になると、さらに動員は根こそぎとなる。障害のある者も動員されるようになり、「弱兵」「老兵」の割合も増えていく。栄養失調の兵士たちの間には、マラリアなどの感染症も蔓延した。マラリアの場合、抗マラリア剤の原料が火薬の生産と競合したため、火薬が優先されて十分に薬剤製造がなされなかったのも影響した。

著者あとがきによれば、戦争において何があったかを検証する「軍事史研究」は、ときに、戦争を正当化し、戦争を奉仕するものとして忌避されてきたという。とはいえ、実際に何がどのようにして起こったのかを検証することは、なぜ戦争に至ったかを考えることでもあり、反戦派にとっても意義のあることであろう。
但し、敗戦後、廃棄されたものも多かったということか、史料の少ないこともこの分野の研究の難しい点であるという。
巻末史料には、出版されているものももちろん多いが、「非売品」もかなりある。個人の手記や内々で編集したものも多いということか。史料収集の困難さがしのばれ、地道な研究に頭が下がる。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1831 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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